臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になった著名人をピックアップ。記者会見などでの表情や仕草から、その人物の深層心理を推察する「今週の顔」。今回は、サッカー日本代表を率いる西野朗監督に注目。

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 ロシアワールドカップに向けた最終メンバー23人が発表された。選ばれたメンバーは大方の予想通り、そこにサプライズはなかった。

 前日5月30日に行われたガーナ代表との国際親善試合。選考テストの意味があると西野監督が話していたが、日本は0−2で完敗した。ハリルホジッチ前監督の突然の解任を受け、西野監督が就任したのは4月。選手たちを招集してメンバーを選出、9日前からキャンプをスタートし、新しい戦略やシステムを目指していたという。それがチームとしてうまくいくのかどうか、西野監督自身、不安が大きかったのだろう。

 試合前の会見では、「明日のゲームに向けて」「代表チームらしい戦いをしたい」と身体を大きく左右に揺らし、無意識のうちに不安をのぞかせていた。ゲームを「楽しみ」と言いながらも口元に力を入れてグッと引き締め、楽しみよりストレスの強さを感じさせる表情だった。

 そんな不安が的中したのか、試合は散々な結果に。試合後の会見では「勝つことを前提としていたので残念」と身体が大きく左右に揺れる。想像していた以上の残念な結果に、視線も揺れれば身体も揺れ、焦りと余裕のなさが見えてくる。それでも代表選手の選考については、「ゲームで確認できた中で決めたい」と語っていた。

 あるメディアがこの会見での西野監督の発言を取り上げ、監督の試合勘に対する不安について書いている。監督として数々の実績を積み重ねてきた西野監督だが、ここ数年はブランクがある。自身の不安要素を「ゲームはこういう流れで、こう入っていたんだなと感じさせられた」と言い、さらに改善や修正してきたいプレーについても、「自分の頭の中もスピードアップしなければならない」と語っていたのだ。

 勘は経験則による感性と創造する際の閃きからなるといわれる。勝負師の勘、職人の勘といわれるが、無数の経験やバラバラの知識につながりをもたせてギュッと圧縮してまとめ、目指す方向や対象を把握して創造し、判断やパフォーマンスに変えていく能力が勘だという。こう書くと、一人ひとり選手を招集して代表チームをつくり上げて勝利を目指すのと、勘の能力が出来上がるプロセスはどこか似ている。

 西野監督の発言を踏まえると、自らの勘がまだ完全に取り戻せておらず、選手それぞれに対する知識もまだ十分ではなく、選手に対する勘も働いていないようだ。そのため目指す方向に選手を動かす判断スピードが頭の中で追いつかず、閃きにつながらないのだろう。勘を取り戻すだけでなく、新しいチームへの知識を上書きする必要があるからだ。

 勘は全体を即座に把握し、感じ取るという直観的な能力でもある。試合中、対戦相手の戦い方に対し、個々の選手のプレーを判断して全体を見て、閃きある采配が瞬時にできるところまで己の勘を磨き上げるには、いかんせん時間が足りない。勝負にこだわってきた西野監督だからこそ、己の勘は何よりも重要なはずだ。だからこそ代表選手には、未知の期待や有望性より、予測可能で確証が持てるパフォーマンスと対応力が必要だったのだろう。

 代表となった23人にベテランが多く、選手としての実績や経験が重視される形になったのには、そんな理由もあるのではと思う。ゴールキーパー以外は、選手たちのポジションを明確にせず、フィールドプレーヤーとして名前を挙げたのも、チームとしての全体像を見通すだけの勘が、まだ十分ではないからではないだろうか。

 監督は、代表選考に携われることを「嬉しく思っている」と暗く陰鬱な表情で語っただけでなく、「自信を持ってリストに挙げた」とわずかに首を右に傾げていた。その暗い表情に、見ているほうとしては先行きの不安を感じてしまう。アトランタオリンピックで「マイアミの奇跡」を起こした経験があるからこそ、今の状況に対するストレスも大きいのだろう。

 ともあれ、開幕まで残り2週間あまり。果たして西野ジャパンに「ロシアの奇跡」はあるのだろうか?