新型コロナウイルスの感染拡大防止のために在宅ワークになり、日常生活でもなるべく外出しない生活を皆が送っている。そうなると、コミュニケーションがどうしても減って「今日は一日、一言も誰とも喋らなかった」という日が増えてくる。そのような生活のなかでも認知機能を低下させないための方法を、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が紹介する。

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 一日中、寝間着姿でゴロゴロしている。久しぶりに人と話したので、言葉がなかなか出てこない。今日、何をしたか、何を食べたか思い出せない。こんな人は、認知機能の低下が心配だ。

 新型コロナウイルス感染拡大を防ぐには自粛生活は必要なことだが、その間に、認知機能の低下を招かないようにしたい。脳は、人と会って話したり、人に喜んでもらえることをすると活性化するが、家の中に一人でこもっていても、脳を刺激する方法はたくさんある。次の7つを提案しよう。

【1】料理にチャレンジしよう

 食材を選ぶ、洗う、刻む、調理する、盛り付けるといった一連の流れを段取りよく組み立てながら、いくつかの作業を同時に行なわなければならない。この作業には、ワーキングメモリという短期記憶の力が必要になる。

 自粛生活で、ふだん料理をしない男性が料理を始めたり、凝った料理に挑戦したりという話をよく耳にする。とてもいい風潮だと思う。

 ぼくも料理初心者だが、以前から缶詰料理は被災地の仮設住宅暮らしの人たちにおすすめしてきた。サバの水煮缶で作るけんちん汁は作り方も簡単。適当に切ったゴボウやニンジン、里芋、長ネギ、こんにゃくなどを煮て、具材が柔らかくなったら、サバ缶を汁ごと一缶入れて、みそで味を調えるだけ。魚のいい油DHAが溶けた汁も余さず摂れるのがいい。

 京都大学の研究では、DHAがアルツハイマー型認知症の進行を抑え、神経細胞死も抑える働きがあることがわかっている。

【2】片付けをして、気持ちを前向きに

 衣類、本、DVDやCD、名刺、郵便物、撮りためた写真のデータ……。いつか整理しようと思いながら放置していると、どんどんカオスと化してしまう。片付けが苦手な人には苦行だが、この際、脳トレだと思って手をつけてみよう。

 ものを分類して定位置に納めたり、必要か不必要かを判別する行為には、判断力や記憶力が試される。片付けのいいところは、達成感があること。きれいになった状態を見ると気持ちが前向きになってくる。人生の棚卸にもなり、これからどんな楽しみを見つけようか、どんな生き方をしようか、というアイデアもわいてくると思う。

 料理や片付けという体の動きを伴う作業は、脳の前頭前野を鍛えるといわれている。前頭前野は、「考える」「記憶する」「アイデアを生み出す」「感情をコントロールする」「コミュニケーションをとる」「学んだことを応用する」「集中する」「やる気を出す」など、重要な働きをしている。不安やイライラの感情のコントロールにも役立つので、ぜひ、料理や片付けをやってみてはどうだろうか。

【3】2つのことを同時にするデュアルタスク

 ウォーキングをしながら、引き算をする。室内で足踏みをしながら数を数え、3の倍数のときだけ拍手する。そういう2つのことを同時にするデュアルタスクは、脳によい刺激を与える。右手が常に勝つ、一人両手ジャンケンというのもある。

 やってみるとけっこう楽しい。気を抜くと間違ってしまうくらいの難しさがちょうどいいので、間違っても気にせず楽しもう。

【4】情報とも社会的距離を置き、じっくり考える

 テレビをつけると新型コロナのことばかりやっている。同じ専門家が同じようなことをワイドショーで話している。もっと切り口を変えられないものか。一日中、受け身で見ていると、不安ばかりが募っていく。心は疲れるばかりだ。

 飛沫感染の予防のためには人と2の距離をとることが大事だが、情報とも距離をとったほうがいい。テレビの情報を鵜呑みにしないで、何が重要なことなのか、自分なりに一度じっくり考えてみる必要がある。

 できたら新型コロナ以外のことにも関心を向けたい。ぼくは、新聞を読んだら、その日のキーワードになりそうな単語を4つ選んで記憶するようにしている。新しい言葉を覚える記憶の訓練にもなるし、社会の出来事に関心をもつきっかけにもなる。

【5】感動は言葉や文章にして表現する

 今まで読めなかった本を読んだり、サブスクリプションサービスで映画やドラマを見る人も多いだろう。ぼくも、気に入っている小説や、なつかしい映画を見直したりして楽しんでいる。

 そして、気に入った文章や映画のセリフなどは、メモしておいて暗誦できるようにしている。今は行きたいところも行けない、会いたい人にも会えないが、コロナ後の生き方を意識しながら、田村隆一の詩や空海の言葉、哲学者アランの言葉などを考えている。

【6】楽しいこと、好きなことにこだわる

 認知症の一般的な症状にアパシーがある。何事にも無関心で、無気力になることだ。人間は何かしようという意欲があってはじめて行動する。その意欲が低下すれば、身体機能も認知機能も低下していく。

 脳は楽しいこと、好きなことをすると活性化するので、何か夢中になってできる趣味を見つけるようにしたい。仲間と一緒に楽しむ趣味はこの時期、難しいかもしれないが、一人でできるものとして、古典や数学、世界史などの学び直しもおすすめだ。

【7】離れて、つながる

 いちばんの認知症予防は、人や社会とつながっていることだ。チューリッヒ大学の研究によると、ボランティア活動をしている人は、側頭葉の脳細胞が多いという。

 感染予防のために人と集うことは難しくなったが、離れていてもつながる方法を工夫して、1%でいいので、だれかのために、できることをしてみることが、認知症予防になる。

 来月、ぼくは72歳になる。人の名前が出てこないことが多くなった。認知機能を健全に保つにはどうしたらいいのか、ぼく自身が実践していることを『認知症にならない29の習慣』(朝日出版社)という一冊にまとめた。

 今回紹介した習慣以外にも、スクワットや速遅歩きなどの運動や食事の仕方、認知症のリスクを下げるための血圧と血糖値の管理などを紹介している。自粛生活は認知症リスクが高まるということで、急きょ、自粛生活中の注意も書き加えた。

 認知症予防と新型コロナ自粛生活は、丁寧に暮らしながら、自分を楽しませることが大事という点でよく似ている。今後、大きく変化するポスト・コロナの世界は、傷跡も大きいだろう。しかし、価値観の転換によって、もっとおもしろく生きるチャンスもある、そう思って今を過ごしている。

●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。著書に、『人間の値打ち』『忖度バカ』など多数。

※週刊ポスト2020年6月5日号