舞台女優としてキャリアをスタートし、多くの舞台に出演してきた大方斐紗子さん。

舞台で培った確かな演技力でフリーになってからは、ドラマや映画など映像の仕事も精力的にこなし、圧倒的な存在感で話題に。さらに声優、シャンソン歌手としても活躍。幅広い役柄を演じ分ける実力派女優として注目を集めているが、映画『恋の罪』(園子温監督)で猟奇的な母親役を演じてからは、強烈なキャラのオファーが多くなったという。

◆インパクトのある役はワクワクする

2011年に公開された映画『恋の罪』は、園子温監督が1997年に渋谷区円山町のラブホテル街で発生したOLの殺人事件からインスパイアされたというオリジナルストーリー。第64回カンヌ国際映画祭・監督週間部門でワールドプレミア上映され、国内外の映画祭で賞を受賞して話題に。

大方さん演じる母親は大学教授の娘(冨樫真)と険悪な関係。ある夜、母親に対する憎悪と反発心から売春をしていた娘が殺害され、その遺体の一部を切り取るという猟奇的な母親を演じて見る者を震え上がらせた。

−『恋の罪』はオーディションだったそうですね−

「はい、オーディションでした。懐かしいです。とんでもない母親役でしたね(笑)」

−毒のある言葉を娘に吐いていてすごかったです−

「本当にね(笑)。やっていてワクワクしました。ああいう表現は大好きです。一見いいところの奥さまなのに、実は陰湿で狡猾でね」

−撮影はいかがでした?−

「わりとスムーズにいきました。とても楽しかったです」

−はじめての現場などで緊張されたりすることはありますか−

「わりに普通です。緊張とかはあまりしないようにしようと普段から思っているせいでしょうか。普通にできればいいなあという感じですね」

−ここのところとくに印象的な役柄も多い感じですが、『あなたの番です』(日本テレビ系)の意地悪な姑役も強烈でした。また血まみれで−

「そうですね。あれもものすごく楽しみました(笑)。昔から癖のある役とか意地悪な役が多かったんですけど、『恋の罪』をやってからとくに多くなったかもしれない。そういう役のほうがおもしろいですね」

−『あなたの番です』はご自身でご覧になっていかがでした?−

「『やるなぁ』って思いました(笑)」

©︎なんのちゃんフィルム

※映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』
2021年5月8日(土)より渋谷ユーロスペース
2021年5月22日(土)より名古屋シネマテークほか全国順次公開
配給・宣伝:なんのちゃんフィルム
監督:河合健
出演:吹越満 大方斐紗子 北香那 西めぐみ 西山真来 髙橋睦子

◆戦犯遺族の戦うおばあちゃん役に挑戦

大方さんは5月8日(土)に公開される映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』にBC級戦犯の遺族役で出演。この映画は、終戦75周年の平和記念館設立を目指す市長(吹越満)と、設立に反対する戦犯遺族の攻防を描いたもの。

市長の祖父で子どもたちに反戦を訴え、街の偉人と言われている正一の教え子だった南野和子(大方斐紗子)は、正一が戦時中軍国主義だった事実を改ざんさせまいと戦うことに…。

−この映画もものすごくインパクトのある役ですが、撮影はいかがでした?−

「優しいおばあちゃんでなく、アクが強い役柄なのでおもしろいと思いました。全部淡路島での撮影だったんですけど、楽しかったですよ。

最初に撮影したのは市長役の吹越さんと言い合いになるシーンでした。平和記念館設立の資料を破っては捨て破っては捨てて、破り続けていましたね(笑)。

正一が息子(市長の父親)に国勝という名前をつけるような軍国主義だったのに、戦時中から反戦思想を訴えていたというふうに事実を改ざんしたことに反対して」

−戦犯に関する参考書などを現場にもち込んで読み込んでいらしたそうですね。河合監督が「ここまでのキャリアで、たった2日間の撮影でもこれだけの準備をして挑まれる姿勢に感服しました」とお話されていました−

「そうですか(笑)」

−この作品で終戦の頃を思い出したりしました?−

「終戦の頃は小学校1年生でしたけど、戦争中は毎日真っ暗な防空壕で過ごしていました。いつでも逃げられるように、夜寝るときも普段着のままでね。食事のときも電気は布を被せて、薄暗くして食べました。食事と言っても芋雑炊、のみで芋も少なく水みたいなもの。そんなことを思い出していました」

−撮影の合間はどのようにして過ごされていたのですか−

「コロナ禍の前でしたけど、ほとんどが撮影でしたからね。淡路島の方々が出演なさっていたんですけど、その方々と撮影の合間にたくさんおしゃべりをしたのが印象的でした。

淡路島の方たちがとてもよくしてくださって、地元の皆さんが食事をケータリングでもってきてくれたりして、とても協力してくださったんです。ケータリングでもってきてくれた野菜サラダのドレッシングが淡路島で人気のコーンドレッシングで、それがとてもおいしくてね。すごく気に入っちゃって、作り方を教えていただいたので自分でも作りました。でも、同じような味にはなりませんでしたけどね(笑)」

