役者にとって成功した役柄のイメージから抜け出すことは簡単ではない。逆に、まったく異なる印象を植え付けることができれば、それは大きな伸びしろを意味する。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が気鋭の俳優について指摘する。

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 NHKBSプレミアムのドラマ『大江戸もののけ物語』(金曜午後10時)は見所が満載です。何といってもまず、主人公がフレッシュ。新海一馬を演じるのは「時代劇に初めて取り組む」岡田健史さん。初めて、というわりには月代(さかやき・頭髪を半月形に丸く剃ぐ)姿がよく似合っています。

 岡田さんの名を聞くと即、『中学聖日記』(TBS系2018年)の黒岩晶を思い出してしまう人もきっと多いのではないでしょうか?  10歳年上の教師・末永聖(有村架純)に一目惚れしてしまった中学生・晶を演じた岡田さん。ひたむきでボクトツ、一直線につっ走る青年の印象が刻まれました。

 それは岡田さんの出自のせいもあるかもしれません。そもそも甲子園を目指していた高校球児で、芸能界からスカウトされても断り続けていたとか。高校卒業後も社会人野球に進むつもりだったのが、演劇の面白さに目覚めて方向転換。オーディションに応募し有村架純さんの相手役に大抜擢、19才での鮮烈デビューという、今どき珍しいシンデレラボーイです。

 あの「晶」の印象があまりに強くて、ぎこちない青年のイメージが焼き付いてしまったからこそ、今回の『大江戸もののけ物語』が面白い。シンデレラボーイの月代姿が新鮮です。単に「時代劇の衣装が似合う」というのではありません。相手の言葉や動きを受けて、ビビッドに反応する芝居がいい。生真面目というよりはマイペース、天然の入ったおちゃめな青年の姿も見せている。どこか一歩引いて全体を見ている雰囲気もあって、岡田さんの役者としての幅と可能性を感じます。

 岡田さん演じる主人公・一馬のキャラクターは、心優しく好奇心が旺盛な旗本の次男坊で剣術が苦手。妖怪に興味をもち研究するうちに妖怪仲間ができる。第二話では吉原へ身売りを迫られたおよう(山田杏奈)を助けるため、天の邪鬼(本郷奏多)や猫又(森川葵)、河童(青山美郷)に力を借りつつ、悪役呪々ガエル(石丸謙二郎)と一騎打ち。

 失敗しながら手探りで難題に向かっていくという、ちょっと三枚目風の味わいもある一馬。という岡田さんの魅力に加えて、もう一つの見所ポイントは妖怪たちのビジュアルのすさまじさと面白さです。特殊メイク&CG合成によって演出された独特な容姿が際だっています。天の邪鬼の顔には火焔土器の破片が張り付いているし、河童はぬめぬめした質感で色も不気味、ぎょろりとした目の動きもリアル。猫又は妙に愛嬌があって可愛らしい。

 また、人の姿から化け物になっていく変身のプロセスも見所です。例えば第二話の呪々ガエルは人の邪気を吸うことを好む妖怪。邪気によって顔もお腹もはち切れんばかりパンパンに膨らみ瞳は歪んでいく。舌はニョロリと伸び、他人の首に巻き付く。という変身シーンを見ていると、そう、あの「エクソシスト」の悪魔に憑りつかれるシーンのように怖いのです。それなのに、目は画面に貼り付いてしまう。奇妙なシーンだからこそ、余計に見入ってしまう──ビジュアルの仕掛けが炸裂しています。

 妖怪の外見は「気持ち悪さを狙って作ったのではない」という点も重要でしょう。人の邪気を喰らう呪々ガエルの気持ち悪い外観=人間の欲望や煩悩の醜さ。つまり、特殊メイクやCGを通して、視聴者は自分たちの醜さに対面させられているのです。

 そして3つ目の魅力は、歴史の深み。ドラマが終わると「荒俣宏の妖怪講座」という解説があり、妖怪たちがなぜ生まれたかを解説してくれる。ドラマの監修も荒俣氏が担当しているだけに、江戸の庶民の暮らしと妖怪との関わりが見えてきて興味深い。

 未知のものは怖い。けれど、江戸の人々はただ怖いからといって排除するだけではなかった。ともに暮らす知恵もあった。自然災害や疫病、苦悩や欲望を反映していたりする妖怪と、どう向き合い、折り合いをつけ、いなしたりすかしたりながら共存していくのか。これもドラマの隠されたもう一つのテーマでしょう。

「先が見えない時代に、人々が抱く不安や恐れが投影されるのです」と妖怪研究の第一人者・小松和彦氏も言っています。日本では疫病を鬼で表現してきましたが、最近では妖怪“アマビエ”が有名になりました。人はよくわからない現象を恐れるだけではなくて、それを妖怪化することによって理解したりいなしたり共存したりしてきたのではないでしょうか。

『大江戸もののけ物語』の醍醐味とは、役者の新鮮さ、特殊メイクやCGを駆使したビジュアル的楽しみ、そして妖怪とともに生きてきた歴史の振り返りと奥深い。コロナという感染症に向き合っている今こそ、ドンピシャのドラマと言えるかもしれません。