花田光司氏(元横綱・貴乃花)の長男で靴職人の花田優一氏の工房に週刊誌記者が弟子入りし、互いに靴作りの修行中の出来事をレポートする異色の“交換日記”連載企画。優一氏が週刊誌記者の仕事について聞くことで「世界で一番嫌いな職業」と語っていた「記者」という仕事に対しての感情が少しずつ変わってきたという(別稿で週刊誌記者のレポートあり)。

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 週刊誌記者“西さん”が、工房に弟子入りしてから、約1ヶ月半が経った。初めて、“西さん”が、この工房で靴づくりを始めた頃、僕はまだ冬物のパーカーを着ていた。あっという間に、時は過ぎ行く。

 この連載企画で記事を書くのはこれで4回目だ。今までアップされた3つの記事は、どれも多くの読者の方々に読んでいただけたようだ。相変わらず一部ポータルサイトのコメント欄はお下劣だが、まあ、慣れたものだ。その中で時折見つける、温かい言葉に心が救われる。純粋な読者に、純粋な気持ちが伝われば、と信じて書いている日々だ。この先も、読んでもらえたらありがたい。

 この日、外は梅雨のようなどんよりとした雨で、今年初めて除湿器をつけるほど、湿気がこもっていた。でも、特に理由も無いのだが、僕は何故か、気分が良かった。工房に入ることも作業することも、基本的には毎日の繰り返しだ。悩みながら作業をするよりは、少しでも気分が高揚している方がはかどる。この日は、スピーカーで音楽を流しながら作業することに決めた。

 隣で作業している西さんの存在を忘れるほど、音楽にノリながら作業に集中していった。

 次の曲はなんだろうと、iPhoneのシャッフル機能に期待を寄せていると、スピーカーから『花田優一/純青』が流れた。知らない方にご説明しておくと、僕は去年の9月に初めて自分で作詞・作曲を手掛けた楽曲を発表した。「歌手デビュー」という言葉の響きは非常におこがましく気が引けるが、自信を持って作ったものだし、多少なりとも好評価を得られてありがたかった。

 けれども、この曲が今日、この工房の空間で流れるのは話が違う。今、僕は、弟子入りをした週刊誌記者と工房に二人きりなのだ。

 完全に靴づくりの集中が切れた僕は“チラッ”と、背中越しに西さんの顔を見た。「待ってました」と言わんばかりに、不敵に微笑んだ西さんが、

「自分の曲、聴くんですね(笑)」

 と狙っていた獲物を捕らえたような目で、僕に言った。

 自分の曲は好きだし、たくさんの人にも聞いてほしいと願っているが、この日ばかりは、iPhoneのシャッフル機能を恨んだ。

僕が週刊誌記者から「学んだこと」

 ところ変わって最近の僕の秘かなマイブームは、西さんの日頃の仕事や取材対象について聞くことだった。「週刊誌記者」といえば、芸能人や政治家ばかりを追いかけているのかと思いきや、西さんの話を聞くとそうでもないらしい。もちろん取材時の重要な秘密は明かせないだろうし、時に西さんは答えにくそうな表情をする時もある。だが、むしろ「聞ける範疇で探っていく」のは、僕が記者になったようで面白い。

・殺人犯の家族に突撃取材した時は、「複雑な気持ちだった」という話。

・学校内でのいじめを専門に探る、“いじめ探偵”という職業があるという話。

・ある政治家と新聞社の記者が「色恋沙汰」になった話。

 聞いていると、サブイボが立ちそうになる。ゾッとするほど面白い。そんななかで、最近一番盛り上がったのは、北朝鮮の金正恩総書記に革靴を作りに行こうとしたらどうなるだろう、という話だった。そもそも西さんは、中国で潜入取材をした記事で名を上げた記者で、潜入取材の極意や、アジア諸国の国民性などを聞いていると、本当に勉強になることがある。北朝鮮の方々は、すごく気さくな性格の方が多いと教えてくれた。

 僕はこの仕事をし始めてから、ニュースで見る大統領や、舞台上の役者さん、車から降りたタクシー運転手さんなど、どんな人でも靴を見てしまうようになったこともあり、金正恩総書記がどんな靴を履いているかというのは、これまでも興味があった。

 そこで靴の製作中ではあったが、僕はネットから金正恩総書記の写真を探した。「履いている靴には何センチか底上げのヒールが隠されているのかもしれない」「使っている革はどんな素材で、作っているのは北朝鮮の職人さんなのだろうか」など、細かいことを夢想した。

 同時に西さんは、北朝鮮に正式に入国する方法を探し、取材許可は降りるのかを真剣に調べ始めた。そしてどれくらいの期間北朝鮮にいれば「金正恩総書記の関係者に近づけるのか」について、真剣に考え始めた。

 文章で書いていると滑稽に見えるかもしれないが、議論している時間は二人とも、本気の顔をしていた。靴職人と週刊誌記者が二人でいる時間を重ねると、こんなことで盛り上がるのかと、新しい発見があった時間だった。

 妙な形ではあるが、最近は二人が少しずつ共存しているような気がしている。

■取材・文/花田優一(靴職人・タレント)