品薄だからと買い占めに走るのはそれこそ品がない。探せば別の愉しみ方もある。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が指摘する。

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 ハイボール人気が止まらない。といっても、この10年ほど右肩上がりに加速しているウイスキーソーダ=ハイボールの話だけではない。加熱する人気は、酒造会社を舞台としたNHKのドラマ「マッサン」などによってさらに爆発的な勢いがつき、まさかの原料不足に陥るまで加速した。

 都内でハイボールを中心とした、カジュアルなバーを営む飲食店の店主は現状をこう嘆く。

「うちの酒はサントリー系が多いんですが、人気の高い『山崎』や『白州』はノンヴィンテージのレギュラー酒を入荷するので精一杯。長く使うメニュー表には『響』も載っていますが、もうずいぶん前から販売休止シールを貼っています」

 ウイスキーは熟成に年数がかかる。急激なハイボールブームを受けて、この数年、「白州」、「響」といった高級酒の「○○年モノ」ヴィンテージは次々に休売に追い込まれてきた。昨今はレギュラー酒にもその波が及んでいる。サントリーは今年1月「白角」が休売となり、同時にコンビニ向けの「知多」(350ml)、「角瓶」(450mlも販売休止に。他メーカーでもキリンの「富士山麓樽熟原酒50度」も休売に追い込まれた。

 しかしハイボール人気はもはやブームの域にはとどまっていない。「リーズナブル」「糖質オフ」などの追い風を受けて、完全に飲酒カテゴリーとして定着。「とりあえず、ハイボール!」という言葉も日常のものとなるほどの定位置を獲得している……。にも関わらず、原料ウイスキーは不足していて、ハイボール人気を受け止めきれていない。となると、「ワシの出番や」と意気込む代打ならぬ、"代酒"登場の流れがある。

 例えばベテラン組で言えば、宝酒造の「焼酎ハイボール」。実はこのアイテムは2006年、まだハイボールブームが到来する以前に発売されて以来、地道に販売量を伸ばし、2009年のハイボールの再ブレイクとともに存在感を示した。この23日からも「強烈パインサイダー割り」という炭酸ガス圧の強い期間限定アイテムの投入を予定している。ちなみに「チューハイ」の語源は「焼酎ハイボール」の略語だとされる。

 先月発売された「トーキョーハイボール」(合同酒精)は戦後にウイスキーの代用として下町を中心に人気を博した飲み方を再現したもの。焼酎に、色が琥珀色になる梅シロップを加え、炭酸で割った「ボール」と呼ばれていた飲み物。戦後、ウイスキーを入手できない日雇い労働者などの間で流行ったが、昨今では「下町ハイボール」として若年層にも受け入れられている。

 単なる"代酒"ではなく、小規模醸造所が自社ウイスキーを活用して新たな商品開発につなげるケースもある。先月、富山県砺波市の若鶴酒造が発売した缶ハイボール「ハリークレインズ クラフト ハイボール」は350ml缶で390円(税別)と大手のハイボールの2倍以上の値づけでリリースした。とかく値ごろ感ばかり追求されるハイボールに"ハイエンド"、"クラフト"という新しい概念を持ち込もうとしている。

 大手も原酒不足に手をこまねいてばかりいるわけではない。サントリーはスコットランドやアメリカ、日本などの複数国の原酒をブレンドしたウイスキー「碧」を発売。さらに海外に目を向ければ、以前、台湾のウイスキー醸造メーカー「KAVALAN」も現地で缶ハイボールを発売していたと聞く。

 コンビニなど、日常で見かけるいつもの缶ばかりではない。そういえば昨秋、KAVALANの醸造所を訪れたが、味、価格、ラインナップとも素晴らしく、危うく免税枠を超えて購入しそうになってしまった。その他、インドやオーストラリア、ニュージーランドなど台頭しつつある国のウイスキーを入手して自宅でハイボールを作るのもいい。空前の原酒不足だからこそ、開くことのできる扉がある。