6月19日、いよいよプロ野球が始まる。気になる開幕投手の顔ぶれは各チームの監督の公表によって、以下のように明らかになっている。

 セ・リーグは、巨人・菅野智之(3年連続6回目)vs阪神・西勇輝(2年ぶり2回目)、ヤクルト・石川雅規(3年ぶり9回目)vs中日・大野雄大(3年ぶり3回目)、DeNA・今永昇太(2年連続2回目)vs広島:大瀬良大地(2年連続2回目)。パ・リーグは、楽天・則本昂大(2年ぶり6回目)vsオリックス:山岡泰輔(2年連続2回目)、西武・ザック・ニール(初)vs日本ハム・有原航平(3年ぶり2回目)、ソフトバンク・東浜巨(初)vsロッテ:石川歩(2年連続2回目)。

 直前の怪我などがなければ、まずこの顔触れになりそうだ。現役で最も多く開幕投手を務めたのは、涌井秀章(西武→ロッテ→楽天)の9回。順当に行けば、ヤクルトの石川はトップに並ぶことになる。3位は、7回の岩隈久志(近鉄→楽天→メジャー→巨人)。4位タイは、6回の松坂大輔(西武→メジャー→ソフトバンク→中日→西武)、金子千尋(オリックス→日本ハム)になる。

 歴代の開幕投手回数ベスト5を挙げると、1位タイは14回の金田正一(国鉄→巨人)、鈴木啓示(近鉄)、3位は13回の村田兆治(ロッテ)、4位は12回の山田久志(阪急)、5位は10回の東尾修(西武)となっている(記録は2リーグ分裂以降。以下同)。いずれも通算200勝以上の大投手だ。昨今はメジャーリーグへの移籍、3月にWBCが行われる事情もあり、金田や鈴木の14回を抜くのは困難かもしれない。

 昭和の頃から開幕戦はエースに託すというイメージが強い。しかし、過去には奇策を打って出るチームもあった。最近では、2004年から中日で指揮を執った落合博満監督が3度も意外な手で相手を幻惑した。野球担当記者が話す。

「最も有名なのは、就任1年目に3年間登板ゼロの川崎憲次郎を開幕投手に持ってきたことでしょう。当時の中日は山本昌、野口茂樹、川上憲伸というエース級が揃っており、誰も予想できなかった。チームメイトも、当日のロッカーで知って驚いたという逸話まであります。落合監督は正月には川崎の開幕投手を決めていたようですが、それが情報漏れしなかったことも見事です」(以下同)

 川崎は2回途中5失点で降板したものの、打線が奮起し、広島のエース・黒田博樹を攻略。8対6で逆転勝ちを収めた。ルーキーや新外国人、メジャーから復帰した2003年のオリックス・吉井理人を除けば、前年登板なし投手の開幕先発は初めてだった。この奇策は他球団に落合采配を警戒させるのに十分なインパクトを与え、同年中日は5年ぶりのリーグ優勝を果たした。

 翌年から2008年までの開幕投手はエースの川上憲伸と正攻法だった。その川上がアトランタ・ブレーブスへ移籍した2009年、落合監督は3年目の浅尾拓也を抜擢した。前年は全てリリーフでの登板で、先発は1年目の8月17日以来だった浅尾は8回1失点と期待に応え、チームは4対1で横浜を破った。

「川上は去りましたが、吉見一起は前年に初の2桁勝利を挙げていました。先発にはチェンや中田賢一もいた。その中で、前年のセットアッパーである浅尾の起用は驚きました。浅尾は5月13日を最後にリリーフに回り、引退まで先発することはありませんでしたから、周囲には奇策に見えたでしょう」

◆前年4勝以下の投手を3度開幕投手に選出

 2011年には、前年4勝のネルソンに開幕を任せた。この年は春季キャンプでチェン、吉見、山本昌と投手陣に故障者が続出。誰が来るのか予想しづらい中、落合監督は開幕戦の出場選手登録に朝倉健太、岩田慎司、小笠原孝、中田賢一、ネルソン、山内壮馬というローテーション投手を全て入れた。通常、先発投手の登録は数名に絞り、リリーフや野手を補充するが、相手の横浜を幻惑する作戦を取ったのだ。開幕戦は敗れたものの、その年、中日は首位・ヤクルトとの最大10ゲーム差を逆転し、連覇を果たした。

 落合監督は中日で指揮を執った2004年から8年間で、前年4勝以下の投手を3度も開幕に選んだことになる。同期間の12球団では、2008年のヤクルト・石川雅規(前年4勝)と阪神・安藤優也(前年2勝)の2人だけ。石川は前年不調に陥り、チームの最下位もあって勝ち星が伸びなかったが、2006年まで5年連続2桁勝利。安藤は前年故障で8試合の登板に終わっていたが、2005年から2年連続2桁勝利という実績があった。

「落合監督は、その時々のベストを選択していく監督でした。浅尾を抜擢した2009年も、『普通に考えればそうなる。みんなキャンプ、オープン戦を見てないからな』と報道陣に話していた。つまり、“開幕戦はエースでなければならない”という固定観念を持たなかった。先入観に縛られる世間から見ると奇策のように映りますが、落合監督の中では当たり前のことなんです。

 2007年、巨人とのクライマックスシリーズ初戦、レギュラーシーズンの後半戦0勝5敗だった左腕の小笠原孝を起用した時も、『奇襲でも何でもない。普通の選択』と答えています。この年の巨人は1番・高橋由伸を筆頭に、小笠原道大、李承燁、阿部慎之助と左の強打者が並んでいました」

 試合中の采配はオーソドックスな印象だった落合監督だが、開幕戦での先発起用では相手を幻惑し、その試合のみならず、シーズンを通して主導権を握っていった。そして2010年、2011年と連覇した落合監督が解任された翌年、セ・リーグは予告先発制度が導入された。

「予告先発はお互いにミーティングの時間も減りますし、正々堂々と戦うという大義名分もある。しかし、いかに相手の裏をかくかという心理戦は野球の醍醐味のひとつですし、そこからドラマも生まれる。最近は読み合いの風潮が薄れており、ソフトバンクのように強いチームが予想通りに日本一になる。野球は意外性のスポーツであり、想像しなかったことが起こるから面白いという面がある。今のプロ野球界では、なかなか奇策が打てませんね」

 時代によってルールは変わる。これは仕方ないことかもしれないが、落合監督の作戦が今もファンの記憶に残っていることも忘れてはならない。