〈岡田圭右:あの、アンナちゃん。凡ちゃんも疲れてるけど、俺も疲れてきてるのよ。
梅宮アンナ:そうですね、そうですね。
岡田圭右:俺も疲れてきてるのよ。〉

 これはBSフジで放送されているクイズ番組『クイズ!脳ベルSHOW』(8月26日放送分)の一コマだ。昭和に活躍した俳優や歌手、スポーツ選手などが回答者となり、ますだおかだの岡田圭右がMCを務める同番組は、10月で6周年を迎える。お笑い芸人の計算されたボケとは違う“昭和スター”の予期せぬ回答に、岡田が右往左往しながら突っ込む。そんな地上波ではあまり見られない展開が松本人志や伊集院光、有田哲平など著名人にも好評を博す理由だろう。

 番組は月曜と火曜、水曜と木曜に4人ずつ回答者が出演し、上位2名ずつが金曜の週間チャンピオン大会に出場。収録は1日5本撮りで、約7時間半にも及ぶ。休憩は1本終わるごとに10分程度があるだけだ。

〈ゲストの方が本当によくしゃべるんで、収録は基本的に押すんです。特に大木凡人さんは長くなる(笑)〉(『週刊プレイボーイ』2019年11月25日号)

 岡田にとって“愛すべき天敵”の大木凡人が、8月25日(水曜)と26日(木曜)に出演した。ちょうど3本目、4本目の収録にあたる。最も辛そうな時間帯に登場した凡人に、岡田はどう対応したのか。

 2日間の両者のやり取りを全て文字に起こし、分析した。すると、岡田の凡人へのリアクションは1日目59反応、2日目26反応と半減していた(クイズに関する普通のやり取り除く)。冒頭の発言からもわかるように、岡田は明らかに疲弊していた。

 一体、どうして疲労が蓄積したのか。凡人への対処法を「笑いにする」「番組を前に進める」「困惑する」「その他」の4系統23パターンに分類し、1日目と2日目を比較してみよう。

【系統1】笑いにする
●1日目:27回
内訳……ツッコミ:11回、凡人への振り:6回、他人に振る、巻き込む:6回、ノリツッコミ:2回、直接いじり:2回、間接いじり:0回

●2日目:15回
内訳……間接いじり:4回、他人に振る、巻き込む:4回、ツッコミ:3回、ノリツッコミ:2回、直接いじり:2回、凡人への振り:0回

【系統2】番組を前に進める
●1日目:3回
内訳……質問:2回、話を展開させる:1回、話をまとめる:0回

●2日目:4回
内訳……話を展開させる:2回、質問:1回、話をまとめる:1回

【系統3】困惑する
●1日目:21回
内訳……言葉の反復:7回、聞き返す:3回、強制終了:3回、たしなめる:3回、呆れる:2回、対処できず:2回、相槌のみ:1回

●2日目:4回
内訳……たしなめる:2回、言葉の反復:1回、相槌のみ:1回、強制終了:0回:聞き返す:0回、呆れる:0回、対処できず:0回

【系統4】その他
●1日目:8回
内訳……挨拶:2回、判別不能:2回、感謝:1回、激励:1回、説明:1回、感想:1回、謝罪:0回

●2日目:3回
内訳……挨拶:2回、謝罪:1回、判別不能:0回、感謝:0回、激励:0回、説明:0回、感想:0回

【※調査注/岡田が話し始めてから終わるまでを“ひとかたまり”として考える。/その“ひとかたまり”が1つの意味なら1カウント、2つの意味に別れるなら2カウントする(後述のなぞなぞの場面を参照)。/『言葉の反復』は同じ場面で2度繰り返しても1カウント。例:「一昨日から! 一昨日から(笑)」(1日目・0分)。/芸人は通常、事態を滞らせる『言葉の反復』はあまりしない。そのため、『困惑する』の系統に入れる。/『たしなめる』『対処できず』『強制終了』の途中や最後に「すいません」「ありがとうございます」と言った場合、謝罪や感謝にカウントせず、『たしなめる』『対処できず』『強制終了』に含む。例:「(笛を吹いて)しゅ〜りょ〜〜! ありがとうございます! 芸能界最強伝説。やはり、ここで確定しました!」(1日目・16分。ひとかたまりで『強制終了』と考える)。/『相槌』の後にツッコミなど他の選択肢を実行していれば、『相槌』には数えない。/他人との会話中に凡人のことをギャグにした場合、『間接いじり』とする。】

「1日5本収録」のハードルがあるがゆえの魅力

 1日目と2日目を比較すると、凡人本人への振りは6回からゼロに。ツッコミは11回から3回と激減。代わりに激増したのは、間接いじり(0回→4回)となる。

 1日目、岡田はオープニングで凡人を見た瞬間に「うわぁ〜!」と驚愕したり、早押しクイズで凡人にボタンを押させて答えを聞く前に「違います、いきましょう。絶対違います。絶対違います」と遮ったり、“直接いじり”をしていた。しかし、2日目は他の回答者との会話で「(凡人は)間違った教科書やから」(23分)、「両端(1枠の凡人と4枠の姿憲子)がちょっとややこしいですね」(24分)など、凡人を見ずに間接的にいじる機会が増加した。直接いじると疲れるが、間接的にはいじりたいという深層心理があったのかもしれない。

