NHK BS4Kで『ウルトラセブン』の4Kリマスター版が放送され、ふたたび注目が集まっているのが、「アンヌ隊員」を演じた女優・ひし美ゆり子だ。今回はその秘蔵写真を特別公開。「流され女優」の粋と艶について、樋口尚文氏(映画評論家・映画監督)が解説する。

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 1974年のイタリア映画に『流されて…』という艶笑コメディがあった。わがひし美ゆり子さんの女優人生を鳥瞰する本をご一緒にまとめていた時に、私はきわめて独特なひし美さんの足跡を一言で言い表すキーワードがないかなと考えていたが、そこでひらめいたのがこのイタリア映画の邦題『流されて…』だった。ひし美さんもお気に召したもようで以後時々「流され女優」を標榜されることがある。

 ではなぜ『流されて…』なのかと言えば、ひし美さんは高校2年の時にさるミスコンに(賞品目当て!!)参加していきなり準ミスとなり、東宝のニューフェイスに採用されて60年代半ばからさまざまな映画やドラマに顔を出す。放映後半世紀を経て、今もなお4K版(※NHKのBS4Kにて毎週火曜午後11:15〜翌午前0:10に放送中)が放映されて話題を呼んでいる円谷プロの『ウルトラセブン』とて、そんなあれこれとこなしていたお仕事の一本に過ぎなかった。

 ビデオもない当時のテレビ番組は一期一会の消耗品だったから、子どもたちに秘かに憧れられていたアンヌ隊員ことひし美さんは、さらりとそんなイメージも脱ぎ捨てて、70年代前半からはコケティッシュな表情とグラマーな肢体の魅力を活かしてB級プログラム・ピクチャーのお色気要員をみごとにつとめあげ、しかし女優という仕事にしがみつくでもなくあっさりと引退して普通の主婦になり、子宝にも恵まれた。

 だが、かつての『ウルトラセブン』でアンヌを見初めた子どもたちが大人になった頃、過去の番組のソフト化やネットの普及によって、自らのヰタ・セクスアリスを彩ったひし美ゆり子といつでも存分に「再会」できるようになった。そのおかげでアンヌ隊員人気が再燃、普通の主婦だったひし美さんは自ら何を仕掛けたわけでもないのに、いつの間にか「アイドル」になっていた。これまさに「流され女優」ならではの椿事であった。

 あの天下の名優・山崎努氏さえもが、ひし美さんのことを激賞した。こんな欲も得もなく「どんぶらこどんぶらこと映画テレビ界を漂流」し、「お気軽女優」を以て任じていた彼女は、「肩ひじ張らない力の抜けたかっこいい女性である」と。

【プロフィール】
樋口尚文(ひぐち・なおふみ)/1962年生まれ。映画評論家・映画監督。早稲田大学政治経済学部卒業。監督作に『インターミッション』『葬式の名人』。著書に『万華鏡の女 女優ひし美ゆり子』(ひし美ゆり子との共著)、『秋吉久美子 調書』(秋吉久美子との共著)のほか多数。

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 多くの人間を今も惹きつけるひし美ゆり子。彼女自身はこう語る。

「こうして今も多くの人が私の写真を見てくれるのは、私の顔が当時の流行の顔じゃなかったからだと思うの。当時は自分でも個性がないと思っていたもの。むしろ今どきの顔だから今のほうが見てもらえているのかも。

 そんな私を当時面白がってモデルにしたのは、東宝専属カメラマンだった石月美徳さん。よくプライベートで井の頭公園や東宝撮影所で撮影していました。まさか50年経ってもこうして雑誌に載るなんてね。フィルムを捨てなくてよかったわ(笑い)」

 写真は『ひし美ゆり子写真集 YURIKO 1967-73 Evergreen』(復刊ドットコム)より。

※週刊ポスト2020年10月30日号