どんなマスクをつけて、どこまで消毒するか。巣ごもり生活やリモートワークはどのレベルまで実施するか。新型コロナウイルスは常に私たちに「選択」を迫ってくる。しかし「自分の体を守るため、自分で考え行動する」ことはコロナに関係なく、重要だ。特にどんな薬をのむかはあなたの体調を左右する大切な選択。「替える」勇気を持つことが、命を守る第一歩になる──。

 現在、年を重ねるほど薬を服用する割合は増え、65才以上の3割が「6種類以上の薬」を処方されているというデータもある。しかし、都内在住の主婦・上原裕子さん(61才・仮名)はその効能に違和感を覚えている。

「血圧の薬をのんでいますが、なかなか数値が安定しません。そのうえ、最近ふらふらするようにもなったし、体調がよくなる気配もない。このままのみつづけていいものなのか、だけど勝手にやめることもできないし、悩みはつきません」

 こうした状況に警鐘を鳴らすのは、銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘さんだ。

「高血圧や糖尿病など生活習慣病の薬は特に全身に作用するため、体調に大きく影響します。薬の効き方には個人差があり、副作用も出る。長年続く不調の原因が、実はのんでいる薬にあったということは少なくありません」

 長澤さんによれば処方薬の種類を替えただけで、悩まされてきた不調があっという間に消えたケースも珍しくないという。

「そのうえ製薬の世界は日々、飛躍的な進化を遂げています。同じ症状を抑える薬でも、より高い効果が得られるものや、服用回数が少なくてすむものが新たに出ている場合も多いのです」(長澤さん)

 あなたがいまのんでいる薬はもう“替え時”かもしれない。

降圧剤の副作用で歯茎に影響

 罹患者数は4000万人。70代以上の女性の過半数がのんでいるといわれる降圧剤。その種類はさまざまで、大きく分けると「ARB」「ACE阻害薬」「カルシウム拮抗薬」「利尿薬」「β遮断薬」の5つに分類される。ナビタスクリニック川崎の内科医・谷本哲也さんはこう解説する。

「なかでも一般的なのは血管細胞にカルシウムが流入するのを防ぐことで血管の収縮を抑制する『カルシウム拮抗剤』です。昔から定評があり安価で取り入れやすい一方、頭痛や動悸、便秘などの副作用があり、まれに歯茎が腫れることもある」(谷本さん)

 心当たりがあるならば、ほかの種類に替えるのも手だろう。

「加えて降圧剤全般に言えるのは服用後、一時的に血圧が下がりすぎて、ふらつきが起こる場合があること。特に高齢の場合は同じ薬をのんでいても、代謝が弱ったり体力が落ちたり、暑い日に脱水症になったりすることで、ある日突然ふらつきが起こることも。それにより、転倒して頭を打ったり骨折したりすると、そのまま寝たきりになってしまう可能性もあるため、充分に注意してほしい」(谷本さん)

 また、降圧剤は、必ずしも5種類のうち1種類のみが処方されるわけではないことも知っておきたい。

「複数の薬を併用したり、1つに混ぜた『配合剤』が処方されることも多い。配合剤は1錠のむだけで高い効果が得られるのがメリットですが、副作用が出たときに、どの成分が原因か特定が難しく、問題が起きたとき調整がしづらい。そのため最初から配合剤を使わず、単剤を使って様子を見ながら調整するのが一般的。本当に配合剤を使うべきかどうかの見極めは、しっかりするべきです」(谷本さん)

糖尿病には画期的な新薬が

 高血圧と並んで多くの罹患者がおり、その数は2030年には世界で5億人を突破するといわれる糖尿病も、薬で症状が左右される病気の1つだ。

「糖尿病治療で最も一般的な『SU薬』はインスリンの分泌を促進し、血糖値を下げる薬ですが、その作用の強さゆえに食欲がなく食事量が減ってしまったときなどに低血糖を起こしたり、体調が悪くなることが少なくありませんでした。しかし、ここ数年で糖尿病のメカニズムの研究は大きく進み、新しい薬も増えているのです」(長澤さん)

 糖尿病の専門医・有楽橋クリニック院長の林俊行さんは2021年から服用が開始された新薬に注目している。

「これまで注射剤しかなかった『GLP-1受容体作動薬』の内服薬が登場しました。この薬は血糖値を下げるだけでなく、体重の減少や脂肪肝の改善も期待できるため、目に見える効果が大きく、患者の治療へのモチベーションも上がります。注射に抵抗があった人や、自分で注射を打つのが困難だった人も使用できるようになり、選択の幅が広がりました」

 この新薬も含めて、現在、糖尿病の主な内服薬は8種類。糖尿病の原因はインスリンを分泌する力が弱い、インスリンの働きが悪い、あるいはその両方など人によってさまざまなので、症状に合った薬を選ぶことが大切になる。

