華やかさと実力を兼ね備えた新鋭の躍進で盛り上がる女子ゴルフ界。その裏側には、あのレジェンドの存在があった──。

 日本女子オープンで国内メジャー大会を初制覇した原英莉花(21)。黄金世代では畑岡奈紗(21)、渋野日向子(21)に続く3人目の国内メジャー制覇となり、一躍新世代の主役に躍り出た。

 端正な顔立ちと身長173cm・8頭身のスタイルでクールビューティとしてギャラリーを沸かす原だが、アマチュア時代は目立った実績がなかった。

 高校生で日本女子オープンに勝った畑岡やツアー優勝した勝みなみ(22)ら同じ1998年度生まれがジュニア時代から注目される一方、原はプロテスト2回目で合格するも、合格後も戦いの場は下部ツアーだった。

 そんな彼女が黄金時代3人目のメジャー女王になった背景には、「あの男」の存在がある。プロ通算113勝、国内ツアーで12回の賞金王に輝いた“ジャンボ”こと尾崎将司(73)だ。

 10歳でゴルフを始めた原は、神奈川・湘南学院高校1年生の時からジャンボに師事している。

「知人の紹介で千葉のジャンボ邸を訪れた原がドライバーを披露すると、ジャンボの目の色が変わった。ただ、アプローチを見て『ダメだな』と一言漏らした。それでも『教えていただけますか』と原が頭を下げるとジャンボは『いつでも来い』と入門を認め、週末や夏休みに千葉に通うようになった」(ゴルフジャーナリスト)

 日本女子オープン前には、師弟間でこんなやり取りがあった。

「原が『ショットに悩んでいる』と相談すると、ジャンボは『(1ラウンド)30パットが切れないで、何がショットだ』と一喝。彼女は迷いが吹っ切れ、ピンに向かって攻めることに集中できた。2位に4打差をつけるぶっちぎりの優勝も、『相手があきらめるまで手を緩めるな』というジャンボの教えを守った結果です」(同前)

タイヤを引いてダッシュ

 女子プロゴルフ界を席巻する「ジャンボ門下生」は原だけではない。

 今年8月、2大会連続優勝し、規格外の飛距離で“女タイガー”と呼ばれる現在賞金ランクトップの笹生優花(19)と昨年のプロテストに現役高校生で合格した新生・西郷真央(19)もジャンボ邸育ちだ。

 ジャンボの指導の根底にあるのは、「基礎体力と基礎練習こそ最も大切」という信念だ。

「一日中バンカーから打たせたり、シャドースイングを何時間もやらせるなど、反復練習は徹底している。原の場合は、球質を重くするため幅30〜40メートルあるバンカーの中でタイヤを引いてのダッシュを何本も繰り返させました。ソフトボールを短いクラブで打ったり、重い野球用のマスコットバットでの素振りやキャッチボールをさせるなど、他のスポーツを取り入れ、体重移動やダウンスイングのタメを身に着けさせるのもジャンボならではです」(同前)

 細かな指導をするのではなく、重みのある一言を残して自主性を尊重するのもジャンボ流だ。

「ジャンボは練習をじっと見守り、『打ち方が悪い』と一言だけ残して姿を消します。弟子に自分の頭でどうすべきか考えさせるんです」(同前)

「掃除のオジサン」に間違われる

 無敵を誇った頃のジャンボは強面、時には不遜なイメージがあるが、若い女子プロたちは全盛期を知らない。ジャンボが最後に優勝した2002年のANAオープンの時、原はまだ3歳だった。ジャンボ自身、現役バリバリの頃とは違うアプローチで彼女らと接している。

「ジャンボがトップダウンで教えるのではく、メンバーが練習やラウンドを通して競い合うことで技術を高めていく。

 今ではジャンボもすっかり丸くなった。弟子のための素振り棒や柄の短いラケットなど練習道具作りは彼の仕事で、朝早くから庭や芝生の手入れもします。若い女子選手がジャンボ邸を最初に訪れる時、庭を手入れするジャンボを“掃除のオジサン”と勘違いして挨拶することが恒例だそうです」(同前)

 あのジャンボがそこまでするなんて。その理由について、今年2月の『ジャンボ尾崎ジュニアレッスン会』でジャンボはこう明かしていた。

「教えるのは苦手だけど、若い子のゴルフを見ていると気持ちいい。自分のことより、そっちのほうが重点的になるような気がしてきたよ」

 そんなジャンボに、原は「ここまでしていただいて有難い。道標としてちゃんとした方向に導いてもらった」と感謝を述べた。

 世代と性別を超えてジャンボが育てた選手たちは世界の壁を破れるか。

●取材・文/鵜飼克郎(ジャーナリスト)

※週刊ポスト2020年10月30日号