空前のお笑いブームと言われる中、ピン芸も独自の発展を遂げてきた。その最前線であり続けた「R-1グランプリ」(カンテレ・フジテレビ系)の決勝戦が3月7日に行なわれ、ゆりやんレトリィバァの優勝が話題となった一方、番組進行の混乱を巡っては物議も醸した。今年からリニューアルされた同大会の舞台裏を、ノンフィクションライターの中村計氏がレポートする。(敬称略)

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 ねらい通りの顔ぶれとなった。今年のピン芸人日本一を争う「R-1グランプリ」の決勝は、10人中8人が初出場だった。

 今年から芸歴10年以内という出場制限をかけた理由を、演出を担当する関西テレビの塩見真生はこう語る。

「荒削りであっても、鮮度を優先しようと思った。ここ数年、よくも悪くも、決勝メンバーがおなじみの方が多くなっていた。そのぶん、ネタの質は保証されますが、フレッシュ感は薄れていく。それによって若手芸人さんのモチベーションが下がってしまうのも心配でした。なので、R-1に貢献していただきながら出場できなくなってしまった芸人さんたちには大変申し訳ないのですが、腹をくくって区切らせていただきました」

 フレッシュさで言うと、一等星の輝きを放っていたのは高田ぽる子だ。芸歴2年目、史上最年少となる22歳で決勝進出を決め、「おじいちゃんの乳首がー」と歌いながらおじいちゃんの乳首を買いに行くという珍芸を披露し、堂々の4位に食い込んだ。

 今大会は出場制限以外にも、MCを若手コンビの霜降り明星に替えたり、審査員を大幅に入れ替えたり、あるいは、表記を「R-1ぐらんぷり」から「R-1グランプリ」とカタカナ表記に変更するなど、大小さまざまな変革に踏み切った。出場制限や、「グランプリ」というカタカナ表記などは、日本最大のお笑いイベント、M-1グランプリ方式を模倣しているようにも映る。塩見が続ける。

「これまではM-1と差別化をはかろうとし過ぎて、お祭り感をだしたり、点数制をなくしたりしていた。でも、M-1は完成されたイベント。だったら、プライドを捨てて、参考にさせてもらおうと思ったんです。全部真似したわけではないんですけど、M-1のような緊張感のあるレースを意識したら、結果的に似てきたところもありました」

「芸人愛」がとにかく強い

 じつは、全国ネットの賞レースという意味では、R-1とM-1はもう1つ共通点がある。M-1の制作は朝日放送なのだが、ともに関西キー局が手がけているのだ。お笑いの本場の局員だけに「芸人愛」がとにかく強い。塩見の口調が熱を帯びる。

「きれいごとに聞こえるかもしれませんけど、賞レースを担当している人間にとって、視聴率など以上に芸人さんを思っているところがある。去年はコロナの関係で、無観客でやらざるをえなかった。でも、今年は芸人さんのためにも絶対にお客さんを入れたかった。たとえ大阪の会場になろうとも」

 芸人にとって、客の笑い声は「ガソリン」だ。ガソリンを給油することで、勢いを持続することができる。つまり、無観客でやるということは給油なしでレースに臨むようなもの。それはさせられなかった。そのため、今年は客を入れられることを最優先に会場を選定。R-1史上初めてのクールジャパン大阪で開催されることになった。

 今大会は客の笑い声が戻って来て、芸人もその声に乗って行った。その中で、いちばん大きな波に乗ったのは、5回目の出場で悲願の初優勝を飾ったゆりやんレトリィバァだった。

 塩見にはもう1つ、実現したいことがある。

「R-1で優勝した芸人が、その後、あんまり活躍してないと言われることが多い。これまではお祭りっぽくやっていたから王者感がなく、ふさわしい扱いをされなかったのかなとも思う。なので、チャンピオン感の出る大会にしていきたい」

 R-1は確かに生まれ変わった。そして、新生R-1にふさわしい王者も誕生した。ただ、ひとつ誤算だったのは、今大会の王者はすでに売れっ子だったことだ。王者をお笑い界のスターに──。その宿題だけは、来年以降への持ち越しとなった。

※週刊ポスト2021年4月2日号