年末年始はゆっくり腰を据えて本を読む絶好の機会。2020年は果たしてどんな年になるのか? 評論家の坪内祐三氏が選んだ2020年を読み解く1冊は、『内閣調査室秘録 戦後思想を動かした男』だ。

●『内閣調査室秘録 戦後思想を動かした男』/志垣民郎・著 岸俊光・編/文春新書/1200円+税

「二〇二〇年はこうなる」と言うよりも、年々私の絶望感は深くなっています。つまり歴史に対するデタラメがどんどん増えているので。その原因は皮肉なことに「文明の発達」です。つまりコンピューターが進むことによって、逆に、正しい歴史から離れてしまうのです。最近の校閲の人の仕事を見るにつけ私はそう思います。

 かつて私の編集者時代の校閲の人の仕事振りは素晴らしかった。一つの事実を見極めるために幾つもの資料に当った。いわゆるカウンター・レファレンスです。ところが最近の校閲の人はパソコン一つで仕事をするのです。

 例えば最近私はこういう経験をしました。ある原稿で、「十数年前、相撲人気がなかった頃……」と書いたら、校閲の人が、その箇所に印をつけ、「八百長問題は二〇一一年だから八年前?」と書き入れてきました。

 もちろんそんなことは承知しています。しかしそのずっと前から相撲人気はなくなっているのです。そのことを私は他ならぬ『週刊ポスト』の二〇〇五年の最初の号の「二〇〇五年はこうなる」で指摘し、私の著書『大相撲新世紀2005-2011』 (PHP新書、二〇一二年)にも収録しています。校閲の人はそれらをノーチェックの上で、デタラメな指摘をしたのです。

 ということで、「この一冊」です。それは二〇一九年七月に出た文春新書の『内閣調査室秘録』(志垣民郎著、岸俊光編)です。刊行されてから三カ月以上経って読んだのですが、これは本当に凄い本です。最近の校閲と真逆にあるとても正確な本です。この本に出会えただけで二〇一九年は良かったし、二〇二〇年さらに二一年、二二年と輝きを増して行くでしょう。こういう本に出会えると、やはり、本というものはコンピューターよりもずっと優れたものだと思います。

※週刊ポスト2020年1月3・10日号

内閣調査室秘録 戦後思想を動かした男 (文春新書)