仕事や家事など、やるべきことが多くてなかなか睡眠時間を取れないという人も多いだろう。そして、睡眠時間が少ないことを気にするあまり、どんどん不安になってさらに眠れなくなるという人も少なくないはず。そんな不眠に悩む人々の助けとなるのが、「睡眠外来」の専門医だ。通常の内科よりもじっくりと話を聞き、不眠の原因や睡眠を妨げる生活習慣を掘り下げる──。睡眠外来の専門医が推奨する、生活改善法と睡眠薬活用法を解説する。

睡眠薬は生活の質を保つのに便利な道具

 最近、薬局では眠りに誘う市販薬の種類が増え、機能性食品にも眠りをサポートするGABA入り商品などが目につくようになった。

「市販の睡眠改善薬は抗ヒスタミン薬というもので、風邪薬をのむと眠くなることがありますが、その眠くなる作用を利用しています。

 これは一過性の不眠に使用するのに便利で、クリニックに行くほどではないが、ちょっと眠れないときにのむとぐっすり眠れます。ただし、のみ続けると耐性ができてしまい効き目がなくなるので、1箱のんで改善しない場合は、医師に相談してください」

 そう話すのは、スリープ・サポートクリニック理事長の林田健一さん。

 一方で、内科や睡眠専門外来などで処方されるのが、より本格的な不眠治療のための睡眠薬や睡眠導入剤だ。

「日本では現在、【1】50年以上前からあって種類も豊富な『ベンゾジアゼピン系』、【2】体内時計のリズムを整える『メラトニン受容体作動薬』、【3】覚醒を維持する脳内物質の働きを阻害する『オレキシン受容体拮抗薬』の3タイプが使われています。これらには超短時間作用型、短時間作用型、中間作用型、長時間作用型があり、薬により作用時間の長さを示す半減期が異なるため、医師が適切なものを選んで処方しています」(林田さん)

 半減期とは薬の血中濃度が最初の最高濃度から、半分まで下がる時間。この時間が長いほど長時間作用が続く。

 たとえば、よく用いられる『マイスリー』の半減期は、約2時間。服用後30分ほどで血中濃度が最高値に達し、その後、2時間経つと2分の1に、4時間経つと4分の1に、6時間経つと8分の1にと、効き目が弱くなっていく。

「ただし注意したいのは、標準的な半減期は正常な若年成人で測定されている、ということです。たとえば、説明書に半減期が2時間と書いてあっても、高齢になれば代謝が下がるため、薬は2時間よりも長く作用します」(林田さん)

 睡眠薬と睡眠導入剤の違いは、「半減期が短いものを睡眠導入剤と呼んでいるだけで、薬の作用に違いはない」と、すなおクリニック院長の内田直さんは言う。

「使い分けとしては、不眠症の類の入眠障害、いわゆる“寝つきが悪い人”には、睡眠導入剤が適応しています。また、夜中に何度も起きてしまう人は、一晩中効果が続く半減期の長い薬が向いています」(内田さん)

 睡眠薬というと怖いイメージを持つ人もいるかもしれない。RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック院長の白濱龍太郎さんが説明する

「不眠症の睡眠薬は、うまく使えばちゃんと眠ることができ、日中の活動のクオリティーを維持するのにも便利です。

 眠れない状態が1か月以上続くのは不眠症です。不眠症になると血圧や血糖値が上がり、狭心症や心筋梗塞などさまざまな病気を引き寄せるリスクが高くなります。だからこそ、薬を上手に使いつつ次の5か条を参考に、早めに不眠を解消するのが大切なのです」

【不眠解消の5か条】
1. 朝日を浴びる
不眠の解消には、生活リズムを作る体内時計を整えるのが重要だ。私たちの体は、朝起きて太陽の光を浴びるとその16時間後に眠くなるようにできている。一定時刻に起き、起きたらカーテンを開け、朝日を浴びるのを日課にしよう。