 また、高齢者の場合は、認知症リスクや薬ののみ忘れにも警戒が必要だという。

「薬の副作用で低血糖を繰り返すことで、認知症の発症を誘発する可能性があります。高齢者や腎臓機能が低下している人の場合、低血糖を起こしやすいSU薬をなるべく減らす、ほかの薬剤に変更するなどの選択肢も視野に入れた方がいい。

 また、糖尿病患者は血圧やコレステロールの薬も服用している割合が高く、内服薬が増えてしまいがち。種類が多くなるほどのみ忘れのリスクが高まりますが、なかには薬をのみ忘れて数値が悪化したことでさらに内服薬が増えてしまう悪循環に陥る人もいます。服用する薬を減らす、のむタイミングを揃えるなどの工夫も大切です」(林さん)

もの忘れ外来に気をつけろ

 薬ののみ忘れは糖尿病に限らない。日本調剤の調査によれば1か月以上同じ薬を処方された人のうち半数は、のみ忘れの経験があるという。

「のみ忘れを防止し、患者の負担を減らすため服用回数を減らすことができる薬も登場しています。たとえば骨粗しょう症の薬は毎日服用するタイプのもののほか、月1度で済む薬もあります」(長澤さん)

 こうした「もの忘れ」が頻繁に起きる認知症も、適切な薬を選び、体に合った使い方をすれば、その症状を最小限に留めることができる。 

 処方される薬は認知症の種類によって異なり、認知症全体の6割を占める「アルツハイマー型認知症」に使用されているのが、抗認知症薬と呼ばれる「コリンエステラーゼ阻害薬」と「NMDA受容体拮抗薬」だ。

 前者は記憶力や学習能力に関係する神経伝達物質・アセチルコリンを分解する酵素の働きを抑制することで、アセチルコリンを増やす。

 多くの認知症患者を診察してきたシニアメンタルクリニック日本橋人形町院長の井関栄三さんは、認知機能障害の程度に加えて、患者の性格によっても薬を使い分けることが重要だと語る。

「コリンエステラーゼ阻害薬には、『ドネペジル』と『ガランタミン』、貼り薬の『リバスチグミン』の3種類があります。最もよく使われるのがドネペジルで、記憶障害の進行を抑えるほか、注意力が高まる、意欲が出るといった効果も期待できる。ただし、もともと短気な性格の人が服用すると、その傾向に拍車をかけて怒りっぽくなったりすることがあり、一人ひとりの性格や傾向をみながら処方することが必要です」(井関さん)

 これらは認知症の初期にのむ薬で、進行すると「NMDA受容体拮抗薬」が追加されるか、単独で使用されることが多い。

「認知症は脳全体にかかわる病気であり、さまざまな要素が関連している。薬だけで目に見えて症状が改善するわけではありませんが、薬によって家族を困らせるような行動・心理症状を改善できることもある。私は抗認知症薬に加えて、抗不安薬や抗うつ薬、抗精神病薬など、複数の薬を少量ずつ合わせるなど、患者の年齢や症状によって使い分けています」(井関さん)

 つまり薬の特性をよく知り、かつ患者の状態をしっかり把握してくれる医師のもとで服用しなければ、症状は改善しづらいということ。

「近年は専門医でない医師が『もの忘れ外来』を標榜している場合も増えており、患者に合わない薬を間違って処方しているケースも見受けられます。もし症状が改善しないのであれば、病院のホームページなどで医師の経歴や所属している学会をチェックしてみてください」(井関さん)

 専門性が高い病気の薬でなくとも、使い分けによって差が付くケースもある。

「頭痛や腰痛、生理痛などに処方される鎮痛剤も、医師がきちんと使い分けてくれるかは重要です。

 たとえば痛みが軽度のときは副作用が少ないアスピリンを使い、局所にはっきりとした強い痛みがあるときはロキソプロフェン、それでも抑えられないときやひどい歯痛はジクロフェナクナトリウムといった形で使い分けます。ただ、ジクロフェナクナトリウムは副作用が強く、普段遣いにはしない方がいい」(長澤さん)

薬を替えたいときはストレートに

 1錠の薬を替えるだけで、これほど症状に変化があるならば、替えない手はないだろう。しかし、自由に購入できる市販薬とは違い、処方薬は医師の判断で提供されるもの。専門家の知識と経験をもとに処方された薬を「替えてほしい」と切り出すのには勇気がいるかもしれない。しかし谷本さんは「ストレートに伝えるべき」とアドバイスする。

「のんでも体調が改善しなかったり副作用に悩まされたりしている場合は理由とともにはっきり伝えてほしい。特に体の状態は患者本人にしかわかりません。

 たとえばふらつきは外からではわかりづらいので、自覚症状を詳しく医師に説明すること。ただし『この薬はダメだ』という全面的に否定するような言い方ではなく、『副作用が気になる』とか『ほかの薬を試したい』といった伝え方をするといい。

 担当医に聞いてもらえないようなら、別の医師にセカンドオピニオンをもらってもいいでしょう」(谷本さん)

 自分の体を守れるのは自分だけだということを、あらためて思い出してほしい。

※女性セブン2021年6月10日号