プレッシャーがありながら、最高のパフォーマンスを発揮するにはどうしたらよいのか──。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が、平昌オリンピック・パラリンピックで活躍した日本選手たち、とくに銅メダルを獲得した女子カーリングチームの活躍ぶりから、ストレスや緊張を味方につけるコツについて考察した。

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 平昌オリンピック、パラリンピックが閉幕し、アスリートたちのドラマとパフォーマンスに感動する日々が終わった。

 勝敗は残酷だ。一瞬で決着がついてしまう。そのプレッシャーに耐えながら、最高のパフォーマンスを披露しようとする選手たちの姿には本当に胸を打たれる。

 いったい、どうやって、プレッシャーや緊張に打ち克とうとしているのか。今回はノルアドレナリンという物質に注目してみよう。

 ノルアドレナリンはカテコールアミンという化学物質の仲間で、神経伝達物質やホルモンとして働く。この物質が分泌されると覚醒作用により、心拍数や血圧の上昇が起き、注意力、集中力、判断力、作業効率などが高まる。精神に作用して、やる気や意欲も出てくる。危機と戦ったり、敵から逃げたりするために、自分で自分に気合いを入れるのだ。

 ストレスを受けたとき、ストレス状態を学習して順応する働きもある。ストレスホルモンとも呼ばれる所以だ。

 修験者が焼けた炭の上を歩く火渡りは、ノルアドレナリンにより集中力が高まり、熱さや痛みを感じさせなくさせている可能性がある。

 ノルアドレナリンは同時に不安や恐怖、緊張、怒りなどの感情の高ぶりやイライラも生み出す。ストレスが続いたままでいると、ノルアドレナリンが分泌され続け、その影響で緊張が続き、筋肉などに強い疲労を感じるようになる。緊張のため体がガチガチに固まってしまい、いつも通りにできなかったというのは、このノルアドレナリン過剰の状況だろう。

 その点、トップ・アスリートたちはノルアドレナリンの分泌バランスが実に見事だ。オリンピックという大舞台で、ノルアドレナリンをしっかり出して集中力を高め、なおかつ緊張しすぎたりしない。

 どうやったらそんなことができるのか。日本女子カーリングチームのふるまいを見ていると、ヒントがあることに気づく。

「そだね〜」

 ふんわりした北海道弁が話題になった。チームみんなが北見市出身ということもあって、自然体の言葉が行き交っていた。これが副交感神経を刺激し、緊張の緩和になったと思う。

 ノルアドレナリンは、交感神経を刺激する方向に働くが、自然体の会話とあたたかいつながりが安心感をもたらし、過度な緊張に陥らずにすんだのではないか。

 もう一つは、もぐもぐタイム。こちらも話題になった。イチゴやバナナ、北見市のチーズケーキやお菓子などをおいしそうに食べていた。おいしいものを食べると、幸福な気持ちになる。セロトニンが分泌されるためだ。セロトニンは、ノルアドレナリンの過剰分泌を抑える方向に働くといわれる。もぐもぐタイムは、セロトニンタイムなのだ。

 アスリートにとって、ノルアドレナリンのパワーは大事な駆動力になる。最高のパフォーマンスをするには、ノルアドレナリンをバンバン分泌して、意欲も集中力も判断力も高めたい。でも、これだけでは体が緊張してしまう。

 そこで、必要になるのが、副交感神経とセロトニンというブレーキ。アクセルとブレーキを巧みに操作することが大切なのだ。その結果、日本女子カーリングチームは、長い連戦を勝ち抜き、銅メダルを獲得した。

 このようにノルアドレナリンの分泌バランスをよくするコツは、スポーツ選手だけでなく、だれにとっても知っておいて損はない。仕事やふだんの生活で活かすことができるからだ。

 ノルアドレナリンの分泌バランスがよければ、物事の判断力に優れ、ストレスへの耐性も強くなる。さらに我慢強く、危機に立ち向かい、率先した行動やリーダーシップを発揮しやすい状態になる。

 大きな仕事に挑戦したりしているときこそ、ゆったりとした音楽を聴いたり、体のストレッチをして深呼吸をしたり、副交感神経を刺激することを意識してみよう。

 また、セロトニンを出すには、ごはんを食べたら「おいしい」、夕日やいい景色を見たら「きれいだな」などと声に出し、五感を活用しながら感動することが大切だ。

●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に、『人間の値打ち』『忖度バカ』。

※週刊ポスト2018年4月6日号