【書評】『脳はみんな病んでいる』/池谷裕二、中村うさぎ・著/新潮社/1400円+税
【評者】嵐山光三郎(作家)

 脳研究者池谷裕二と中村うさぎの対談集。中村うさぎは二〇一三年八月に入院先で心肺停止となったが生還し、神経系の難病と診断されて車イス生活に戻った。後ろに介助者がいないと「ひっくり返る!」という恐怖心に襲われる。

 東大大学院薬学系研究科池谷教授は、うさぎさんのよき理解者で、それを自閉スペクトラム症(わざとヒンシュクを買う発達障害)の疑いがあるとし、自分も同じような症状があるため「同病あい憐れむ」エキサイティングな対談となった。ヤバイ対談。

 中村うさぎは「自分の欠点や異常さをギャグにする」自虐を処世術として「社会性を欠いたバカキャラ」路線を貫いてきた。買い物依存症を体験し、ブランド物やホストに浪費して、税金や公共料金を滞納する痛い目にあってきた。自らを実験台として、欲望の殉教者となって書く作家である。

「正常じゃない」ことをくりかえして、正常と異常の境界線がわからなくなる。その危険な領域へ侵入する脳の正体を追っていく。脳言語とはなにかを問う女性版ホーキング博士ですね。

 池谷先生は「うさぎさんは安泰な自分より、危うそうな自分を引き出してくれそうな人を求めている」と診断し、「東大生の三〜四割が自閉スペクトラム症」という説を唱える。「そもそも大学教授は全員発達障害」で「私も社会性欠如だ」と自覚する。火花散るお二人のやりとりが痛快で、活字から青い火花が散っている。

 最終章で、二人は専門の精神科医の診断をうけにいく。このドクターXがずけずけと聞く先生で、「うさぎさんって、すごく好きな人とセックスするとき、イケますか」と訊く。さらに「男性からクリトリスを刺激されたらイキますか」と問う。そして自閉スペクトラム症の「AQ-J」というアンケートを出し、数値を計算した。

 はたしていかなる結果となったのか。二人に対する診断書は、最後のページに記されています。脳に関するスリル満点の対論ドキュメント。

※週刊ポスト2019年4月19日号