◆北京五輪の星・ワリエワの強さ

 新型コロナウイルスの世界的拡大にともない、羽生結弦(25)や紀平梨花(17)が出場予定だった世界フィギュアスケート選手権は中止となった。だが、ジュニアの世界選手権は、今月頭(3月2日〜8日)に行われた。ここで日本勢は、男子は鍵山優真(16)が2位表彰台に上がるも、女子の最高位は河辺愛菜(15)の11位。女子で圧勝したのが、ロシア13歳の新星、カミラ・ワリエワだった。

 ワリエワのコーチは、現在の女子フィギュアを牽引するエテリ・トゥトベリーゼ氏だ。今季、ジュニアからシニアに上がり、グランプリファイナルで1、2、3フィニッシュを飾ったアリョーナ・コストルナヤ(16)、アンナ・シェルバコワ(15)、アレクサンドラ・トゥルソワ(15)、「天才少女」3人のコーチでもある。しかし、これら天才少女3人をも上回る可能性を、13歳のワリエワは見せた。

 ワリエワの能力の高さについて、フィギュアスケートに詳しいライターの土田亜希子氏はこう解説する。

「13歳とは思えない完成度の高さです。まずジャンプは、フリーで4回転を2回跳んで、1回目はステップアウトしましが、2回目はきっちり決めました。ワリエワのジャンプは、素直な回転をしているので美しく、加点がつきやすい。次にスピンです。本人が、誰にも負けないものは『スピン』、とインタビューで答えているように、高い柔軟性を活かした独創性のあるスピンは素晴らしく、大きな加点がつきます。

 そして表現力。スケートをしていなかったらバレエをやっていたというほど、身体にクラシックバレエの基礎が沁み込んでいる。加えて抜群のスタイルに、儚げな容姿。3拍子も4拍子もそろった、フィギュアスケートをするために生まれてきたような選手です」

 もちろん今季シニアに上がった上記3選手の強さも際立っている。数種類の4回転(シェルバコワ、トゥルソワ)、質の高いトリプルアクセル(コストルナヤ)を装備する彼女たちは、強靭なメンタルをあわせもち、今季、グランプリシリーズで負けなしの活躍を見せた。それでもファンに「エテリ(コーチ)の最終兵器」と呼ばれるほど、ワリエワの演技は、見るものを虜にする。ちなみにワリエワは、北京五輪を15歳で迎える。これは、平昌で金メダルを獲得した時のアリーナ・ザギトワ選手と同じ年齢である。

◆日本人ジュニアチャンピオンは本田真凛が最後

 選手層の厚いロシアに対し、日本はどうか。

 冒頭に挙げた河辺愛菜のほか、昨年末の全日本フィギュアで3位に入り、期待された川畑和愛(15)は14位。二人とも、フリープログラムは、上位6人が滑る最終グループに残ることすらできなかった。ちなみに最終グループに残ったのは、ワリエワを含むロシア3選手、韓国2選手、アメリカ1選手だ。

「河辺選手は、紀平梨花選手と同じく濱田美栄コーチの指導を受けていて、トリプルアクセルを跳べる選手です。今回の世界ジュニアでは失敗し、それが響いたのか、ジャンプの失敗が続きました。トリプルアクセルを成功させていたら、順位は大きく違っていたかもしれません。

 ただ、ロシアのみならず、韓国も良い選手がたくさん出てきています。それに比べると、日本選手の現状はちょっと淋しいといえるかもしれませんね。いま、フィギュアスケート人気は世界一といえる日本ですが、女子ジュニアの結果に限って言えば、この人気が、選手層の厚さにつながっていないように見えます」(土田氏)

 世界ジュニアで日本女子が優勝したのは、2016年、本田真凜が最後になる(本田は、翌年は銀メダル)。過去に遡れば、安藤美姫、浅田真央、村上佳菜子が、男子では髙橋大輔、織田信成、小塚崇彦、羽生結弦、宇野昌磨がジュニアを制しており、世界ジュニアは、その後シニアで活躍するための登竜門であることが伺える。今、日本のジュニア勢には何が足りないのか。土田氏はこう指摘する。

「一番はジャンプです。ワリエワは4回転を跳びますし、3位のアリサ・リウ(アメリカ、14歳)は4回転とトリプルアクセルを跳びます。ただし、難易度ではなく、高さや質、安定感で勝負することも可能で、2位に入った選手に4回転はありません。

 一方、日本勢でいえば、たとえばジュニアで優勝して、一躍スターになった本田選手はシニアに上がり、ジャンプの安定感が欠けるようになりました。元々ジャンプより、表現力に定評のある選手でしたが、本田選手に限らず、女子選手は年齢を重ねて体型が変わると、ジュニアのときのように跳ぶのは難しくなります。だからこそ、ジュニアのときに、4回転など難易度が高いか、あるいは質の高いジャンプを身につけておくことが重要になります。もちろんフィギュアはジャンプだけではありませんが、表現力は後からついてきても、ジャンプを後から磨くのはとても難しいからです。今、シニアで活躍している紀平選手、坂本花織選手(19)、樋口新葉選手(19)らはみな、元々ジャンプが得意な選手です」

 男子は鍵山、佐藤駿(16)というジャンプを得意とする選手が育っている。女子が後に続くことを期待したい。