「47年前に食らった親父からの拳を今でもよく覚えています。嫌っていうほど殴られたけれど、ぼくの人生観はあれで変わりました」

 こう語るのは、自らの役者人生から世の中の理不尽なことなど全て本音で明かした最新エッセイ『富美男の乱』を上梓した梅沢富美男(67才)だ。20才の梅沢が劇団員として公演に訪れた秋田で事件は起こった。「笑い話なんだけど」と苦笑しながら梅沢が振り返る。

「当時は東京から来る役者がとにかくモテる時代で、公演が終わると村の女の子が出待ちをして、デートし放題だった。それでファンの女の子を誘ってあぜ道を歩いていた時、キスをして倒れかかったら、その先に肥溜めがあり、落っこちてしまったのです」

 すぐ河原に行って女性の体を洗ったが、猛烈なにおいはなかなか落ちなかった。そのまま女性を家に帰宅させると、女性の父親が一座の宿泊先に怒鳴り込んできた。

「彼女の父親は猟師をしていたから、猟銃片手に押しかけてきて、『娘を肥溜めに落としやがって、絶対に殺してやる』とすごんだ。するとぼくの親父が、『息子が撃たれるところを黙って見ている親がいるか! 息子を殺したいなら、おれを殺してからにしろ!』と言い返して、何とかその場を収めたんです。その後、嫌というほど親父に殴られた。以来、『チャラチャラ遊ぶのはもうやめよう、親父の背中を見ながら生きよう』と心に誓った」

 この時の父親の拳の感触を、いまだに覚えていると梅沢は微笑む。

「ぼくの劇団でルールを守らない奴がいたら殴ることもあります。『言ってもわからないものは殴ってもわからない』と言いますが、それは『何を言っても無駄だ』という諦めを意味します。でも、そいつのことを諦めきれないから、てめえの手が痛いのに殴る。それで殴った後に『どうして殴ったかわかるか』と聞いて、相手を諭すことが大切なんです」(梅沢)

※女性セブン2018年1月4・11日号