ネット通販のアマゾンが、生鮮食料品を宅配するサービス「アマゾンフレッシュ」を4月下旬から都内6区で始めた。宅配業務の過重労働が社会問題化している今、どれだけ伸ばせるか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が考えた。

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 4月下旬に始まった「アマゾンフレッシュ」。ネット通販最大手のアマゾンジャパンがスタートさせた生鮮食品宅配サービスだ。「人形町今半」の精肉や「北辰」の鮮魚、「魚久」の粕漬けなども並び、専門店やかデパ地下を巡らないと手に入らないような品も揃っている。

 ネット通販はいま曲がり角を迎えている。宅配便最大手のヤマト運輸は違法な長時間労働の常態化が問題となり、通販事業者との配送契約見直しに本腰を入れている。ネットスーパーの生鮮食品、ヨドバシカメラのような量販店を含め、宅配については各小売店が独自の流通網を構築するトレンドとなっている。

 アマゾンも東京都心などで自前の流通網構築に乗り出している。2015年11月にスタートさせた「プライムナウ」はヤマトなど既存の流通に頼らない流通のテストを兼ねた面もあったろう。

 アマゾンフレッシュは、まず港、千代田、中央、江東、墨田、江戸川の6区を対象(一部を除く)にスタートした。冷蔵倉庫の立地との関係もあるだろうが、プライムナウの世田谷、目黒、大田、品川、渋谷、港、杉並、新宿とはサービスエリアが異なる。江東、墨田といった下町エリアは近年、ニョキニョキとタワーマンションが盛んに屹立するエリアでもある。そうした”新都市”に住まう、一定の可処分所得のある共働き家庭を狙ったサービスだと考えられる。

 仮にエリア内に住んでいたとして、サービスを受けるにはプライム会員の年会費3900円+アマゾンフレッシュ月額500円+利用一回あたり送料500円がかかる。6000円以上の購入で送料無料とはいえ、こうしたランニングコストがターゲットの目にどう映るか。大手ネットスーパーは実店舗の付帯サービスで固定の利用料がかからず、送料も1回300円台のチェーンが多い。

 アマゾンはじめ通販事業者がコストを抑えようとした結果、シワ寄せは宅配便業者に集中した。荷物を受け取る消費者も、昨今の”宅配労働問題”が可視化されるまで、実際に荷物を手渡してくれる配達員の長時間労働への関心は薄かった。通販事業者は宅配会社に対して大口割引を求め、消費者は再配達を当然の無料サービスとして捉えていた

 一般にネットスーパーは実店舗の営業時間と連動するため、朝10時から遅くとも22時ごろまでの指定にとどまる。対してアマゾンフレッシュは朝8時から深夜0時を指定できる。アイテム数も既存のネットスーパーの1万点に対して、生鮮・日配で1万7000〜1万8000点、その他の日用品などを合わせればアマゾンのアイテム数は10万点以上と時間帯・アイテム数ともにアマゾンがボリュームで凌駕する。さらに100gあたり1000円以上する人形町今半のすき焼き用の牛肉などもそろっている。

 そうしたボリューム&ラグジュアリー押しが、どこまでターゲット層に刺さるかは未知数だ。生活に必要なアイテムはネットスーパーの1万点でほぼ網羅されている。高級な和牛などは吟味して購入したいもの。アマゾンで注文するような需要はどこまであるか。ネットスーパーが対応していない早朝や深夜の需要を狙うにしても「お客様は神様」精神でのサービスの過度な充実はコスト高を招く。それは「再配達」にも通じるいつか来た道になる可能性はないのか。

 飲食業界などでも、24時間サービスを見直す気運が高まっている。一見、そうした流れに逆行するかのようなアマゾンフレッシュという試みは今後のネット宅配ビジネスに求められるものを占う試金石になるのかもしれない。