美術史家で明治学院大学教授の山下裕二氏とタレントの壇蜜という、日本美術応援団の2人が、日本の美術館の常設展を巡るこのシリーズ。2人は今回「川崎市岡本太郎美術館」を訪れた。

山下:川崎市岡本太郎美術館のシンボルタワーとして親しまれるのが高さ30メートルの大きな『母の塔』です。

壇蜜:生田緑地内という立地が生かされたスケールですね。『明日の神話』もインパクトがあります。左端に仲睦まじい3人の姿が描かれていますが、全体的に絵が暗く人が人でなくなっているような感じがします。

山下:真ん中で爆発しているのは核兵器で、人類初の水爆被害者となった第五福竜丸の船も右に描かれています。寄り添う3人は太郎という新しい生命の誕生を祝う両親と自分の姿を投影したのかもしれませんね。

壇蜜:禍を乗り越えた未来を照らす、希望の光──。

山下:そして人間の生き抜く力。この壁画は『太陽の塔』と同時期の作品です。

壇蜜:どちらも力強いメッセージを含んだ作品です。

山下:太郎は戦後挑みかかるように大衆を扇動し、「芸術はうまくあってはいけない、きれいであってはならない、ここちよくあってはならない」の3原則で衝撃を与えましたが、反動で日本古来の美しいものの存在が霞んでしまった。彼を理解するにはそうした負の側面も踏まえて向き合いたいと考えています。他方で権威への反発から、美術史の専門家が賞賛する水墨画の大家を頑なに否定してしまうような一面もありました。

壇蜜:信念を貫きつつも時には感情が先走ったと聞くと、太郎さんも人間だったんだとホッとしてかわいらしさを感じてしまいます。

◇川崎市岡本太郎美術館
【開館時間】9時30分〜17時(最終入館16時30分)
【休館日】月曜(祝日の場合は開館)、祝日の翌日(土日にあたる場合は開館)、年末年始、臨時休館あり
【入館料】一般1000円※展覧会ごとに異なる
【住所】神奈川県川崎市多摩区枡形7-1-5生田緑地内

【プロフィール】
山下裕二(やました・ゆうじ)/1958年生まれ。明治学院大学教授。美術史家。『日本美術全集』(全20巻、小学館刊)監修を務める、日本美術応援団長。

壇蜜(だん・みつ)/1980年生まれ。タレント。グラビア、執筆、芝居、バラエティほか幅広く活躍。近著に『結婚してみることにした。壇蜜ダイアリー2』(文藝春秋刊)。

■撮影/太田真三 取材・文/渡部美也

※週刊ポスト2020年11月6・13日号