2.日中はアクティブに!
日中にウオーキングなどして太陽の光を浴びると、セロトニンと呼ばれる脳内物質が分泌される。このセロトニンから睡眠ホルモンであるメラトニンが作られるため、よく日に当たった日はセロトニンの量も多くなり、夜、入眠時に睡眠を促してくれる働きも強くなるのだ。

3.眠る前にリラックスする
脳や体が緊張していると、交感神経が活発に働き眠れなくなってしまう。眠る前に音楽を聴く、ストレッチをする、アロマをたくなど、自分に合う方法でリラックスすることが大切だ。

4.入眠へのNG行為を避ける
よりよい睡眠を得るためには、食後や入浴後にすぐ寝る、カフェインやアルコールの過度な摂取、寝る前の激しい運動などはNG。ちなみに食事や入浴は、就寝の2時間前までに済まそう。

5.ブルーライトに気をつける
ついやりがちなのが、寝る前のスマホやパソコンの操作、テレビや映画鑑賞など。電子機器などの画面から出るブルーライトは、脳を興奮させてしまう働きがある。眠る前は控えよう。

 睡眠外来の治療は、睡眠薬を使った薬物療法だけでなく、生活改善や心理療法といった非薬物療法も並行して行う。

「私のクリニックでは、初診から1時間近く患者さんの話を聞きます。その人の背景や葛藤が不眠の原因になっていることも多いので、お話を聞きながら、薬をなるべく使わず、睡眠の問題を解決する糸口を見つけるように心がけています」(内田さん)

 睡眠薬をのむ場合、大切なのが、“依存しない”という問題意識だ。

「日本では現在も非常に多く使われているベンゾジアゼピン系は、海外では以前から『長くても1〜2か月でやめましょう』という規則があり、日本も長期連用を避けるよう勧告されています」(林田さん)

睡眠薬依存に注意 減薬や併用を!

 そもそもベンゾジアゼピン系の睡眠薬は、脳の働きを低下させることにより、眠気を起こすもの。

「夜はぐっすり眠れ、朝はスッキリ起きられますが、ふらつきや転倒などの危険、麻酔のような作用があるほか、長くのみ続けていると耐性ができて効かなくなったり、依存症状が表れることも。高齢者が漫然と使うと認知機能が低下する弊害もあり、医師に相談しながら減らしていくことが大切です」(内田さん)

 その点、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬は、依存や耐性が起こりづらいという利点がある。

「健忘やふらつきも、理論上は起こらない。比較的安全度の高い睡眠薬といえます。睡眠薬は適切な薬を必要なときにだけ用いるもの。便利な半面、耐性や依存性が高いものもある。不眠がある程度改善したら、睡眠薬を減らすことを考える必要があります」(林田さん)

 ただ、すぐに服用をやめると眠れなくなるため、薬を少しずつ減らしていく漸減法や、べンゾジアゼピン系以外の睡眠薬との併用を、専門医と相談の上で進めるのが安全だ。

 そして、少しずつ依存性の少ない薬物に置き換え、最終的に、薬からの離脱をめざすことを忘れてはいけない。

「私の患者さんの中に、ウオーキングなどの運動療法によって睡眠薬をのまなくても眠れるようになった人がいます。そのかたは、『薬をやめて、昼間、頭がスッキリしているという感覚がよくわかりました』と、話してくれました」(内田さん)

 運動で眠る力を取り戻すこともできる。そんな希望があることも覚えておこう。

【プロフィール】
林田健一さん/睡眠医学の専門医。スリープ・サポートクリニック理事長。著書に『いきなり名医!どう診る?日常診療に潜む睡眠障害』(日本医事新報社)など。

内田直さん/精神科医。すなおクリニック院長。早稲田大学名誉教授。薬と生活面から睡眠障害にアプローチ。著書に『好きになる睡眠医学』(講談社)など。

白濱龍太郎さん/睡眠専門医。RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック院長。2013年に睡眠と呼吸に関して幅広く診療を行う同院を設立。著書に『熟睡法ベスト101』(アスコム)など。

取材・文/北 武司

※女性セブン2021年3月11日号