−すぐに試してみるところがすごいですね−

「はい。そういうことはやってみますね」

地元出演者のなかにはまだ首の座っていない赤ちゃんもいて、撮影の待ち時間に大方さんがあやしてあげるということもあったとか。その姿と芝居での迫力ある大方さんのギャップに、島民の緊張も和らいだ様子だったという。

◆杉村春子さんの言葉で台本は100回読むことに

−もう1年以上コロナ禍で、スケジュールも大幅に変わったと思いますが、どのように過ごされていました?−

「ただただ家にいて、食材を買いにだけ外に出たというそれだけです」

−先行きの不安などは?−

「それはあるけどあまりそういうことでドキドキしたりしたくないのでなるべく考えないようにして、『そのうち収まるさ』っていう感じで過ごしていました」

−俳優さんのなかにはいつまで続くのか、収束したときに自分が必要とされるのかものすごく不安になったという方が多くいました−

「そうですか。でも、そもそも需要なんてあまりない人間ですから(笑)」

−そんなことはないです。唯一無二の存在感の個性的な女優さんで−

「本当ですか。それはうれしいですけど、個性的すぎますかね。頑張らねば(笑)。仕事は楽しいですからね。あと5年ぐらいは続けられたらいいなぁと思いますけど、あと5年というと87歳。まあ、ボケなければね。それで87になれば、そろそろ寿命が来るだろうから、それでバタっといけば幸せかなって(笑)」

−セリフ覚えなどはわりとすんなりと?−

「わりに入りますね。何度も何度も何度も何度も読みますから。昔、杉村春子さんが本に書いていた言葉があって、その言葉がとても印象的だったんです。

『どうしてもセリフが覚えられないという俳優がいるが、100回読まないからだ。100回読めば誰だって覚えられる』と書いてあったのが、ものすごく頭に入っていますから、100回近くは読むようにしています。そうすればセリフは入ります。

つまり強引にセリフを入れるんじゃなくて、自然に入ってくるというふうにしようかなと。その本を私の先生にしています」

−杉村さんもそうでしたが、すてきな方がたくさんいらっしゃいますね−

「そうですね。俳優なんかやるのはすてきな人でなきゃと思いますけどね。そうならなければと努力しなきゃいけないなと思います」

−杉村春子さんとお仕事をされたことはありますか?−

「仕事をしたことはないです。ただ、誰かは忘れちゃったんですけど、私が付き人をしていたときに、付いていた方が杉村さんと一緒の舞台があって、舞台袖で杉村さんを見ていた記憶はあります」

−杉村さんはいかがでした?−

「もうとてもとてもすばらしすぎる人でした」

−私も舞台で拝見したことがありますが、すごい存在感でした−

「そうでしたね。長年培ってきたものがありますからね。すごかったです」

−市原悦子さんは俳優座養成所で大方さんの4期先輩になるわけですか−

「そうです。私が入ったときにはもうスターさん。あの人は普段と舞台が全然変わらない人で、コロコロコロコロとした発声で、すごく可愛い人でしたね。それと努力がすごい。ちょっと私たちの努力じゃ敵(かな)わんなというくらい努力している人でした。『あれがそうだったのか、彼女をつちかっていたのは。彼女の力なんだ』というのを発見したくらい、ものすごい努力家で。

たとえば、この役でこの声を出すにはというときに、とても自分の声ではこの役はダメだなというと、何か月も発声訓練を自分で編み出していくという、すごい努力家でしたね」

−皆さんやはり一流の人たちというのはすごいですね。大方さんも発声方法を自分で編み出されて−

「はい。昔はしょっちゅう声を枯らしていました。何にも知らないから、ただがなっていた。舞台だから聞こえなかろうというので、ただがなっていて、半ばぐらいまできたらもうガラガラ声になっていて、『どうしよう、どうしよう』という毎日でした(笑)」

−そういうときはどうするのですか−

「枯れっ放しで最後まで(笑)。でも、そんなに大変な役は来ませんから、なんとかもったわけですよね。それが主演だったら、とてもじゃないけど降ろされていただろうなって思います。だから発声方法をいろいろ考えるようになりました」

−舞台は長丁場ですしね−

「そうです。2か月ぐらい稽古をしてそれから1か月とか1か月半の公演。何か月もガーッと最後までいかなきゃいけないから大変ですよね。でも、あるときに舞台から冷静にフッと客席を見ることができて、そのときに何百人もの人がただこっちを見ているというだけのことにものすごい驚いて、これは大変な仕事なんだということに気がつきました(笑)」

−皆さんが自分を見ているわけですものね−

「そうなんです。恐怖は感じなかったんですけれども大変なことだなと思って、それから声をもっと大事にするようにしました」

−今後何かやってみたいことはありますか−

「それがわからないんだなぁ。何かあったほうがすてきですけどね、わからない」

−コンサートの予定は?−

「今、新曲をやってくれと言われて新曲の訳詞を頼んでいるんですけど、それが全然できてないので何も予定がたてられないの。まあ今度が最後だと思いますが、今年か来年だろうなと思います」

今一番の楽しみは中学2年生のお孫さんに会うことだと話す大方さん。コロナ禍でなかなか会えないが、3月9日のお誕生日にはマスク会食をしてお祝いしてくれてとてもうれしかったという。お孫さんの話をするときにはひときわ優しくなる笑顔が印象的。(津島令子)