頭が良くなる習い事として、「囲碁」が注目されている。韓国や中国、台湾では、学力向上のために子どもに囲碁を習わせるのが定着しており、日本でも徐々に広がりつつあるという。なぜ囲碁が知育にいいのだろうか。囲碁観戦記者の内藤由起子氏が手解きする。

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 まず、囲碁というゲームについて簡単に説明しよう。囲碁は、黒と白が戦い、盤上の領土を広く囲ったほうが勝ちという陣地取りゲームだ。しかし、ただ陣地を広く打っていけばいいのかというと、そう単純なものではない。

 同じボードゲームの代表的なものに、将棋がある。頭を使い、脳の発達に有用だということは同じだが、ゲームの性質が違うように、思考の質が違う。

 将棋は盤上に駒が並べられ、それぞれ駒の動きが決まっている。王様を取れば勝ちというゲームだ。序盤の数十手は(AIによる解析によって)いくつかのパターンが決まっていて、中盤からが勝負。王様を取る目標に向かっていくために、深い読みが必要になり、論理的思考を司る「左脳」を主に使い、フル回転させることになる。

 一方、囲碁はフェイズごとに頭の使いどころが変わってくる。

 盤上に何もないところから打って、骨格を組み立てていく。自由度が高いので、序盤で20手も進めば同じ碁は表れないほど変化が多彩だ。図形や映像の認識、イメージや空間認識を司る「右脳」を主に使う。

 中盤、石の生存に関しての戦いなどでは、読みも必要になってくる。そうなると「左脳」の働きが必要になる。しかし、ただ相手の石を取ればいいとも限らない。捨てるほうがいい可能性もあり、読んだ先の形勢判断力が大事になってくる。右脳と左脳、両方を使っているイメージだ。

 そして終盤は地の計算。どこに打つのが一番地(陣地の大きさ)が得なのかを計算するのは「左脳」。

 以上のように、碁を打っていると、知らず知らずのうちに脳のいろいろなところを使うことになるのだ。

 また盤上の広さも影響があるだろう。将棋は指せる場所が9×9=81か所。勝負は100手前後で決まる。それに対し、囲碁は打てる場所が19×19=361か所もあり、盤面が広い。勝負は200手前後から300手に及び、なにしろ道中が長い。「知力のスタミナ」も必要になってくる。

 考える種類、目的が多岐にわたり、選択肢が多く、多角的な判断が必要で、道中も長い。グーグル社がAIの研究開発に囲碁を選んだのは、囲碁が最強のゲームであるからだ。

 ただ、将棋のほうが囲碁より狭い中で勝負する分、より正確で深い読みが必要できつい要素があると思う。大学受験にたとえていうなら、少ない科目だが深い知識を必要とする「私立大学型」が将棋。囲碁は、文系でも数学が受験科目にあるなど、広い科目の勉強が必要な「国立大学受験型」という感じだろうか。

 囲碁と知育の関係として、東京大学入学者数上位校は囲碁部が強いというのは、全国高校囲碁選手権ができた1977年ころからいわれてきたことだ。

 現場の教師はどう見ているのだろうか。全国高校囲碁選手権大会34回の最多出場で男子最多の優勝9回を数える名門・灘高校(兵庫県神戸市)囲碁部顧問の内田啓教諭に聞いてみた。

 内田教諭自身も灘高校を卒業し、京都大学に進学。東京大学大学院修了後、麻布高校に勤務。現在は灘高校の理科教諭で、兵庫県高文連囲碁部門委員長も務める。

「昨年は囲碁部員3年生3人のうち、現役で1人は東大理科I類、1人が東大理科III類に合格するなど、コンスタントに東大や国公立大医学部に進学しています。中学で入部する生徒のうち半分位は囲碁のルールを一応知っている程度の初心者ですが、高校卒業時には高段者になる人も少なくありません」(内田氏)

 内田教諭は東京の御三家・麻布高校にも勤務していたことがあるが、そのときも成績がずっと伸び悩んでいた生徒が囲碁部で3年の夏まで活動して、その後ぐんぐんと成績が伸びて現役で東大や京大に合格したケースがよくあったという。

「囲碁部を最後までやりきった生徒のほうが後で伸びるというのは、他校の囲碁部顧問の先生との共通認識ですね。抜群の集中力で爆発できる力がついているのです」(内田氏)

 東大の囲碁部の学生に聞くと、多くが「囲碁より受験のほうがラクだった」という。確かに、定石や布石を覚えたり、プロの碁や自身が打った碁を並べ直したりする記憶力がつけば、受験勉強の暗記は易しく感じるだろう。

 また、囲碁は、他のスポーツなどと違って試合中にコーチのアドバイスを受けられない。すべて自分で考えて最後まで判断し続けなければならない。そのためには脳の広い範囲の鍛錬が必要で思考力がつく。自然と頭が国立型の“東大脳”になるため、囲碁が知育に大いに役立っていると実感する経験者は多いのだ。

 楽しいゲームで頭が良くなる囲碁を子どもに習わせるもよし、頭の体操で大人がやるのもよし。トライして実感してみるのをお勧めしたい。