猛烈な勢いだった台風19号によって多くの被害が出たが、武蔵小杉(川崎市中原区)エリアに林立するタワーマンションでも停電と断水が続き、エレベーターやトイレが使えなくなる建物が出るなど、意外なところでタワマンの脆弱性が注目されてしまった。住宅ジャーナリストの榊淳司氏は、「タワマンはじつは災害に弱い建物であることを認識すべき」と警鐘を鳴らす。

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 一般に「タワマンは災害に強い」と思われている。しかし、私は正反対の考えを持っている。拙著『限界のタワーマンション』(集英社新書)でも1章を設けて書いたが、タワーマンションは災害に弱い住形態なのである。

 災害とは主に地震を想定していたのだが、じつは台風に対しても脆弱な面があることが、今回の台風19号の襲来によって如実になった。

 まず、今回の台風は東京の都心近辺を通過したため、タワマンの上層階では相当の揺れがあったようだ。都心のタワマンに居住していると思われる、とある有名なユーチューバーは、「まるで震度1から2くらいの揺れですよ」といって、ちょっと怯えたような動画をアップさせていた。

 地震でも台風でも、タワマンは揺れる。下層階よりも上層階のほうが揺れは大きいはずだ。地震の場合は長くても数十秒の揺れだが、台風の場合は数時間続くことがある。三半規管の弱い方なら乗り物酔いと同じ症状になるはずだ。

 だが、地震でも台風でもタワマンの建築構造面ではあまり心配はない。最近建築されたタワマンはたいていが免震もしくは制振構造になっている。地震や台風では、ある程度揺れることによって、そのエネルギーを逃がす仕組みになっているので、それなりに揺れるのは仕方ない。

 構造面でいうと、今の建築基準法ではきちんと施工できていれば、地震によって躯体などに著しい損壊が発生することはない──という強度を想定している。私はこれを絶対だとは思わないが、これまでに地震や台風で躯体構造に問題が生じたタワマンはないと認識している。

 問題なのは、何といっても電力だ。タワマンは電力が安定的に供給されることを大前提として存在し、機能する住形態だ。電力の供給に問題が発生すると、たちまち居住困難な鉄筋コンクリートの箱と化す。

 今回、台風19号の襲来によって武蔵小杉にある某タワーマンションでは、地下にあった電気室が機能不全となった。電力の供給は途絶えていないが、それを建物内に送電できなくなった。つまり、建物全体が停電と同じ状態に陥ったのだ。

 当然、エレベーターは使えない。各住戸内でもエアコンや照明はもちろん、電気に頼るあらゆる機能は停止する。有線のインターネットも使えなくなったそうだ。

 さらに、これはタワマンの構造に起因する問題ではないと思われるが、トイレの排水もできなくなった。タワマンの上水道も電力が供給されることを前提としている。電力によってポンプを稼働させ、水道水を上層階まで押し上げているのだ。そのため、水道が止まれば飲料水だけでなく、トイレも流せなくなる。

 被害を受けたタワマンでは、各フロアには簡易トイレが設置されたというが、通常通りの排水ができなくなれば、そのタワマンには実質的に住めなくなる。

 もっとも、簡易式のトイレを使いながらシャワーも浴びられない暮らしを、現代の日本人が何日も我慢できるとは思えない。特に、それまでは快適なタワマン生活を送ってきた人々であるなら、なおさらであろう。多くの人が近隣のホテルや知り合いの住まいへ避難していたという。

 2011年3月11日に発生した東日本大震災では、広範囲に停電が発生した。被災エリアにあったある8階建てのマンションでは、居住者全員が敷地内に設置されたテント内で、お互いに励まし合いながら電力供給が回復するまでの数日を過ごしたという。電気が来ないマンションというのは、それほどまでに過ごしにくい空間であることを理解すべきである。

 今回、台風19号は不意にやってきたわけではない。数日前からその進路や勢力も予報によって伝えられていた。しかし、多摩川の氾濫までは想定できなかった。特に、武蔵小杉のようなタワマンが林立する現代都市が浸水するとは、ほとんどの人にとっては予想外であったに違いない。

 さらに言えば、タワマンの住民にとっては、まさか「電気が使えない」というのは想定外であったはずだ。

 今後、タワマンの購入や居住を検討するのであれば、今回の台風で発生したようなリスクは想定しておくべきであろう。川や海のそば、あるいは標高の低いエリアのタワマンならなおさらである。

 今回、浸水の被害を受けた武蔵小杉はここ十数年で急速にタワマンが増えたエリアである。優れた都心へのアクセスが評価され、急激に人気化していた。価格も上昇して、新築マンションの坪あたりの単価は、東京都の文京区とほとんど変わらなくなっていた。やや過剰な評価ではなかったか。

 2年ほど前からは、駅のキャパオーバーが話題になっていた。朝のラッシュ時には「改札まで30分の行列」などといった報道が盛んに出ていた。じつのところ、今でもキャパオーバーの問題は解決されたわけではない。タワマンはその後も増え続けているので、むしろ潜在的な問題は深刻化していると言える。

 今回、この武蔵小杉のタワマンエリアがじつは多摩川の氾濫で冠水しやすい低地であることが広く知られてしまった。茶色く濁った氾濫水の画像は、しばらく人々の脳裏に残るだろう。そういったことは当然ながら資産価値にも影響する。

 あと1年ほどは、このエリアでの新築マンションの売れ行きが鈍るだろう。中古マンションの取引も激減しそうである。

 その後、イメージが回復するか否かは分からない。2年ほど前に東京都江東区の豊洲エリアが、規定値以上の化学物質が検出されて話題になった。しかし、マンション価格への影響はほとんどなかった。化学物質による住民への実害がなかったからだ。

 しかし、武蔵小杉では実際に電気やトイレが使えなくなって不自由な思いをしたタワマン住人たちが何百人もいる。豊洲と同じ尺度では測れないだろう。今後、数年以内にまた台風によって浸水被害を受けた場合は、かなり怪しいことになりそうだ。

 だからこそ、多摩川の治水対策や各タワマンの災害対策が急がれる。