いよいよ8月20日(木)に開幕する『全英女子オープンゴルフ』。

今年は7名の日本勢が出場する予定だが、なかでも注目は、2019年の同大会で日本勢42年ぶりメジャー制覇を成し遂げ、一躍“シンデレラガール”になった渋野日向子だ。

8月19日(水)に放送した『報道ステーション』では、今大会での連覇に期待がかかる渋野に、松岡修造がインタビュー。テレ朝POSTでは、番組未公開パートを加え、前後編の2回にわけて、このインタビューの模様をお届けする。

前編となる今回は、渋野の「最初の夢」「いつか超えたい選手」「全英優勝後、“もやもや”していた理由」、そして「“天狗になりかけた”彼女を叱ったコーチの存在」について、松岡修造が迫る。

◆「世界で戦いたいという思いは、まったくなかった」

松岡:渋野さんの最初の夢はなんだったんですか?

渋野:最初の夢は、2019年の目標で、日本国内の賞金ランキングのシード50位以内に入ることでした。

松岡:なぜ、50位以内にしたんですか?「そんな、もっと夢を大きく持てばいいのに!」と思ってしまうのですが(笑)。

渋野:はじめてのレギュラーツアーに出場できるシーズンだったので、優勝できるとも思っていないですし、それまでのレベルに達していないと思っていたので。

まだまだ、いろんな技術も、体力的にもメンタル的にも足りないなと思っていたので、とりあえず1年間、出られる試合にしっかり出て、予選も通過して、徐々に、賞金を積み上げていって、50位以内に入れればいいなと思っていました。

松岡:ジュニアの頃から、テニスでも、ゴルフでも、海外に遠征に行って世界を目指したい!と思う人が多いと思うのですが、遠征は何回くらい行ったんですか?

渋野:一度も行ったことなかったですし、海外で戦いたいという思いもまったくなかったですね。

松岡:なぜ、世界が目標になかったのですか?

渋野:ジュニアの試合とかで、全国大会で10位以内に入ったことがなかったからですかね。

優勝とか、そういう経験がまったくなくて、ジュニアの試合で「自分よりもっとレベルの高い子がたくさんいるのに、プロになっても戦えるのかな?」という不安があったので。

松岡:でもそれは、冷静な捉え方ですよね。ジュニアのときに結果を出してないのに「俺は世界一になる!」なんて、なかなか言えないですよね。

◆畑岡は「いつかは絶対超えたい存在」

松岡:先ほど、全英に向けて、畑岡奈紗さんにもお話を聞いてきたのですが、すごく良かったです。

渋野:奈紗ちゃんは、もう4年目ですかね。アメリカツアーで4年目か5年目なので、私よりもはるか、何年も経験をしているので、本当にいろんな思いをしていると思いますし、自分よりもはるか先をいっているなと思っています。

やっぱり経験値がまったく違いますし、思っていることとかも、多分もうかなり大人なんじゃないのかなと思います。

松岡:奈紗さんに色々お話を伺うなかで、一番衝撃的だったのが、全英の練習ラウンドとかで、奈紗さんが渋野さんを見たときに、優勝すると思ったって言っていたんですよ。

渋野:え、ほんとですか!!

それははじめて聞いたので、そう思ってくれていたのは嬉しいんですけど、本当に何も知らない状況で行ったので。たぶん怖さとか、何も知らない状況で行ったからこその、昨年の全英でのプレーだったのかなと、思いますね。

松岡:奈紗さんは、日向子さんのプレーと、優勝するまでの過程を日本で見ていらっしゃって、プレーを見ながら、『日本女子オープン』で優勝をしたときの、あのときの私だ!と思ったそうです。

渋野:え〜!いや、あのときの奈紗ちゃんは本当に衝撃的でした。

日本のメジャー大会で、自分の同い年の子が優勝するという、今まで聞いたことのない偉業を奈紗ちゃんが成し遂げたので、自分もあの試合に出ていたんですけど、え!え!みたいな。(笑)

刺激をいただいたとか、もはやそういうことではなくて、なんだろう、遥かかなたの人みたいな、もう、追いつけない人だなというのはすごく思いました。追いついても、追い越せない。

松岡:同世代と考えたら、「よし!じゃあ私もやってみよ!」っていうことになると思ったのですが、そうはならなかったんですか?

