6月25日より公開中の映画『Arc アーク』。その中でキーパーソンを演じているのが岡田将生(31才)だ。地上波では、ドラマ『書けないッ!?〜脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活〜』(テレビ朝日系)での注文の多いスター俳優役や、『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系)でのひねくれ者の弁護士役など、クセのある役を多く演じ、度々話題を呼んでいる。近年、“変わり者”を演じられる稀有な俳優としてひっぱりだこの岡田。彼が愛される理由について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説する。

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 映画『Arc アーク』は、“不老不死”が可能となった世界を舞台としたSF映画。岡田演じる天音という人物は、不老不死を実現させる科学者であり、芳根京子(24才)演じるヒロイン・リナのパートナーとなる存在。つまり本作の根幹をなす役どころだ。作品を見て驚いたのは、フィクショナルなテーマにも関わらず、その世界感を完全に理解し当たり前のようにリアリティをもたせていた岡田の演技だ。SNSなどの口コミでも、彼の“普通ではない”魅力に言及した声が多く見られた。

 本作は、ネビュラ賞、ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞の3冠を制覇した作家ケン・リュウ(45才)による短編小説『円弧』を、『愚行録』(2017年)や『蜜蜂と遠雷』(2019年)などが高く評価された石川慶監督(44才)が長編映画化したもの。近未来の日本が舞台のSF作品ではあるものの、いかにもそれらしい演出は控えめ。あくまでも、“不老不死が叶う世界でのヒューマンドラマ”にウェイトが置かれている。

 あらすじはこうだ。17才で生んだ息子の元を去り、自由な世界を求めて一人で放浪生活を送るリナ(芳根京子)。彼女は19才になったある日、エマという女性と出会い、人生が大きく変わることになる。エマの下で、愛する存在を失った人々のため、遺体を生きていたときの姿のまま保存できるよう施術する特殊な仕事に就くことになるのだ。やがて、エマの弟・天音(岡田将生)がこの技術を発展させ、果ては“不老不死”も可能にしてしまう。その施術を受けたリナは、世界で初めて不老不死の身となった女性として、30才の身体のまま人生を送っていくことになる。

 芳根演じるリナが過ごす“長い時間”にはさまざまな人々が登場するが、配された俳優たちも非常に魅力的な布陣となっている。リナの才能を見出すエマ役の寺島しのぶ(48才)や清水くるみ(26才)、風吹ジュン(69才)、小林薫(69才)らがこの物語世界を支え、倍賞千恵子(80才)の存在が物語のテーマに深みを与えている。芳根の表現力は言わずもがなだが、対峙する彼らがあってこそ引き出されるものもあるだろう。そのなかでも一際目を引くのが、岡田将生の存在だ。彼が演じているのは、近年完全に板についてきた一風変わった役なのである。

 岡田といえば、映画やドラマ、CM、さらには舞台にと、デビュー以来見かけない日はない活躍が続いている。ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系)で好演したひねくれ者の弁護士役が記憶に新しく、7月11日からは、Bunkamura・シアターコクーンにて主演舞台『物語なき、この世界。』が幕を開けるところだ。キャリアを重ねるにつれて、各作品における岡田の重要度は大きくなっている。どこか浮世離れした人物や、いわゆる“小物キャラ”、神経質な青年などは彼の得意とする役柄で、先述の『大豆田とわ子と三人の元夫』をはじめ、直近の出演作にもこの傾向が見られる。そして、本作『Arc アーク』で演じる天音役もこれに該当するのではないかと思う。

 彼が演じるのは“不老不死”の技術開発をする天才科学者。自然の摂理に反する不老不死に挑む人物とあって、いかに変わり者であるか分かるだろう。これを岡田は、終始浮かべる不敵な笑みと、抑揚を抑えたセリフ回しで表現している。常に冷静でどこか人間味の薄い、やや風変わりなキャラクターは、本作のフィクショナルなテーマの一部分をも体現しているようだ。それでいて、リナとの“関係性の変化”に合わせて変化する天音の人物像にも注目である。

 近年の岡田は“どこにでもいるようなごく平凡な青年”の役から遠ざかっているが、なぜこうも変わり者を演じられる俳優として愛されるのか。それはデビュー以来、同系統の役ばかりでなく、例えば好青年とはほど遠い人物を演じた映画『告白』や『悪人』など、早い段階から演技の幅の拡張に挑んできた点が大きな理由として挙げられるだろう。俳優としての可能性の限界を定めない姿勢が、常に観客に驚きを与えてきた。

 結果、今の“性格派俳優・岡田将生”があるのだ。『Arc アーク』の石川慶監督だけでなく、8月に公開を控えている映画『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督など、国内外で高く評価される監督らの作品に引っ張りだこである事実が、岡田の力量を物語っている。ちなみに、舞台『物語なき、この世界。』では、虚無感を感じさせるような“売れない役者”という等身大の若者役に扮するようだ。これを今の岡田がどう演じるのか、あれこれ想像するのも一興だ。

【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。