2019年の「過労死等防止対策白書」によると過労死、あるいは過労自殺で、労災認定されたのは158人だ。仕事のしすぎで疲労が蓄積し、死に至る過労死は英語でも“KAROSHI”と表記される。欧米人の場合、仕事の疲れはバカンスで回復させる考え方のため、死ぬほど働くことを表わす言葉がないという。

 日本では1999年より、国家プロジェクトとして、疲労のメカニズムに関する研究が世界に先駆け実施されている。その疲労研究の中から、働く人の疲労度合いを客観的に計測するための方法が開発された。唾液中のヒトヘルペスウイルス(HHV-6とHHV-7)を採取し、ウイルスの数を計測する方法だ。

 疲労計測の特許を取得した、東京慈恵会医科大学ウイルス学講座の近藤一博教授に話を聞く。

「私は、うつ病の研究に取り組んでいました。その際、ヒトの遺伝子の中に、うつ病発症の遺伝子を探したけども、結局は発見できなかった……という研究論文を読んだのです。そのうちヒトと共生する細菌やウイルスを調べていく過程の中で、ヒトに潜伏感染しているHHV-6の遺伝子であるSITH-1が、うつ病発症に関与していることを発見したのです。うつ病の初期症状には疲労があるため、さらに研究を進めたところ、労働における疲労にも、HHV-6やHHV-7が関わっていることがわかりました」

 疲労は生理的疲労と、うつ病や筋痛性脳脊髄炎(慢性疲労症候群)などの病的疲労の2種類ある。生理的疲労とは主に体の疲労で、休息すれば回復する。しかし、こじらせると、うつ病や過労死を誘引する。一方、病的疲労は脳神経に係わる病気のせいで疲労の症状が出ているため、休息しても回復しにくい。

 研究により、生理的疲労になると子供の頃に感染し、細胞内で潜伏しているHHV-6とHHV-7が反応して増殖、唾液中に出てくることが判明した。そこで唾液をPCR検査し、HHV-6とHHV-7の数を調べることにより、客観的疲労数値の計測が可能となった。

「会社の健診などで、疲労を検査する場合、唾液のPCR検査とともに問診とVAS(自身で疲労度を示す)の検査を実施するのが理想です。というのも、唾液中のHHV-6とHHV-7の数値が低いのに、VASで高い数値(強い疲労感)を示した方は病的疲労が疑われるからです。病的疲労で、うつ病が一番頻度が高いことから、早期発見にもつながります」(近藤教授)

 身体を守る3大生体アラームは痛み、発熱、疲労だ。痛みと発熱のメカニズムと回復因子は解明されているが疲労は不明だった。

 それが近年、炎症性サイトカインが脳に作用し、疲労感を発生させることが判明。運動でも炎症性サイトカインが産生されるという──。

取材・構成/岩城レイ子

※週刊ポスト2021年1月29日号