渋野:あのときはならなかったですね、衝撃的すぎて。

松岡:奈紗さんと、今後はどういう風にトップを目指していきたいですか。

渋野:今は世界ランキングが奈紗ちゃんは5位で、私が13位(2020年8月19日現在)で、日本人選手のなかで1位、2位を争ってはいるんですけど。

これからアメリカツアーで絶対戦っていきたいので、今はすごい前に奈紗ちゃんがいるんですけど、いつかは絶対超えたいなっていう存在ではあるので、それに向けて切磋琢磨したいです。

私たちが頑張ることによって、他の日本人の選手がアメリカで戦いたいって思ってくれると思いますし、日本のレベルもかなり上がってくると思うので。

それを自分たちでやっていきたいというか、築いていきたいっていう思いがあるので、いつか奈紗ちゃんと戦って、追いつき、追い越せという思いで頑張っていきたいなって思います。

◆全英優勝で“もやもやしていた理由”

松岡:2019年の全英を振り返られればと思うのですが、最後の18番ホールのパターとか、僕から見ると、怖さゼロにしか見えなかったのですが、どうでしたか?

渋野:怖さはゼロでしたね。

松岡:それは不思議ですよね。「これ入ったら全英優勝。優勝したらどうしよう?」とか考えなかったんですか?

渋野:(笑)。それまで1位タイで戦えていたことに、自分はもう、かなり達成感があったのか、ボギーを叩こうが、どうなろうが、負けても、ここまで頑張った自分を褒めてあげたいなっていう思いで、18番を回っていました。

セカンドを打つ前も「ここで右にシャンクして、ギャラリーさんの方に打ってもおもしろいですよね〜」という話をしたりしてました(笑)。

松岡:ジュニアの頃とか、過去に優勝していなかったことがよかったかもしれないですね。いわゆる、こうなったらこういう緊張がやってくるとか、そういうのをほとんど感じていないわけじゃないですか。

渋野:はい、そうですね。

松岡:では、僕の質問は、これからどんどん難しくなります。知らないということに関して、“知らぬが仏”みたいなのが、あるわけですよ。

いわゆる、優勝した経験や、そのときの緊張感とかを知らなかったっていうことが、どう結果に繋がったと思いますか?

渋野:知らないことによって、自分が思っている以上の結果が出せたりするんですかね。2019年の全英のときも、すごく緊張感のあるなかで、なんでそのショットが打てたんだろうって思うこともあったので。

優勝の経験や、優勝圏内の上位にいるという経験をあんまりしていなかったからか、まだ緊張感を知らなくて、自分が思っている以上の結果を生んでいたのかなというのは思います。

自分が持っている力よりも、もっとすごい力が出せるというか。それが全英だったのかなと思います。

松岡:それを知ってしまったことによって、今度はどう変わってきました?

渋野:やっぱり、自分でプレッシャーをかけていたというか。「あのとき、これ打てたのに」とかって、なんというか、“過去の自分”をすごく考えていましたね。

松岡:過去というのは全英の?

渋野:全英だったり、優勝したときの自分だったりが、なんか蘇ってきて、試合でミスしたときに、「昔の自分は、あのとき打てていたのに!」って思うことがすごい多かったです。

松岡:一番いいときと比べちゃうんですよね。比べて、どうなりました?

渋野:比べて、もう、自分のゴルフがまったくできてなかったですね。

ミスの一つひとつにすごい腹を立ててしまって。そこから全然、自分の、自分らしいプレーに戻せないというか、引きずってしまうゴルフを、ずっとやっていました。

松岡:でも僕がびっくりしたのは、全英が終わって日本に帰ってきたとき。正直、2019年は1回も勝てないと僕は思っていたんですよ。

あそこまでのプレッシャーと、あそこまでの周りからの注目と、自分を見失う状態が1年は続くなと思っていたんですよね。

渋野:私も思っていました。勝てると思っていなかったです。

松岡:いつくらいのときに、とくにそう思っていたんですか?

渋野:日本に帰ってきてからのはじめてのメジャー大会(日本女子プロゴルフ選手権コニカミノルタ杯)が9月にあって、自分がプロテストを合格した会場だったので、結構いいイメージで臨んでいたのですが、まったく結果が出せなくて。

そのときの自分には、かなり腹が立ちましたし、「ああ、これ今年無理だな」ってすごく思いました。

松岡:少し、変な質問の聞き方をしますね。

全英勝ったことはもちろん嬉しいことで、勝ったことを悔やみはしないでしょうけど、自分なりに何か思ったことありますか?

