映画史・時代劇研究家の春日太一氏による週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、俳優・加藤雅也が、初めて舞台に挑戦したときの思いについて語った言葉、そして四年前に中村勘九郎と舞台で共演して気づかされたことについて語った言葉をお届けする。

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 加藤雅也は『SAMURAI7』(〇八年)に主演するなど、近年では舞台にも挑戦している。

「四十五歳ぐらいまでは舞台をやっていませんでした。怖くてしょうがなかったから。つかこうへいさんに何回か誘ってもらったこともありましたが、やり切れる自信がない。でも『怖い』とは言わず、『興味がない』という言い方をしていました。

 だけれども、どこかでこれを超えないと俳優として飯を食っていけなくなるのではという思いがあった。そんな時に『SAMURAI7』の話が来ました。コマ劇場の主役ですよ。何十年も舞台をやっている人でも立てないコマでいきなり主役ですから、吐き気がしそうでした。

 それで、もう一回やり直そうと若い人が通うようなワークショップに行く決心をしました。自分で電話して『勉強したいんですけど』って。ジョークだと思われたみたいです。

 僕の中に一番あったのは、見栄とかプライドがあるからダメだと。それを外さないと『俳優』にはなれない。自分はまだ『タレント』の域にいる。

 それでも最初はつらいから『なんでこんな所でやっているんだ』と考えることもありました。でも、その思い自体が間違っているんですよね。変なプライドを持っているということですから。それなら若い人たちから『やっぱり凄いな』と思ってもらえるように頑張るしかないと。そう思わせられない不安があるから、変なプライドで自分を美化するわけです」

 この秋に一般公開される主演映画『彼女は夢で踊る』など、作品の大小を問わずに精力的に出演を続けている。

「大小は関係ないです。とりあえず面白いなと思ったら出るようにしています。

 それは『数の理論』です。中村勘九郎さんと四年前に『真田十勇士』という舞台をやらせていただいたのですが、年齢は僕より二十歳くらい下で、芸歴は同じ。でも、芝居のレベルが全く違うんです。それは、勘九郎さんが毎日のように舞台に立ち、磨き上げられたからだと思います。

 それに比べたら、僕は圧倒的に少ない。何かを習得するためには、想像を絶する数をやらなければならないと改めて気づきました。

 これは時間との勝負です。しかし、一日は二十四時間しかありません。あと二十年やれたとして、七十七歳です。健康を維持しつつ俳優をやれるのは七十までとすると、あと十三年しかありません。一年に十本やったとして、百三十本しかできません。でもその間に、勘九郎さんは何本やっているのか、芝居にどれほどの時間を費やしているのか──。この四年の間に、さらにその数の差は広がっているわけです。だから、追い抜くことは絶対にできません。

 それなら、映画やテレビドラマだけでなく、ラジオもバラエティ番組も、片っ端から出演して、いつもオンの状態でやらない限り勘九郎さんの域に行くのは無理だと思ったんです。一本の映画から一つ得るのではなく、一本の映画から十の何かを習得しなければならないと」

【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。

■撮影/藤岡雅樹

※週刊ポスト2020年11月6・13日号