近年、モバイル向けのショートムービープラットフォーム「TikTok(ティックトック)」でシェアされることをきっかけに、爆発的な人気につながる音楽が相次いでいる。TikTokでシェアされやすい楽曲にはどのような特徴や傾向があるのだろうか。

 2017年にリリースされたTikTokは、翌2018年ごろから日本国内で若年層を中心にブームとなり社会現象を巻き起こしてきた動画共有サービスだ。15秒から1分程度の短い動画を作成・投稿することができ、再生速度をはじめとした動画の加工編集が手軽に施せるほか、AWAやLINE MUSICなど各種音楽ストリーミングサービスの楽曲をBGMとして使用できることも特徴になっている。

 TikTokをきっかけに注目を集めた楽曲の一つに、日韓合同のオーディションプロジェクト「Nizi Project」から生まれた9人組アイドルグループ・NiziU(ニジュー)のプレデビュー曲「Make you happy」がある。正式デビュー前にもかかわらず6月に公開されたMVの再生回数はすでに1億回を突破。MVに登場する“縄跳びダンス”をメンバーがTikTokで披露し、タレントの小嶋陽菜や辻希美ら芸能人を含めて“踊ってみた”動画が続出することで、輪をかけるように人気を博していった。

 他にも、ボーカロイドプロデューサーのAyaseとシンガーソングライターのikura(幾田りら)によって2019年に結成されたYOASOBIのデビュー曲「夜に駆ける」も、TikTokで数多くシェアされたことで大きな反響を巻き起こしている。2019年12月にリリースされたものの、YouTubeで公開されたMVのクオリティも相まって半年以上経過した現在も各種チャートを席巻しており、TikTokに投稿された関連動画の再生回数はこれまでに4億回を優に超えている。

 さらにシンガーソングライターの瑛人は、2019年4月にリリースしたデビュー・シングル「香水」が、TikTokを経由することで注目を集めることになった。当初はヒットチャートとは無縁だったものの、TikTokで“歌ってみた”動画が続出することで話題を呼び、2020年4月から5月にかけて音楽ストリーミングサービスSpotifyの「バイラルトップ50(日本)」でトップに君臨。7月24日には人気音楽番組「ミュージックステーション」に出演し、その後、大晦日の「第71回NHK紅白歌合戦」への出場も内定した。現在では「香水」のMVの再生回数は1億回を突破している。

 すでに著名なミュージシャンの楽曲が人気を博すだけでなく、しばしば世間一般にはあまり名前の知られていないミュージシャンの楽曲に注目が集まり、TikTokをきっかけに“バズる”事例が相次いでいるのである。もちろん、流行の要因は複合的なものではあるものの、その一端をTikTokが担っていることは間違いないだろう。

 TikTokではどのような楽曲がシェアされる傾向があるのだろうか。また、なぜ無名のミュージシャンの楽曲であるにもかかわらず、多くの人々がシェアするのだろうか。SNS事情に精通し、TikTokのトレンドを分析した『ビジネスはスマホの中にある: ショートムービー時代のSNSマーケティング』(近刊、世界文化社)の著者でもある、電通メディアイノベーションラボ主任研究員・天野彬氏は次のように解説する。

「TikTokは撮る人が自分の特技や持ちネタを面白く魅力的に披露する『どこでもショーケース』。だからこそ、そこで選ばれる音楽は【1】みんなが知ってるJ-POPやK-POPの流行曲、【2】音に動きや場面転換を合わせやすいダンス系の曲、【3】音だけで感情が刺激されるエモい曲(瑛人やラッパーのRin音など)になるわけです。また、【1】には属さない無名の曲でも、少しずつその動画を見る人が増え始めるとAIがさらに多くの人におすすめするので、人気が高まっていくというサイクルが存在するのです」

 たとえ無名の楽曲だったとしても、TikTokのシステムに組み込まれたAIが同じ楽曲を多くの人々にレコメンドするため、認知度が上がり爆発的な人気につながることがあるようだ。裏を返せば、人間の趣味嗜好をAIが方向づけているということでもある。

 20世紀はマスメディアがそうした役割を担っていたが、未来の流行歌はAIの“おすすめ”が決定することになるのだろうか。インターネットでは個人が自由に興味関心を広げることができるように見える一方、実際には多くの人々の趣味嗜好をテクノロジカルに画一化するためのツールとなってしまっているのかもしれない。

●取材・文/細田成嗣(HEW)