音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、春風亭昇也と立川笑二、配信で楽しむ二ツ目の会の醍醐味についてお届けする。

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 1月27日、新宿・道楽亭で行なわれた春風亭昇也と立川笑二の二人会を生配信で観た。オンライン配信が定着し、こういう二ツ目の会を気軽に家で観られるのはありがたい。

 まずは笑二が『一眼国』。両国の見世物小屋の主人が一つ目を捕まえに行く噺だが、「元は噺家だった新米の六十六部が酒を御馳走されて芸人時代の体験を話す」というのは珍しい演出で、酔ってバカ話をしていた男が主人に「面白くない」と言われて不機嫌になり、「思い出したくないイヤなこと」として一つ目の恐怖を語る、という趣向。

 昇也は師匠の昇太に通じる明るい芸風が魅力。落語も巧いがフリートークがまた絶妙で、笑二の『一眼国』を受けての“見世物小屋体験談”から“怪談を語るコツ”へと至る軽妙なマクラでたっぷりと楽しませてから『長屋の花見』へ。貧乏長屋の連中のワイワイガヤガヤに工夫があって面白く、軽やかな語り口が実に心地好い。二ツ目でこの噺をここまで楽しく聴かせるとは見事だ。

 休憩を挟んで昇也の二席目は『馬のす』。「馬の尻尾を抜くとどうなるか」をなかなか教えず枝豆で飲み続ける男が“赤い洗面器の男”を持ち出したのには笑った。三谷幸喜が古畑任三郎シリーズで何度も用いたネタで、「たっぷり水の入った赤い洗面器を頭に乗せた男が向こうから歩いてきた。『どうしてあなたは赤い洗面器なんか頭に乗せて歩いているんですか?』と訊くと男はこう答えた」で必ず中断されてオチが語られない小咄だ。「馬の尻尾と赤い洗面器、どっちが聞きたい?」という究極の選択を迫る男。古畑なら絶対“赤い洗面器”を選ぶだろう(笑)。

 笑二の二席目は談志十八番『鉄拐』。中国の貿易商・上海屋の大余興大会の出し物として連れて来られた鉄拐仙人が口から自分の分身を出す“一身分体の術”で寄席のスターとなり、俗にまみれ堕落していく。驕った鉄拐に手を焼いた寄席は新たに仙境から張果老を呼ぶ。

 ここで笑二は鉄拐と張果老が“東王父という師匠の兄弟弟子”という設定を持ち込んだ。張果老が寄席に出たのは堕落した兄弟子を諌めるため“時代の寵児”鉄拐に近づく手段。瓢箪から馬を出す芸で張果老は鉄拐と人気を二分する。面白くない鉄拐は張果老の瓢箪から馬を盗もうとするが、現場を張果老に押さえられてしまう。弟弟子に諭され、俗にまみれた自らを恥じて仙境に帰っていく鉄拐。後に残った張果老が呟く。「帰ったか、これで俺の時代だ」

 独自の演出による意表を突く展開と皮肉なサゲ。師匠の談笑に負けない“改作魂”を見せてもらった。

【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。『21世紀落語史』(光文社新書)『落語は生きている』(ちくま文庫)など著書多数。

※週刊ポスト2021年3月12日号