北川景子、永山瑛太主演の連続ドラマ『リコカツ』(TBS系、金曜夜10時〜)で話題になっている役柄がある。それが永山演じる航空自衛隊員・緒原紘一と同じ職場の副パイロット・一ノ瀬純(田辺桃子)だ。ドラマオタクのエッセイスト・小林久乃氏が、略奪愛が描かれるドラマの “法則”について分析する。

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『リコカツ』の一ノ瀬純という役を振り返ってみる。ドラマ開始時から、永山瑛太演じる紘一が既婚者と知りつつ好意を寄せて「自分のほうが奥さんより紘一に似合っている」と信じ、行きすぎた行動に出てきた。

 まずは第2話で、紘一の職場仲間とその家族を集めた屋外でのバーベキュー中。純はわざと妻の咲(北川)を森の中で遭難させるように誘導していた。単純な意地悪だ。このあたりからSNS上では「自衛隊員が人を困らせていいのか」「なんだこの女!」とバッシングが飛び交い出す。私も同じ気持ちでイライラしていた。

 そして第4話で視聴者をさらに腹立たせることになる事件が勃発。緒原家でホームパーティーを開いた時のこと。純は手土産にお手製の「おでんと筑前煮」を持って現れたのだ。この“おでん”がどうにも引っかかった。

ドラマにおける“略奪愛とお出汁”の親和性

 そもそも他人の家にお邪魔するのに、おでんを持ち込むことに違和感がある。デパ地下には数多のおしゃれが止まらない手土産が売られているのに、敢えての“おでん”と“筑前煮”の家庭料理で、妻に向かってマウントを取ってくるとは……。

 妻・咲は料理が苦手。家庭の味に飢えていた紘一は嬉しそうに食べていた。さらに純は2品を前にしながら「私たち、新婚みたいですね」と、サイコパスな一言を発射。彼女がしていることは純粋さを装っているけれど、ただの不貞行為へのステップだ。

 そう考えていると、『東京ラブストーリー』(フジテレビ系・1991年)の関口さとみ(有森也実)を思い出した。彼女はおでんを男性宅へ持ち込んだ女性の“パイオニア”である。主人公の永尾完治(織田裕二)が恋人の赤名リカ(鈴木保奈美)と別れそうになっている絶好のタイミングを狙って、鍋ごとおでんを持って永尾家に登場。そして「行かないで」と出汁の香りとともに、完治を引き止めて結果的に2人は夫婦となった。

 完治がリカのもとへ行く瞬間をさとみが狙ったかどうかは、不明である。でも鍋のまま襲来するとは、完璧な猛者。視聴当時は男女のあれこれについて良くわからないまま見ていた子どもだったけれど、「おでんは危険な食べ物かもしれない」とだけは記憶した。

手作りおでんは静かなる愛の餌付け

 おでんと恋愛の関係性を考える上で、もう一点、紹介したい作品がある。ドラマ『美しき罠〜残花繚乱〜』(TBS系・2015年)だ。田中麗奈演じる34歳の西田りかは、上司の柏木(村上弘明)と不倫関係にある。実ることのない恋愛、やめようと思いながらも柏木の手を離すことができない。

 そんなりかは柏木が自宅へ来るたびに、手作りのおでんを用意していた。他に料理のレパートリーがないのかと思うほど、毎度おでんばかり。安酒と自分が作ったおでんを喜んでくれることが、りかの喜びだったとか。

 当時この作品は清純派の田中麗奈が不倫女を演じるということが、話題の一つだった。しかし私はそんなこともよりも、関口さとみに続くおでん伝説が始まるかもしれないと、不謹慎にもワクワクしてしまった。

 おふくろの味にカテゴライズされるメニューを男性に披露するのは、女性のテッパン恋愛ワザである。男性はどうもあの地味かつ、くせになる旨味成分の出汁に餌付けされてしまうらしい。今後、女性におでんを振る舞われたら、それは結婚を匂わせるカウントダウンだと思っていい。

 そんな危険な(?)メニューが登場した『リコカツ』もあと2話で最終回を迎える。純は第7話で性懲りも無く、今度は煮物を持って紘一の実家へ参上していた。彼女は出汁と醤油を何かの魔法と思っているのだろうか。ただ物語は流れて、第8話終盤で紘一にはきっぱりと振られていた。咲にも今までのことを謝罪していたけれど、とても簡単に引き下がるとは思えないので、最終回まで監視しなければならない。

【プロフィール】こばやし・ひさの/静岡県浜松市出身のエッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。これまでに企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊以上。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』(KKベストセラーズ刊)が好評発売中。