マッチング、流行りの言葉だが作品における役者同士の関係においてもその良し悪しは歴然とするものだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。

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 吉高由里子・妻夫木聡主演の『危険なビーナス』(TBS系日曜21時)は、本日15日放送の第6話を前に折り返し地点へ。視聴率は初回14.1%から第5話までずっと二桁をキープしています。さすが東野圭吾氏の同名小説が原作だけあって、謎解きの要素が多々仕込まれミステリアスな展開に惹かれる視聴者も多いはず。まずは「犯人は誰なのか」を考察する愉しみがありますが、加えて他の味わいも見逃せない。

 その一つが、役者の存在を味わうこと。特に、謎めいた女・楓。吉高由里子さんが演じる楓の存在を視聴者が素直に受け入れるかどうかで、このドラマを存分に楽しめるかどうかが決まる……くらい大きな役どころでしょう。

 矢神明人(染谷将太)の失踪事件をきっかけに「彼の妻」だとして現れた楓。明人と父親の違う兄、独身獣医の手島伯朗(妻夫木聡)は美人に弱い性格でもあり、楓と共に明人を捜し始める。失踪した明人は矢神家の血を引き30億円という巨額遺産の相続権を持っている。その遺産を巡って、次々に不可解な事件が発生し……吉高由里子さんが演じる楓は、クルクルと表情を変えていきます。

 クールな横顔で知的な戦略を立てる策士かと思いきや、天然ぼけのような風情を見せたり。ぽってりと丸い頬を膨らませ表情を歪めて崩してみたり。口をとがらし目玉はせわしなく動き、眉も上下する。その幼さを強調した表情の裏には、別の冷徹な顔もありそうです。

 口調も妙で、わざとかと思えるほど滑舌は良くなく、「お兄様」「叔母様」とやたら「様」が出てくるセリフは舌足らず、どこか甘えた風でもある。かん高い声ではしゃぐかと思えば、アルトの低い響きで事態を推理し次にとるべき戦術を伯朗にささやく。正体不明の楓。その散乱したイメージがドラマの味わいになっています。

 これはまさしく「狙った」役作り。いくら視聴者が目を凝らしても、どんな人なのか、なかなか焦点が合わない。楓というビーナスのイメージが乱反射すればするほど、謎もまた深まっていく。「楓に翻弄されたい」という潜在的な視聴者の願望を刺激して引っ張っていく。

 吉高さんは高校生の時にスカウトされて業界入りし「女優への憧れは全く無かった」と語る個性派。十代で主演した映画『蛇にピアス』では物怖じせずヌードになったりボディピアスに傾倒する女性を演じ切るなど、かなり度胸の据わった人だろうと想像できます。

 とはいえ、演じる役と本人の性格とは別もの。最近作でいえば『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)で筋の通ったまっとうなOLを演じ、『知らなくていいコト』(日本テレビ系)では週刊誌記者として核心に迫るクールな女性を演じ切りました。

 つまり、過去のドラマでいろいろなキャラクターになっているように、今回の楓も意図した「わかりにくい」不可思議な人物なのでしょう。性格も思考回路も特定できない、特定されないという役を演じるのは、吉高さんにとっても挑戦です。

 その楓の存在をきっちりと支えているのが、正義感が強くてウソのつけない伯朗を演じる妻夫木聡さん。ミステリアスな楓との対比がはっきり描き出され、白と黒、裏と表のようにピタリとはまっています。ブレない定点としての妻夫木さんの存在があるからこそ、より一層、楓の散乱したイメージが際立つことになる。“危険なラブサスペンス”を謳うこのドラマ、伏線の回収や犯人捜しの面白さを取り沙汰するだけでなく、そんな役者たちを見る愉しみがあります。

 そしてもう一つ、脚本の中に「家族を信じること」が主題として仕込まれています。「信じること」によって人間に新たな可能性や局面が開かれ、それが救いにつながる、という一貫したテーマが強調されます。その一方で皮肉なことに、伯朗が楓という存在を信じれば信じるほど、欺かれているのかもしれないという不審も膨らんでいく。この両天秤がこのドラマの文学的醍醐味。いよいよ後半に突入、どれほど視聴者を心地よく翻弄しどのような形で着地してくれるのか。注視したいと思います。