渋野:たとえば、奈紗ちゃんは何年もアメリカツアーを経験していて、メジャーを勝っていなくて…というように、私が勝ったことによって、多分色んな人がすごく悔しい思いをしたと思うんですよね。

なので、それを徐々に、メディア等の話で知っていくことで、なんというか、自分のなかですごくもやもやしていました。

松岡:そんなことって、アスリートは自分からあんまり言わないですよね。

渋野:あははは(笑)。

松岡:いや、すっごくいい話だと思うんですよ!

奈紗さんも「悔しかった」と、はっきり言っていました。お母さんもひとりで泣いていたりしてたって。そういう話が入ってきたんですか?

渋野:メディアさんの記事等を見て、入ってきてましたね。

自分がその立場だったら、多分自分も悔しい思いしているだろうなっていうのを考えると、すごくもやもやして仕方なかったです。

松岡:その“もやもや”というのは、「自分何してんだ!」という感じですか?

渋野:うーん…なんか色んな人にすごく影響させているんだなっていう。

松岡:それは前向きな“もやもや”ですか?

渋野:前向きなこともありますし、自分のなかではなんか嫌だなという思いも若干ありました。

松岡:そういう悔しい思いをさせてしまっていることが、申し訳ないということではなくて、私はもっと強くならないといけないとか、そういうことでしょうか?

渋野:そうですね、申し訳ないっていう気持ちも失礼だと思うので。なんか本当にいろんな感情が混じっていました。

◆“天狗になりかけた”渋野を叱ったコーチの存在

松岡:話を戻しますが、帰国して色々悩んだ後、どうやって自分を正しい方向に持っていくことができたんですか?一番のきっかけは何だったのでしょうか?

渋野:やっぱり周りの存在と言いますか、青木(翔)コーチもそうですし、ずっと担いでくれていたキャディさんも、マネージャーさんも、家族も、小さいときから応援してくれている地元の方々も…。

全英から帰ってきて、自分がゴルフをしている姿を見て、そういう周りの人たちが色々言ってくれることがあったので。

そこで、自分のなかで変われたんじゃないのかなっていうのは思います。自分だけだったら、多分変われなかったですね。周りが支えてくれなかったら、帰ってきてから(国内ツアーで)2勝もできてなかったと思います。

松岡:「自分らしくでいいんだよ」ということを周りが言ってくれたのでしょうか?

渋野:そうです。

自分らしくいっていいし、ゴルフの結果以外のことも求められることも多いかもしれないけど、自分らしいプレーができたらいいっていう風に言ってくれたり、自分でプレッシャーをかけなくていいんだよと言ってくれたり…。

青木コーチも、全英優勝してから私に対して何も変わることなくいつも通り怒ってくれたり、「下手くそ!」って言ってくれたりするので、変に自分が天狗にならなかったですね。

なりかけていたかもしれないですけど、へし折ってくれました。

松岡:ちょっと(天狗に)なりかけていたんですか?

渋野:なりかけていたかもしれないです。もう予選落ちとかするわけないとか、もうすぐ勝てるんじゃないかとか思っていて。

(全英から)帰ってきてからのはじめてのメジャーも、絶対上位に行けるっていう何かわけのわからない自信が多分あったんでしょうね。

そのなかで、1回のミスをしてそれで怒って、だんだん崩れていくのを、青木コーチは間近で見てくれていて。その姿を見て、「下手くそなのに、自分に求めるレベルを上げすぎ」というようなことを言ってくれました。

松岡:ゴルフって、よくみんなが口にするのは“怖さ”だと思うのですが、いわゆる考えなかったことを考えるようになったことによって、怖くなってしまったというようなことはありましたか?

渋野:それはあるかもしれないですね、あったかもしれないです。帰ってきてからの2試合目、1位タイで、全英と本当に同じ状況になって。

最終ホールでバーディー決めたら勝ち、パーでプレーオフ、スリーパットで負けという状況で、そのときやっぱり全英が蘇ってきて、「また強く打ったら入るかもしれない」って思っちゃって。

スコーンって抜けてスリーパットしちゃって負けた試合があって、そのときに怖さを知ったのかなって思います。

松岡:「勢いよくいけばいいんだ」で打ったら外れたことによって、どういう怖さになりましたか?

渋野:まずは、毎回毎回うまくいくわけじゃないのを、あらためて感じました。

それまでノーボギーでいっていたのに、最後にボギーだったので。やっぱり変な緊張感や、変なプレッシャーがあのときかかっていたのかと。

やっぱり若干手も震えていて、緊張するとみんな震えるとは思うんですけど、もう今までで経験したことない手の震えだったので、やっぱりなんかあるんだなっていうのは思いましたね。

次回の後編では、渋野が「今の目標」「全英女子オープンゴルフ」への意気込みを語る。