早逝した才能を惜しむ声は消えることがない。それでも最後に取り組んだ作品が陽の目を見ることになったのは朗報だろう。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏がレポートする。

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 故・三浦春馬さんが出演予定だったドラマ『おカネの切れ目が恋のはじまり』(TBS系)。お蔵入りという形で封印されてしまう憶測が流れましたが、結局「4回完結」で9月に放送されることが決まりました。前代未聞のこの対処。三浦さんが「亡くなる前日まで撮影していたドラマを何とか見てもらいたい」という役者、脚本家、演出家、放送局ら制作陣の切実な思いと英断を、率直に讃えたいと感じます。

 才能溢れる三浦さんが突然去ってしまったことはあまりにも哀しく残念な出来事でした。繊細な精神と表現、そして大胆さが一人の中に混じりあった、希有な役者さん。『キンキーブーツ』という個性的なミュージカルではドラァグ・クイーン役を演じて徹底的に磨かれた身体と演技を披露し賞賛を集め、読売演劇大賞杉村春子賞を受賞しました。

 また、テレビドラマでも重要な役を数々こなして視聴者を魅了。難病患者や臓器提供者といった複雑な役にも果敢に挑戦した一方で、『オトナ高校』(テレビ朝日系)等でのコメディタッチ&風刺的ブラックユーモアもキラキラ光っていた。『世界はほしいモノにあふれてる』(NHK)の自然体MCとJUJUとの掛け合いも印象的。実にさまざまな面から期待を集めていた人だけに、ほんとうに無念です。

 その三浦さんが演じた新ドラマは、「清貧女」九鬼玲子(松岡茉優)と「浪費男」猿渡慶太のラブコメディ。たとえ数回分であろうと作品として放送されることになった背景には、オリジナルの書き下ろし脚本(大島里美)であること、そして何よりも主役・相手役の松岡茉優さんの意志が関係しているのではないでしょうか。

 松岡さんは自らパーソナリティーを務めるラジオ番組『マチネのまえに』(8月2日TBS)でこう語りました。

「私の個人的な気持ちとして1ヶ月と少し、相手役としてお芝居を受けていた身として、あの素晴らしい猿渡慶太(三浦春馬)という人物を皆様に見てほしいと思いました」「猿くんは彼しかいないなと思います」

 また遺作である以上、視聴者への配慮も欠かせない。松岡さんは「私たちはこの物語を全力で作っておりますが、もし受け取れないかもしれない、つらくて見れないかもしれないという方は、ご無理なさらないでください」とも言いました。

 ドラマが封印されることなく放送決定となったことで、新たに2つの現実が生まれることになるでしょう。

●演じる仕事を通して三浦春馬が表現しようとした、直近の姿を知ることができる
●三浦春馬に対する記憶が自死に留まらず演技そのものによって結実する

 今回の出来事を通して相手役・松岡茉優という人の芯の強さと役者魂もかいま見えたように思います。他の人を配慮し思いを馳せながら、自分の思いにも逃げずに向き合う。そうした力量は、役者である以上、演技を通して表現され続けていくことでしょう。

 7月に封切られたばかりの最新映画『劇場』(又吉直樹原作)においても松岡さんの演技が光を放っています。主人公・永田(山崎賢人)は演出・脚本家の夢を追い続け、時に自暴自棄で自己中心的な行動をとり孤独感を抱えこむダメ男。その永田と同棲している沙希(松岡茉優)は、彼の夢を信じ支え続けている。実は彼女自身も女優になる夢をもって上京したが自分の夢は諦め永田を通じて夢を追いかけるが、次第にきしみが生じ……。

 松岡さんが演じた沙希は、永田という男の一直線な生き方に比べると、矛盾をはらんだ難しい役どころでした。自分の夢を諦めて他の人に仮託したが破綻していく、という沙希。人物の輪郭をブレずにしっかりと把握して、7年間の変化を的確に演じた松岡さんは、行定勲監督から見ても「天才であり努力家」。ものごとに対して俯瞰的で「ある程度考えてそこに自分がこう演じたいというプランに向けて、きっちり準備をしてきて、そこに着地させようとする」(行定勲監督インタビュー「ほんのひきだし」2020.7.16)と松岡さんの冷静さを分析しています。

 そんな松岡さんの意志と俯瞰的な広い視野が、全力疾走した三浦さんの記憶をみんなで分かち合おう、という提案の一端となったのかもしれません。

 9月にこのドラマが放送される前にも、8月15日放送のスペシャルドラマ『太陽の子』(NHK総合午後7時半)で三浦さんの演技に触れることができます。限られた貴重な機会、大切に味わいましょう。