長く続いた白鵬一強の時代が終わりを迎えるのか? 世代交代を担う力士は誰なのか? 春場所(3月8日〜)に向けて関心が高まる。振り返れば過去の名横綱たちは、同時代のライバルと鎬を削り、突き上げる世代交代の波と戦いながら、最高位にのぼりつめた。ならば“最強の中の最強”は誰か。読者1000人と各界の好角家たちが選んだ。

◆直線の柏戸、曲線の大鵬

 1位は圧倒的な支持で大鵬。優勝32回(うち全勝8回)、6連覇2回と圧倒的な記録を残した。「巨人、大鵬、卵焼き」と呼ばれた子供の頃の人気者の記憶は、半世紀経っても強く残っているようだ。

「少年雑誌の表紙は、ONか大鵬と決まっていた」(65歳自営業)

 好角家として知られるコメディアンの大村崑氏(88)も深く頷く。

「これまで大勢の力士を見てきましたが、やはり最強は大鵬です。立ち合いでは相手を真っ正面から受け止め、どんな展開になっても負けなかった」

 大鵬の連勝記録は歴代4位の45だが、芥川賞作家の高橋三千綱氏(72)は「本当ならもっと連勝していた」と語る。

 46連勝が懸かった1969年春場所の戸田との一番。押し込まれた大鵬は、土俵際で際どく突き落とし。軍配は大鵬に上がったが、物言いがつき、行司差し違えで戸田の勝ちに。

「しかし、翌日のスポーツ新聞には、戸田の足が先に出ている写真が掲載された。“世紀の大誤審”で、翌場所から判定にあたりビデオが参考にされるようになりました」(前出・高橋氏)

 名横綱には必ずライバルがいる。大鵬のライバルといえば柏戸(11位)。元NHKの大相撲実況アナウンサーで、現在は東京相撲記者クラブ会友の杉山邦博氏(89)が言う。

「私はラジオ中継で“直線の柏戸、曲線の大鵬”と表現しましたが、土俵の丸みを生かすのが大鵬で、一直線に持っていくのが柏戸だった。全盛期の大鵬戦となると互角以上の勝負をしていました」

「柏鵬時代」の後に訪れたのが、玉の海(12位)と北の富士(14位)の「北玉時代」。70年初場所で13勝同士で優勝決定戦に臨んだ2人(優勝は北の富士)は、場所後、揃って横綱に推挙された。

「玉の海が横綱になった翌年に急逝した(享年27)ときはショックだった。生きていれば北の富士と長く名勝負を見せてくれたはず」(69歳会社役員)

 2人の幕内対戦成績は北の富士の22勝21敗とほぼ互角だった。

◆北の湖に勝ち越した輪島

「北玉」の後に台頭してきたのが、「憎らしいほど強い」と称された北の湖(3位)だ。1974年7月名古屋場所後に21歳2か月の史上最年少で横綱に昇進し、優勝は24回。

「滅多に負けないからこそ、負けた時は盛り上がる。先代の貴ノ花が結びの一番で北の湖を寄り切って初優勝した時は興奮した」(61歳会社員)

 

その北の湖と渡りあったのが、元学生横綱の輪島(9位)。“黄金の左腕”から繰り出される下手投げは強烈で、北の湖に23勝21敗と勝ち越している。

 2位になった千代の富士は1981年初場所、優勝決定戦でその北の湖を倒して初優勝。この一番が黄金時代を築くきっかけとなった。

「小さな体で大きな北の湖の前まわしに食らいくつ姿は、まさにニックネームの“ウルフ(狼)”そのもの。強引に寄りに出た北の湖を上手出し投げで倒して初優勝した時の、国技館の大歓声はすごかった」(58歳会社員)

 抜群のスピードとバネの強さを武器に、全盛期には5年間で優勝20回。53連勝も記録した。

 同時代に千代の富士とともに綱を張ったのが、双羽黒(15位)と隆の里(20位)。隆の里は糖尿病と闘いながら、苦労の末に30歳で最高位にまで昇りつめ、苦労人の代名詞ともいえるNHK朝ドラ『おしん』にかけて“おしん横綱”と呼ばれた。

 対照的だったのが“新人類”と呼ばれた双羽黒。1986年夏場所の優勝決定戦で千代の富士に敗れたが、優勝経験のないまま横綱に昇進。師匠と大喧嘩して仲裁に入った後援会長とおかみさんにケガを追わせて失踪し、廃業。

