「6月29日にモデルナ製ワクチンの1回目接種を終え、その日は発熱もなく腕の痛みだけでしたが、2日後に“なんかいつもより抜け毛が多いな”と感じました。それからは日を追うごとにごっそりと毛が抜け落ちていきました」

 そう話すのは西日本在住の28歳女性・Aさんだ。7月26日、Aさんは〈コロナワクチン1回目接種後にハゲました〉というタイトルで、自身の頭髪が抜けていったことをブログに投稿した。

「ワクチンとの関連性は分かりませんが、同じような悩みを抱えている人が他にもいるのではと思い、ブログを始めました」

 Aさんによれば、接種2日後以降に髪の毛の抜ける量が増え、3日後には風呂場の排水溝に「子ネズミ1匹くらい」の抜け毛が溜まっていたという。その後も脱毛は進み、約1週間で円形脱毛が3つ、1か月で頭頂部の皮膚がほとんど見える「バーコード状」になったとする経過がブログに掲載されている(別掲写真)。

「皮膚科にも診てもらいましたが、“ワクチンの副反応として報告はない”と、ステロイドの塗り薬を処方してもらっただけです。今まで入院はもちろん、大きな病気にもかかったことがありません。薬のアレルギーも血液検査も異常はなく、健康だけが取り柄だったのですが……」(Aさん)

 国立国際医療研究センターが2020年に行なった追跡調査では、新型コロナ感染の後遺症として頭髪の脱毛症が認められているが、ワクチンとの関連性についてはどうなのか。

「ワクチンによる脱毛症についてはっきりとした報告はありません。ただ、私自身、接種後に円形脱毛症が発症・悪化したという患者さんを2人診たことはあります」

 そう話すのは、浜松医科大学皮膚科学講座准教授・病院教授の伊藤泰介医師だ。

「円形脱毛症は『自己免疫疾患』の結果、発生することが分かってきています。自己免疫疾患とは、何らかの原因で免疫が暴走して自身の身体を攻撃してしまうこと。ウイルスに感染すると熱を出すといった免疫反応があり、それが自己免疫疾患を悪化させることがあります。だから新型コロナ感染後に、脱毛症が起きる症例が報告されているわけですが、ワクチンでも類似の免疫反応が起きる可能性は考えられます」

 モデルナやファイザーの「mRNAワクチン」は、これまでにない新しい仕組みのものだ。国際医療福祉大学病院教授の一石英一郎医師の解説。

「毒性を弱めたウイルスを使う生ワクチンや感染能力を失わせた不活化ワクチンとは異なり、ウイルスのタンパク質の一部の設計図(遺伝子)を体内に注入する仕組みです。それにより、新型コロナウイルスの表面にある突起状の『スパイクタンパク質』が体内に作られます。人体の免疫系がスパイクタンパク質を認識すると、対応する抗体ができるとともに、感染した細胞を攻撃するキラーT細胞が活性化され、感染や重症化を防ぎます。

 一方、mRNAワクチンと自己免疫疾患の関連については、現在、世界各国で注目されて研究が進んでいます。ワクチン接種後のキラーT細胞を含むリンパ球の暴走によって自己免疫疾患が起きる可能性を指摘した論文もあります」

 Aさんは7月、地元の保健所に救済を求める申請をしたが、返答はなく、皮膚科からの紹介状で総合病院にかかり、治療を受けているという。厚労省に「ワクチンと脱毛」について見解を尋ねた。

「8月4日の分科会の報告書では、ファイザー製ワクチンの接種が約7400万回あったなかで、脱毛の副反応疑い報告が3件、確認されています。これらの報告は、ワクチンとの因果関係は明らかになっていないものです」(新型コロナウイルス感染症対策推進本部)

 この現状をどうとらえるべきか。前出の伊藤医師はこう話す。

「円形脱毛症などの自己免疫疾患は人によって遺伝的ななりやすさ、なりにくさもある。ワクチンによる脱毛のリスクよりも、新型コロナ感染後の脱毛症の悪化や発症のリスクのほうが大きく、ワクチンは接種したほうがいいと考えます」

 Aさんは7月下旬、悩んだ末に2回目の接種を受けたという。

「髪を失ったうえに抗体も十分に得られないのではあまりに中途半端。2回目を打つのかは個人の判断という話になったので、接種することにしました」(Aさん)

 果たして今後、ワクチンと脱毛の関係は解明されるのだろうか。

※週刊ポスト2021年9月10日号