健康志向が高まり、喫煙者の肩身が狭い今の時代。一方で、昭和という時代を語るのにタバコの煙は欠かせないものだ。昭和の大スターは紫煙をくゆらせながらどんな表情を浮かべ、どんな言葉を交わしていたのか──。元日本テレビのドラマプロデューサー・岡田晋吉氏が石原裕次郎さんのタバコにまつわる思い出を語る。

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 石原裕次郎さんはスタジオに自分のキャンピングカーに乗って来ていたので、撮影時間の合間はそこで休んでいました。タバコもその中で吸っていたようです。もっと若い頃はセットの片隅でタバコを吸う姿も度々見かけたので、ずっとヘビースモーカーだったのでしょうね。

 とても紳士でした。基本的には寡黙だけど、いつもニコニコ笑っていて、よく冗談を言って周囲を和ませてくれた。

 強く記憶に残っているのは『太陽にほえろ!』のクランクイン初日の彼の言葉です。「オレは俳優として来たんだから、何でも注文してよ」と「ボス」というニックネームもOKしてくれた。これがテレビドラマにおける石原裕次郎誕生の原点だったと思います。

〈『青春とはなんだ』をはじめとする“青春シリーズ”をヒットさせたのに続き、石原裕次郎主演の『太陽にほえろ!』『大都会』などを手がけた元日本テレビのドラマプロデューサー・岡田晋吉氏。映画で国民的スターとなり、「テレビには出ない」と固辞していた石原を説得し、出演を承諾させたのも岡田氏の“功績”である〉

 当時、ドラマとタバコは切っても切れない関係にありました。いまのように喫煙について厳しく言われることはなく、ドラマの喫煙シーンが当たり前だった時代。役者さんたちは、むしろタバコを芝居の小道具のひとつとして使っていました。

『太陽にほえろ!』では、ヘビースモーカーではないけれど、山さん(露口茂)もタバコをうまく使って演技をしていましたね。

 もちろん石原さんがタバコを吸うシーンもありました。最初から台本に書いてある場合もあれば、現場で監督が指示したり、石原さん本人の判断で吸ったりするケースもあったようです。

 しかし、石原さんは1981年に解離性大動脈瘤の大手術を受け、『太陽にほえろ!』の後半は病と闘いながらの撮影になりました。タバコも禁じられていたので、吸うのを我慢していたようです。

 まき子夫人もかなり気にされていたようで、「タバコを吸うと(奥さんに)怒られるんだよ」と苦笑いしていました。タバコだけでなく、食事にもすごく気を遣っていて、本当に“我慢強い人だな”と感じました。

〈体調の悪化に伴い、石原の出演シーンは次第に減っていった。だが、『太陽にほえろ!』最終回のラストシーンで、石原は石原ならではの名演技を披露する。岡田氏は、そのシーンがいまも鮮明に記憶に残っていると語る〉

 最後のシーンの撮影日の朝、石原さんから連絡があったんです。「このシーンをオレにくれないか」と言われ、「石原さんがやりたいようにやってください」と答えました。石原さんが自分で設定したのは、取調室で指名手配犯の妹を落とす(話を聞き出す)場面でした。そこで石原さんはタバコに火をつけ、美味しそうに吸ったんです。

 石原さんがタバコを止められていることは現場の全員が知っていたので、みんなハラハラしながら見守っていました。実際にはタバコの煙を肺まで吸い込んではいなかったそうですが、本当に美味そうに深く吸っているように見えましたね。

 タバコを吸いながら、妹から犯人の居場所を聞き出すまで、ワンカット7分間の長回し。すべて石原さんの即興でした。あれこそまさしく、タバコを使った最高の演技だったと思います。

※週刊ポスト2021年9月10日号