ここで男女逆転したら、面白くなるんじゃないか。そんな発想で作られるコンテンツはこれまでにもあったが、『バチェラー』の男女逆転版を日本で作るのはまだ先になるだろう思っていたら、『バチェロレッテ・ジャパン』(Amazonプライム・ビデオ)が制作、配信された。コラムニストでイラストレーターのヨシムラヒロム氏が、単純に男女逆転の面白さを超えた興味深いコンテンツになった『バチェロレッテ』の面白さと、笑ったあとに襲ってくる恐ろしさについて考えた。

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 10月9日からAmazonプライム・ビデオで配信されている『バチェロレッテ・ジャパン』にハマっている。外見も良く、リッチでもある一人の独身男性(バチェラー)を多数の女性が奪い合う『バチェラー・ジャパン』の男女逆転版だ。今回は一人の独身女性(バチェロレッテ)を巡って、17人の男性が戦っている。

『バチェラー』は過去3シリーズ配信されている。個人的にシーズン1が最高潮であり、シーズン2、3と視聴するテンションが下がっていった。それゆえ当初は、『バチェロレッテ』ってどうなんだろうと疑っていた。

 しかしエピソード1を観て、考えを改める。この2つの番組の目的は「真実の愛」の発見であり、どちらも各エピソードの終盤で残るメンバー、落とされるメンバーが決まる。同じコンセプトとルールで番組は進行していくわけだが、男女が逆転した『バチェロレッテ』で描かれた恋愛ドラマは『バチェラー』とは異なっていた。

 一般男性にとって『バチェラー』は対岸の火事、つまり他人事だったと思う。そのため、浮世離れした男女のやりとりを、バラエティ番組を観るような気軽さで眺めることが出来た。だが、『バチェロレッテ』は違う。今作でバチェロレッテ役を務める福田萌子は、舐めた態度での鑑賞を許してくれない。福田は男性に芯の強さを求めている。

 番組で語られる芯の強さの正体を知りたくて、取材で会った『バチェラー』出演者の女性陣に、バチェロレッテ・福田が欲する男性像がどのように見えているのかを聞いたことがある。その際、「福田さんは『この人の子供が産みたい!』と思う男性を求めていると思った。やっぱり女性は強い遺伝子が欲しいんだよね」と返答された。

 年収、社会的地位、外見にこだわらない福田は、男性が普段見せることを好まない素の部分を最も気にする。福田の「あなたはどうなの?」という問いかけを番組内で何度聞いたことだろう。この問いかけが、福田に気に入られたい男性たちを困惑させ、ときに滑稽な言動を起こさせる。

 意中の相手に対し、良いところを見せたいのは誰しも同じ。バチェロレッテ出演の男性たちも、少しでも自分を大きく見せようと奮闘する。ただ、福田はそんなことを求めていない。当初、その張り切りがゆえに勘違いをする男性のドタバタっぷり、矛盾を福田に問い詰められた際の慌てふためきを観ては笑っていた。しかし、「これが自分だったらどうなるのだろう?」なんて考え始めれば、気軽に観てはいられない。緊張がゆえ、僕は手をギューっと握っていた。

『バチェロレッテ』は基本的には笑って観られる番組であるが、ただちょっと怖いところがある。その怖さこそが魅力であり、過去に触れてきた恋愛リアリティーショーや『バチェラー』とも違う。

説教をされている姿に当初は爆笑も

 素人が出演するリアリティーショーは、自分と似たキャラを発見し、感情移入しながら観るのが楽しい。今回の参加男性の17人の内、僕が感情移入してしまったのが藤井達也である。「1000人切り」のイベントオーガナイザー、藤井と僕では経験人数に天と地の差があるが、エピソード1の顔見せパーティーの時点ですでに自分を重ねていた。

 入れ替わり立ち代わり、バチェロレッテ・福田と男性がトークする中、やっと藤井のターンが訪れる。そこで藤井は酒好きな福田に「僕は相手に合わせて飲む。お酒が好きってよりも、お酒の力を利用してその場を楽しむ! 家では飲みたいとも思わない」と話しかけた。僕も全く同じ飲み方をしている。

 初対面から2人のテンションは合わない。福田は藤井に「無理しなくていいと思う。すごく気を使い屋さんなのかな……。気を使っている達也さんは私からするとまだ距離がある感じがする」と助言する。核心を突かれた藤井は「オッケイ! ハハハハハッ」と笑う。パーティー後の単独インタビューで藤井は「『バチェラー』史上、初めてじゃないすか! 説教されたんですね、僕」と更に笑う。

 説教をされている藤井を観て、当初は爆笑していた。しかし、僕も女性からよく説教されることに気づき、ハッとする。インタビューで説教をされたことを勝ち誇る態度にシュンとする。これも僕がよくやっている行動じゃないか……。自信がないから道化を演じる、また自身の道化っぷりが案外通用することも理解している。だが時折、我々の態度を見逃してくれない外敵が現れる。そういった人との相性は最悪だ。

