花田光司氏(元横綱・貴乃花親方)の長男で靴職人の花田優一氏に週刊誌記者が弟子入りし、靴作りの修行中の出来事をレポートする異色の“交換日記”連載企画。週刊誌記者に対して少しずつ心を許しかけていた優一氏だが、第3回となる今回はゾッとするような出来事が起きる(別稿で週刊誌記者のレポートあり)。

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 この連載記事がアップされると、僕はまずYahoo!ニュースの購読ランキングで、どのくらい上位にあるかを確認する。正直、初回は“新鮮さ”で読んでもらえるだろうと思っていたが、2回目以降は“面白さ”がなければ、読者は離れていく。ありがたいことに2回目の記事も初回に引けを取らないくらい、たくさんの方々に読んでもらえた。純粋に、やる気になる。

 前回の記事で書いたように、僕と週刊誌記者は、距離を近づける意味も込めて、お互い呼び名を「優さん」、「西さん」に決めた。 僕と西さんは大体、1日7時間ほど工房で共に過ごすのだが、工房内では一心不乱に靴づくりに励むので、ほとんど深い会話はない。

 お昼過ぎ、タバコ2本とコーヒー1杯程度の休憩時間に、興味本位で質問をしてみた。

「西さんって、どんな時に興奮するんですか?」

 すると西さんは、

「取材対象に接触できた時とかは、興奮しますね」と答えた。

やっぱり「ゴシップを狙っている」という現実

 靴のことに集中している時間が続いていたからこそ、夢から現実に戻されたような気分になった。やはり、僕たちは所詮、記者と被写体なのか。彼はこの工房にゴシップを探しに来ているのか。“そうであってほしくない”と信じたくて、軽く、笑いながら聞いてみた。

「この工房にゴシップを探しに来ているんですか?」 

 すると西さんは、

「ゴシップを探しに来ている。。。そういう節もあると思います」

 と答えた。彼に、“嬉しい”答えを期待していたことにも後悔したし、この会話は忘れようと思った。そして、もう1杯、コーヒーを飲むことにした。

 実は、僕はこの数日前、西さんを浅草に誘った。浅草の言問橋の近辺は、靴観覧の問屋が多く並ぶ。その中で、僕が常にお世話になっている、革問屋と道具材料問屋に連れて行った。というのも、僕は材料も道具も、必ず自分で買ったものを使うべきだと考えている。僕がイタリアで修行している時も、そうだった。

 もちろん貸し出せるものはあるのだが、大抵の場合、人の道具には思い入れがないので、雑に扱う。そして、“思い入れがない”ものに触れる時間は、必然的に少なくなってしまう。材料も同じだ。自分でお金を出したものであれば失敗したくないし、無駄にしてしまうと、“もったいない”という感情が生まれる。それが、他人の材料を使っていると、あまり感じにくくなる。

 そんな理由で、西さんにも、最低限の自分の道具、材料を買って欲しかった。いつも取引をする問屋の方々を紹介してしまうと、いつか迷惑な取材に行ってしまうのではないか、という不安はあったものの、浅草にいる西さんは、初めての経験に戸惑いながらも、ワクワクしているようにも見えた。

週刊誌記者は自分を磨く「新たなヤスリ」

 革を買って、帰る時。革問屋の1人が、

「優ちゃんの、変な記事書かないでくださいね!」

 と西さんに声をかけた。仲間の温かさを感じていると、

「ああ、いえ。起きたことをそのまま書いているだけですので。ただ、芸能人と一般人の架け橋になっているだけです」

 西さんはこう答えた。“私は正義です”とでも言っているかのような空気に一瞬全員が戸惑ったが、西さんの微かな苦笑いがその空間を収めた。良くも悪くも、西さんの度胸と根性に、僕は感銘した。

 西さんが靴職人で“メシを食って”いこうとしているわけではないことは理解しているし、本業が「週刊誌記者」であることも分かっている。それでも、気づいたら僕は、西さんが靴作りを好きになる方法を考え、西さんという人間を知ろうとしていた。

 靴作りにおいて、技術が上達していくことはとても素晴らしいことだが、単純に技術が身についたからといって、職人になれるわけではない。「なぜ靴を作っているのか」「どこを目指しているのか」「この時間にはどんな意味があるのか」そんな自問自答を繰り返し、精神的にも研磨されていく必要がある。今の僕にとって、西さんとの時間は、己の精神を研磨する、新たなヤスリだと感じている。

 西さんが、工房の中で、ふと言った言葉を思い出した。

「優さんといる時間が増えて、撮られる側の気持ちが少し分かったような気がします」

 もしかしたら、僕も彼の人生を、変え始めてしまっているのかもしれない。

 ■取材・文/花田優一(靴職人・タレント)