「2m近い(199cm)の恵まれた体で、精進していたら千代の富士にも負けない大横綱になっていたに違いない」(55歳会社員)

◆唯一ランクインした「大関」

 千代の富士に引退を決意させたのが、貴乃花(4位)だった。

 入幕4場所目の1991年夏場所で初対戦。千代の富士が強引に首を押さえ突き落とそうとしたが、足腰の強さで残した貴乃花(当時貴花田)が体を預ける形で寄り切って初金星を上げた。千代の富士に「体力の限界」と言わしめたのはあまりに有名だ。

 貴乃花の前に立ちふさがったのが、ハワイ出身で身長203cm、体重235kgの巨漢力士・曙(13位)。この時代は貴乃花の兄で“若貴フィーバー”を巻き起こした若乃花(三代目、17位)、曙と同じハワイ出身の武蔵丸(19位)の4横綱が鎬を削った。

「終盤戦で4横綱が星を潰し合い、大関には貴ノ浪、千代大海、出島がいて、三役常連にも魁皇(16位)、琴錦、武双山、栃東ら実力者がひしめいていた。その中で22回優勝した貴乃花は高く評価できます」(前出・高橋氏)

 16位に選ばれた魁皇が横綱になれなかったことが、この時代のレベルの高さを物語る。さらに貴乃花は、世代交代の壁としても立ちはだかった。

 飛ぶ鳥を落とす勢いの朝青龍(8位)が新大関となった2002年名古屋場所で横綱・貴乃花と対戦するも、上手投げで完敗。思わず朝青龍が「チクショー!」と叫んだ。貴乃花の引退後、白鵬(6位)、日馬富士、鶴竜らが台頭し、モンゴル時代に突入する。

 現役で唯一ランクインした白鵬は優勝43回、幕内通算1053勝など数々の歴代記録を塗り替えている。6位に甘んじたことに料理人の神田川敏郎氏(80)は首を傾げる。

「白鵬がナンバーワンであることは、数字が物語っている。なぜこの順位なのか、理解できません」

◆大鵬が負けるはずがない

 さらに時代を遡れば、白鵬がいまだに塗り替えることができない唯一の記録である69連勝を戦前に築いた双葉山(5位)の存在がある。

 終戦を挟み、「栃若時代」を築いて戦後の大相撲を支えた、“土俵の鬼”若乃花(初代)が7位、“マムシ”栃錦が10位にランクイン。落語家のヨネスケ氏(71)が懐かしむ。

「栃錦のスピードある立ち合いから右上手を取っての出し投げは天下一品だった。一方、若乃花は力業で豪快に相手を投げ飛ばす。街頭テレビから、家庭でテレビが見られるようになった時代で、2人はヒーローだったね」

 それぞれの時代を象徴する名横綱たちが、もし時空を超えて戦ったら誰が勝つのか──。NHKが昨年8月に放送した「どすこい!夢の大相撲 令和元年AI場所」は大反響を呼んだ。

 日本IBMが開発した「どすこいAI」に現役時代のデータを入力。CGで対戦するという企画で、若乃花(初代)や玉の海ら往年の名横綱が甦り、“大将戦”では大鵬、貴乃花、白鵬の3人が巴戦で激突した。結果は白鵬が2勝、貴乃花が1勝1敗、大鵬は2敗。AIは白鵬が“史上最強”と判断した。

 アンケートで白鵬を推した前出・神田川氏は、「白鵬は体がひと回り大きく、パワーに勝る。この結果は順当です」と納得の表情だが、多勢を占めたのは、「大鵬が白鵬に負けるはずがない」という声だ。

 同番組に出演していた漫画家のやくみつる氏(60)が語る。

「AI相撲では白鵬が左からの突き落としで逆転勝ちしましたが、腰の重い大鵬が土俵際で逆転を食らうはずがない。私が見てきたなかでは最強で、北の湖、千代の富士、貴乃花とやっても大鵬が勝ちますよ」

 前出・高橋氏も言う。

「大鵬は白鵬のようなカチ上げや張り手を使わず、受けて立つ相撲であれだけ強かった。実際に戦ったら、差し身の早い大鵬が左四つに組み止め、すくい投げか上手投げで決めると思う」

 この“最強神話”を超える名横綱は、今後現われるのだろうか。

※週刊ポスト2020年3月13日号