 ところが藤井は相性の悪い相手から、運命の人として選ばれるために『バチェレロッテ』に参加している。この歪さをなかったことにするかのように、藤井は福田の助言を勝手に説教と変換し、「怒られた!」と2度も笑う。本心では、自分の素顔を見られたことに若干怒っているはずなのに………。

 自分に自信がない人間が、外に向けてどんな顔でごまかすのか、僕はよく知っている。ちょっと変わった個性的で面白い人を自己演出する。”ユニーク”という化粧でコーティングし、道化でいることが癖になっている人が、本当の自分を相手に伝えて表現することなど出来るわけがない。

「外見だけで完璧と言える?」

 藤井の道化ぶりは、2回目の説教によって引導を渡されるまで続く。福田の故郷・沖縄で藤井は突然1on1デートの誘いを受ける。デート中にバラをもらえなければ脱落するシビアな催しだ。

 外に置かれたソファーで2人きりの空間、福田は藤井に自分の理想像は何かと尋ねる。藤井は「イベントオーガナイザーとして楽しい空間を作りたい」と返答するが、「それはお仕事でしょ」とバチェレロッテは納得しない。芯の強さを求める福田に応戦できる言葉を持たない藤井の気持ちが痛いほどわかる。コチラはとっくの昔に自分なんか捨てているわけで……。福田が大切にしている自分というものが、道化ることで全てのことをネタと言って、やり過ごしてきた我々にはない。

 続けて、福田は「私のことをどう見えている?」と藤井の目を見つめる。先ほどの問答でライフも削られ、思考力が弱っている画面の中の僕こと藤井は「すごい完璧な存在、キレイ、カワイイ、スタイル最高!」と余裕を繕う。キレイで人差し指、カワイイで中指、スタイル最高で薬指を立てた福田は「外見だけで完璧と言える?」と少しイライラ。2人の問答は更に繰り返されるが、受け答えは成立しない。結果、藤井はバラをもらえず脱落する。

 ソファーから福田が去り、一人うなだれる藤井は真っ白になっていた。ホセ・メンドーサと戦った後のジョーに似ている。芯の強さ以前に芯がない日和見主義者である僕の分身・藤井はこうして灰になり、ネタとしてすべてをやり過ごすテクニックが通用しない強敵との戦いは終わった。まるで力を出し切った高校球児のように清々しく現れた敗戦後の藤井は、もっといい男になって戻ってくると宣言した。この言い方が最もウケると知っていて言っているのが、僕には手に取るように分かる。複雑なはずの本音を隠すことに我々は慣れすぎて、自分が実感していることをストレートに伝えることが出来ない。本当の思いそのものがどこかへ行ってしまったままだ。

 自分=藤井なことから、藤井について長いこと言及をしてきたが、実は他の出演男性も大きくは変わらない。皆どこかしら至らない点があり、福田はそこを見逃さない。

 しかし流石はバチェレロッテ、問いかける姿勢はどこか高貴だ。素朴だが中身がしっかりと詰まった質問をコチラの目をじっと見つめて、投げかける。視聴者は狼狽する男性陣を観て、自分を重ねるはずだ。そして、今まで逃げてきたことと対峙する。こういった機会が提供されることが、番組を視聴する意味である。僕らは「アナタは何者ですか?」と聞かれた際、仕事以外で自身を表現できる言葉を身につけなければいけない。つまり、『バチェロレッテ』は女性にどこか畏怖を感じてしまう臆病な男性の見本市である。ビビる男たちをまとめて見られる面白さに、藤井がいなくなっても続きが気になって見続けてしまうのだ。 バチェラーに似たスペックを持つプライドがゆえに本心を出せない男性、屈託のない笑顔で第一印象は良いがそれ以外は武器を持たない男性、スーツ作りを愛しているとアピールするが途中でホテル王になりたいと語る一貫性に欠ける男性、と『バチェロレッテ』に集った男性たちは、皆どこかが足りない。だが、彼らが特殊な男性というわけではない。ごくありふれた、いや、世間ではたぶん高評価を受けているであろう男たちだ。だが世間の高評価は、福田が求める「運命の人」として、さして重要な要素ではないらしい。

 ちなみに『バチェロレッテ』という番組で最も足りない部分を露呈したのは、司会者を務めるナイティナインの岡村隆史だったりもする。エピソード1の冒頭、参加メンバーが続々と映し出されるシーンを見て「『バチェロレッテ・ジャパン』と言ってるのに、明らかにジャパンじゃない人が紛れ込んでいましたけどね!」とツッコミを入れていた。

 コラムニストの末席にいる僕ですら、自分の中にある差別や思い込みを自覚し、日々検証をしている。誰にもうなずいてもらえないコラムを書いてしまわないためだ。大物芸人であり、誰よりも声が届く岡村さんもそろそろ気付いて欲しい。表現者なのにも関わらず、多くの事柄に無自覚な自身の危うさに……。

●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで月一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)