父・花田光司氏(元・貴乃花親方)との間に生じている行き違いや、靴職人でありながら歌手やアートなど多方面で活動することへの疑問、本当に靴を作っているのか等々、何かと世間の反発を受けがちな花田優一氏。その素顔を探るべく、週刊誌でライターとして活動する西谷格氏が優一氏の工房に“弟子入り”した修行初日の様子を西谷氏がレポートする。(別稿で花田優一氏本人のレポートあり)。

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「うちの工房で靴づくりの修行をして、その様子をルポしてみませんか?」

 花田優一氏からこんな提案を受けたのは、インタビュー記事を掲載してからしばらく経ってからのことだった。思いも寄らない話だったが、先の見えない展開に、興味が湧いた。

 靴職人として働く優一氏に対する世間の目は厳しい。注文者を数年単位で待たせていることもあり、“本当に靴作っているのか?”、“ちゃんと修行したのか?”などの疑念を持つ人も少なくない。

 優一氏が敢えて週刊誌記者を弟子として工房に招き入れ、その様子を記事にすることを許したのは、そういう疑いを晴らすためでもあるのだろう。あるいは、芸能活動をする上で、多少なりともネットニュースに名前が出るのは、プラスになるのかもしれない。ともあれ、正面からの取材ではなく、弟子として靴作りを教わる中で、優一氏の人柄や考え方、家族への思いなんかも見えてくるかもしれない。

 靴作りは、完全に未経験。期待と不安が同じぐらいの分量で入り混じっていたが、まずはやってみることにした。

受け答えは「好青年」

 修行初日。午前10時に千葉県柏市内の工房に到着した。3階建ての古びた一軒家を改造したのもので、外観は本当にただの民家。電話をかけたが反応がなく、どうしたものかと思っていたら、9時半過ぎにメールが届いていたことに気がついた。

“こちらの予定が少し押しておりまして、10:45くらいの到着になりそうです。すみません!”

 近くの公園でしばらく時間を潰したが、道路が混んでいたらしく、優一氏は11時15分ごろクルマで到着。

「どうもすみません、お待たせしてしまいまして!」

 運転席から降りるなり、優一氏はこう言って詫びた。初対面のときから感じていたが、受け答えは、すこぶる好青年なのだ。

 工房にお邪魔して、荷物を置いた。弟子入りという響きから、掃除や雑用といった「3K労働」から始まるのかと思いきや、優一氏は修行プログラムをあらかじめ考えていてくれていた。挨拶もそこそこに、早速指導が始まった。

「まずは木型をもとに革を縫っていけるようにしましょう。最初は、木型にマスキングテープを貼って、型紙を作るところから始めます」

 木型に3枚のテープを貼り、立体を平面にする作業を行う。なるべくシワを作らず、無駄なく効率的にテープを貼らなくてはいけない。優一氏は難なく貼っていたが、いざ自分が貼ろうとすると、テープの角度や重ね方、長さなど細かい部分で何度もまごついてしまった。

 それでも3回ほど繰り返していると、少しはサマになってきた。

「いいですね、上手くなってますよ!」

 一区切りついたところで、近くのレストランで一緒にランチに行った。

苦笑いの「ランチ」

 優一氏はカツカレー、私はハンバーグを注文した。

「あ、すみません、手止めちゃって。注文いいですか?」

 私の前だからかもしれないが、優一氏は店員さんの前でも極めて物腰が穏やかで、口調も丁寧だった。料理が到着すると、優一氏はいつの間にか箸袋を畳んで箸置きを作っていた。

 通常の取材だと、“次は何を質問しよう”、“こんなことを聞いたら気を悪くするかな”など、頭をフル回転させて会話に臨むが、この日はあくまで師匠と弟子の関係。むしろ、弟子が師匠に向かってアレコレ質問するのは不自然なので、黙々と料理を口に運んだ。

 私が大してしゃべらずにいると、優一氏が時々話しかけてくれた。

「うちにいらした時って、取材の目星を付けてから来られたんですか?」

 前回のインタビュー取材を申し込む際、私は優一氏を自宅で直撃していた。

「そうですね。ピンポンするのが良いか、家から出てくるのをじっと待つほうが良いか、結構迷うものなんですよね」

「どっちも嫌だなあ……」

「いやあ、申し訳ないです」

 お互い、苦笑いするばかりだった。

 レストランからの帰り道、私が神奈川県藤沢市出身だと伝えると、こう言っていた。

「昔、お付き合いしていた子が藤沢に住んでいたので、よくクルマで遊びに行ってたんですよ」

 いつ頃の話だろう。イタリアの修行から帰ってきた頃だろうか。しかし、その年齢でクルマを持てるって、やっぱりボンボンなのかなあ。そんな疑問もよぎったが、弟子という立場を考えて、深くは追及しなかった。

指導者としての印象は「教え上手」

 午後。工房に戻ると、皮革の輪郭の厚みを整える技法を教わった。「革スキ」と呼ばれるもので、革と革をつなげる際などに、なめらかに仕上げるための工程だ。イタリア語で「トリンチェット」と呼ばれるナイフで、革の周縁を薄く削りとる。こうすることで、2枚の革を重ね合わせたときに、デコボコせず圴一につなぎ合わせることができるのだ。

 優一氏に手本を見せてもらってから真似たが、これがまたかなり難しい。ナイフ握る右手の力加減、革を押さえる左手の位置、二の腕の開き方、身体の姿勢、目線の動かし方などなど、色々なことに気をつけないといけない。しかも、刃物を扱っているので、気を抜くとケガをする恐れがある。削る瞬間には、集中力が必要だ。

 最初はいびつだったが、何回か繰り返すうちに、少しずつコツが分かってきた。

「めっちゃうまいですよ。初めてとは思えない! 才能あるんじゃないですか?」

 リップサービスかもしれないとは思いつつ、誉められるのは嬉しいもの。なかなか教え上手なのだ。

 夕方まで練習を続けると、すっかりくたびれた。

「結構疲れるでしょ。一日働いて疲れて、それで『靴作ってないだろ』ってネットとかテレビで言われているのを見ると、本当に腹立つんですよ」

 優一氏の靴職人としての力量がどのぐらいかは、正直まだ分からない。ただ、少なくともまったくの素人ではないことは、はっきりと分かった。いつまで修行が続けられるか、師匠と弟子の関係をうまく続けられるか、まだまだ手探りで不安もあるが、しばらく頑張ってみようと思う。

■取材・文/西谷格(ライター)