7月2日、オーストラリア・ゴールドコースト。フルマラソンを走り終えてから僅か1時間ほどだというのに、川内優輝(30歳・埼玉県庁)はランニングシューズを脱ぐと青い空の下、白い砂浜をゆっくりと走り出した。

「替えのランニングパンツがあったら、アイシングもかねて海に入ってもよかった」と笑ったが、走り終えた多くのランナーが早々に引き上げるなか、疲労回復やケガの予防対策としてクールダウンをしっかりしている川内の姿は海外に行っても変わらない。

 8月6日に迫った世界陸上男子マラソン(英ロンドン)に、自身3度目の出場となる川内。この日は、その本番前の最後のレースとしてゴールドコースト・マラソンに臨み、全体3位、日本人2位の2時間9分18秒で走っていた。優勝した野口拓也(コニカミノルタ)には19秒差で敗れたものの、川内の表情は明るかった。

「30キロまではほぼ予定通り。目標としていたサブ10(2時間10分以内)で3位以内も達成できましたし、本番に向けていい走りができました」

 川内にとってゴールドコーストは、初マラソンとなった2009年の別府大分毎日マラソンから数えて実に70回目のフルマラソンとなった。通常、実業団選手がフルマラソンを走るのは年間1、2回だが、川内は今年の4月以降だけでもテグ(韓国)、プラハ(チェコ)、ストックホルム(スウェーデン)、ゴールドコーストと月1本の海外フルマラソンを走ってきた。

「これだけマラソンを走っていると、最近はアフリカの選手からも『オマエはクレイジーなのか!?』なんて言われます(笑い)」

 公務員としてフルタイムで働きながら仕事と競技(マラソン)の両立を貫く川内にとっては、レースも練習の一環。フルマラソン以外にも毎週のように市民マラソンに参加している。

「レースだとモチベーションも上がりますし、練習とはまた質の違ったトレーニングができるんです。でも、決してやみくもにレースに出ているわけではなく、狙ったレースから逆算して、その時期のトレーニングにあったレースに出るなど、しっかりプランを立てているんです」

 ゴールドコースト・マラソンの2日前、川内はスポンサー主催の夕食パーティーに招待されていた。その席で川内がすでに2017年だけで18ものレースに参加していることが紹介されると、場内では拍手が沸き起こった。いまや川内の常識破りの走りは、世界のマラソン関係者を驚かせているのである。

●かわうち・ゆうき/1987年3月5日、東京都生まれ。埼玉県久喜市立鷲宮中、県立春日部東高を経て学習院大学へ。大学卒業後は2009年に埼玉県庁に入庁し、2014年4月より久喜高校(定時制)の事務職に。フルマラソン70戦で優勝25回。2013年3月のソウル国際マラソンで自己ベストの2時間8分14秒をマーク。五輪出場は2大会連続で逃したが、世界陸上は2011年と2013年に続き、ロンドン大会が2大会ぶり3度目の出場となる。175センチ、62キロ。

■取材・文/栗原正夫 ■撮影/岸本勉

※週刊ポスト2017年8月11日号