市民の最大の関心事である新型コロナの「感染経路」について、各自治体は感染者が参加していたライブ会場やイベント名などを次々に公開している。だが、そこにはひとつの重要な情報が抜け落ちている。“濃厚接触”の可能性を秘めた「感染者が受診した病院」が、ほとんど公表されていないのだ。

 広島県内初の新型コロナ感染者と確認された広島市安佐南区在住の30代男性は、PCR検査で陽性反応が出るまで、4つの病院で計8回も受診を重ねていた。

 広島市は入院先こそ「舟入市民病院」(同市中区)と発表したが、受診していた4つの病院については公表していない。同市在住の60代男性(自営業)が語る。

「高血圧症で市内の病院に通院している身なので、そら怖いですよ。もし自分の通院先がその4つに入っていたらと思うとね。濃厚接触してたんじゃないか、と考えてしまう。4つとも公表してもらいたいもんですわ」

 こうした事例が全国で見られる。2月下旬、神奈川県横浜市在住のタクシー運転手が新型コロナに感染したことが判明。同市によれば、この運転手は陽性反応が出るまでに3つの病院を受診していたが、病院名は公表されなかった。

「群馬県太田市で女性保育士が感染したケースでも、陽性反応が出るまでに2つの病院を受診していたことが分かっています。市は勤務先の保育園を公表しましたが、病院名は公表せず。市民からも疑問の声が上がっています」(地元紙記者)

 感染者が100人を超えた北海道では、感染した患者ごとに公表範囲が違う。道内の感染者発生状況は北海道庁(保健福祉部)のホームページで閲覧できるが、それを見ると次のようになっている。

〈患者A 3月8日 市立札幌病院を受診 3月10日 北海道医療センターに入院〉
〈患者B 3月4日 医療機関Aを受診 3月10日 医療機関Bに入院〉

 これは一例だが、同様に感染者が受診した病院が公表されているケースとされていないケースが混在している。

 誰が病院名を公表するかも、感染事例によってまちまちだ。市が公表するケースがあれば、都道府県の保健所が公表するケース、あるいは病院が自ら公表したケースもある。

 勤務する20代女性看護師の感染が確認された熊本市の熊本託麻台リハビリテーション病院は、院長の決断で自主的に発表している。

◆知らずに院内感染

 なぜこんなことが起きるのか。その原因は国が公表の統一基準を設けていないことにある。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏が語る。

「各自治体が各々の判断で公表範囲を決めているので、当然ばらつきが出てくる。病院の風評被害対策を取るのか、市民の予防対策を取るのかという点で判断が分かれるでしょう。病院名を公表すれば患者は激減し、病院経営には大打撃です。病院が閉鎖されたら、地域の治療拠点がひとつなくなるわけで、それは自治体としても困る。

 一方で、市民の予防対策を取るなら、病院名まで公表した方がいい。正解がない難しい問題で、同じ感染事例でも、国と都道府県で公表範囲が異なるケースもある」

 1月末に府内初の感染者が出た京都府では、厚労省が「府内在住の20代女性」と、市町村名も国籍も伏せて発表したが、府は「京都市在住の中国人留学生」と踏み込んで発表し、入院先が京都市立病院であることも公表した。

 先述した広島市や横浜市、太田市などの各自治体も、それぞれの判断で公表範囲を決めていたようだ。広島市に聞くと、こう回答した。

「コロナウイルスはあくまで飛沫感染するもので、空気感染はしないという点を重視しました。今回報じられている患者のケースで言えば、受診先の病院でもマスクを着用しており、不特定多数の来院者に感染させた可能性はないと判断して病院名の公表は控えました。

 入院先を公表した理由は単純で、コロナ感染者は国が指定した『特定感染症指定医療機関』、あるいは都道府県が指定する『第一種、第二種感染症指定医療機関』に入院する決まりになっているのですが、広島市で当該するのは今回公表した病院しかないのです」(広島市健康推進課)

 現在までに全国紙報道ベースで公表されている、感染者が受診(院内感染含む)、入院した全国の病院を表にまとめた(3月11日時点)。

 医師のなかにも病院名の公表を求める声がある。国際医療福祉大学大学院教授(公衆衛生学専攻)の武藤正樹医師が語る。

「議論があるのは分かりますが、感染予防を徹底するという観点から言えば、やはり病院名は公表すべきだと考えています。知らずに訪れた病院で患者が院内感染する可能性は誰にも捨てきれない。それで病棟閉鎖となれば、さらに多くの患者が行き場をなくしてしまう。

 これまでに公表されたライブハウスなどの施設にも風評被害はあったでしょう。病院だけが特別ではない。市民の健康を守るという本来の目的に立ち返るのなら、むしろ病院側が自ら公表したほうがいいと考えます」

※週刊ポスト2020年3月27日号