 系統3の『困惑する』が21回から4回に激減しているが、1日目の経験から2日目は自然と凡人にあまり触れないでおこうと思ったのか。そもそも、『困惑』という項目の存在自体が異常で、地上波のクイズ番組では1時間で20回もMCが困惑する場面は見られないだろう。

 1日目の『困惑』場面を振り返ってみよう。凡人が「何も持たないでやる。これが本当の空手だって言った人もいる」とギャグを言ったが、岡田は特に対処せず(できず)。ジェームス・ボンドに関するエピソードを凡人が話すと、「うぇ〜〜。お座りください。すいません」と強制終了したこともあった。

 さらに、『高いところで練習するときに来る人は?』というなぞなぞ【正解:コーチ(高地)】で、凡人は『おおたかげんご』と謎の回答。これには、百戦錬磨の岡田も固まった。

岡田:誰ですか?(=聞き返す)
凡人:そういう人いたでしょ。
岡田:あのね、アンナちゃんが呆れ返ってますよ(=他人を巻き込む)。おおたかげんごさんって、急に。なぞなぞですから(=呆れる)。

 これらの対応で、岡田は消耗していったと考えられる。もう1つ、疲弊の大きな理由として凡人の“カットインダジャレ”もあるだろう。1日目、岡田が2枠の梅宮アンナを紹介して母のクラウディアに話が及ぶと、1枠の凡人が割り込んだ。

凡人:しつこくいうと、一発クラウデ。
岡田:うわぁ〜、まさにクラウディア(パンチのアクション付き)。いや、そんなんいらないんですよ。今、アンナさんに聞いてるから。

 岡田は“ノリツッコミ”で対応した上で「今、アンナさんに聞いてるから」と“たしなめ”た。それでも、凡人は3枠の国広富之が紹介されると、またしても割り込んできた。

凡人:「大木凡人こと本名・国広富之です」とかシャレで言っていたことあるんですよ。
岡田:なんですって?(=聞き返す)
凡人:大木凡人こと本名・国広富之です。やってたことあるの。
岡田:やってたことがある。(=言葉の反復)
凡人:ある。
岡田:それご存じでした? そうやって使われてたの。(=他人に振る)
国広:いや、知りません(笑)。
凡人:ごめんなさい。
岡田:ご本人知らんのに、まあまあ宜しいですよ。(=たしなめる)

 4枠の姿憲子の話には割り込まなかったものの、『大木凡人がいると収録が押す』という岡田の発言に偽りがないと開始早々に判明した。それでも、まだ序盤。2問目のクイズの際には、岡田が凡人に振っていた。

岡田:もう、駄洒落に関してはここにレジェンド、神がいますから。ダジャレの申し子・大木凡人(=振り)。
凡人:「ダジャレー夫人の恋人」と呼ばれた男だから。
岡田:出ましたぁ〜!(=判別不能) ダジャレからのダジャレー夫人(=説明)。

 1日目のダジャレがボディーブローのように効いたのか、2日目に岡田の凡人への振りはゼロになったが、凡人の発言自体も減っていた。得意のダジャレは4回から1回(※冒頭に「いえーい! 2階建てのいえーい! 2世帯住宅いえーい! リフォームしたいえーい! ウチの親父の写真のいえーい」と発言。細かく見れば4回だが、まとめて繰り出しているのでひとかたまりと考えて1回)になっている。

 岡田も凡人の疲労を感じており、2日目の終盤に「凡ちゃんも疲れてるけど、俺も疲れてきてるのよ」と言った。この直前、姿憲子が「(頭に)パーマをかけてみたかった」と話した後、大木凡人がややカットイン気味にこう話し始めた。

凡人:俺なんか、顔にパーマかけてるんですかと言われますよ。
岡田:なるほど……なるほどじゃないです、それ。なるほどじゃなくて。ちょっと待ってください。

 これは“ノリツッコミ”としてカウントしたが、画面からは疲労の果てに「なるほど」という言葉が出てきたようにも見えた。それなら、お互いが万全の時に収録すればいいという意見もあるかもしれない。もちろん、地上波と比べて予算の少ないBSであり、売れっ子の岡田のスケジュールを週に何日も確保できないという事情もあるのだろう。だが、現状の収録方法がベストのように思われる。

 なぜなら、岡田が『お笑い芸人にない予期せぬボケを繰り出す回答者』を見事に捌きながら、『1日5本収録』というハードルを超えていく。ここに、『脳ベルSHOW』の魅力が詰まっているからだ。現在、凡人の自由奔放さはこの番組くらいでしか見られない。そのため、『脳ベルSHOW』ファンは2日目も、岡田と凡人のやり取りを楽しみにしていたはずだ。しかし、岡田は疲弊したため、凡人にあまり対応できなかった。

 つまり、毎日見ているファンも全く先が読めない。『クイズ!脳ベルSHOW』は常に予定調和から逸脱しているからこそ、視聴者を飽きさせない名番組になっている。

■文/岡野誠:ライター、松木安太郎研究家。著書『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)では本人へのインタビュー、野村宏伸など関係者への取材などを通じて、人気絶頂から事務所独立、苦境、現在の復活まで熱のこもった筆致で描き出した。田原の1982年、1988年の全出演番組(計534本)の視聴率やテレビ欄の文言、番組内容なども巻末資料として掲載。『脳ベルSHOW』での大木凡人と角川博の共演を待ち望んでいる。