いよいよ12月23日(金)より開幕する「SoftBank ウインターカップ2022」(令和4年度 第75回全国高等学校バスケットボール選手権大会)。

昨年のウインターカップ王者、福岡大学附属大濠高校は今年も優勝候補の筆頭だ。

同校では大会前から、ゲームキャプテンの湧川颯斗選手(3年生)が大きな注目を集めている。しかし、このディフェンデングチャンピオンをまとめる“チームキャプテン”は別にいる。鍋田憲伸選手(3年生)だ。

鍋田選手の両膝には、ガチガチに固められたテーピング…。

最後となる今年のウインターカップ、彼は並々ならぬ思いを抱えて大会に臨む。

◆右膝の前十字靭帯断裂…応援席で見た昨年の優勝

鍋田選手は、2年生だった昨年、岩下准平キャプテン(当時3年生、ポイントガード)の2番手のポイントガードとしてレギュラーメンバーだった。

しかし、2年生の5月、練習中に右膝の前十字靭帯を断裂。半年間を棒にふることになってしまい、昨年のウインターカップ優勝は応援席で見ていた。

「ウインターカップ優勝したとき、嬉しかったんですけど、その反面“悔しい”っていう気持ちのほうが強くて…。チームメイトとしてダメかと思うんですけど、悔しい気持ちがどうしても強くなってきて…」(鍋田選手)

そんな鍋田選手に表彰式後、岩下キャプテンが「来年は絶対お前やれよ!お前ならできるぞ!」と声をかけたという。

その瞬間、悔しさがとび、「絶対復活して、来年こそ自分もコートでみんなと優勝を分かち合いたい」と心に誓った鍋田選手。しかし、再び試練が襲いかかる。

3年生が引退して新体制になり、リハビリも終わってようやく復帰し始めた鍋田選手。チームキャプテンに任命され、今年こそ自分がチームを引っ張っていくんだと気合いが入っていた今年3月の試合中のこと。

「バン!」――。1回目のときと同じ音がした。

すぐに病院に行き、すぐに手術。今度は逆の足、左足の前十字靭帯断裂という診断だった。

◆「バスケをやめようかとも…」絶望した心に火を灯した“短冊”

信じられなかった。

「もう絶望でした。絶望っていうか、もうホントどん底。いちばんのどん底でした。もう本当にバスケットのことを考えたくないっていうか、(手術から)1週間2週間は、バスケット見てても、どうしてもなんか本当に見たくないっていう…」(鍋田選手)

高校バスケは、3年間しかない。半年以上のリハビリを乗り越え、チームキャプテンにもなったというときに、さらなる過酷すぎる試練。鍋田選手は、「バスケをやめようかとも思った」という。

そんな彼の心に火を灯したのは、チームメイトから届いた“短冊”だった。

「待ってるよ」
「強くなって戻ってこいよ」
「乗り越えて!」
「また一段と強くなってみんなで日本一になろう!」

メンバーと片峯聡太コーチから一人ひとりのメッセージが書かれた“短冊のお守り”。これを読んだ瞬間、病室でひとり号泣した。

「やっぱこの人たちを裏切っちゃいけないと思って。絶対俺も復帰してやってやろうって」(鍋田選手)

待ってくれてる仲間がいる。ここからリハビリを頑張れば、ウインターカップも間に合う。

やるしかない――。

その後始まった、2度目の苦しい苦しい孤独なリハビリ生活。それでも、短冊のお守りを見て何度も励まされ、「頑張ろう」と奮起したという。

そして鍋田選手には、もうひとつの思いが芽生えてきた。

「前十字靭帯を切って苦しんでいる人たちに、勇気や希望じゃないですけど、そういうのを与えられるプレイヤーになれたらいいなって。それが結構大きなモチベーションで、辛いリハビリもやってこれました」(鍋田選手)

バスケットボールという競技では、この怪我を負ってしまう人は少なくない。

鍋田選手は、自分が乗り越えられれば、同じような怪我をした人たちに勇気を与えられるかもしれないと考えた。2度大きな怪我をしてもなお、鍋田選手は前向きだった。

そんなチームキャプテンを横で見ていた湧川ゲームキャプテン。

「2度も怪我してるのに、憲伸はそんな落ち込んだ姿を見せなかった。すげぇなって思いました。俺も頑張らないと、しっかりしないと、と思わされました」(湧川選手)

◆コートの外から見て“気づいたこと”

「この仲間ともう一度バスケットをやりたい」――。その思いで、絶望を乗り越え前向きに進んできた鍋田選手。

練習に参加できなくても、体育館に来たときには選手たちに細かくアドバイスをおくった。

長いあいだコートの外から“見た”ことで、気づいたことがたくさんあったという。

「プレイヤー目線と外からの目線って全然違うじゃないですか。外から見ているからこそ気づくことがいっぱいあるので、気づいたことがあったらそれを言っていました。逆に、中から見えることも聞き出して、『でも今外から見たらこうだったよ』っていうのを伝えて、そこでのコミュニケーションを取ろうとしています」(鍋田選手)

さらに、外から見ていたからこそ、ウインターカップへ向け大きな収穫もあった。

ポイントガードである鍋田選手は、今年から点取り屋のフォワードからポイントガードに転向した湧川颯斗選手の試合での様子を見ることで、自分のやるべきことが分かってきた。

「颯斗(湧川)が今ポイントガードをやってて、颯斗がやってるからこそ良いこともありますし、でも逆に颯斗が点数を取らなきゃいけないっていう時間帯もくると思うので、颯斗やフォワード陣にどううまく点数を取らせようかなっていうのは考えてます。

うまくやりやすいように、スペーシングだったり状況をつくってあげるのがポイントガードの僕の仕事だと思うので、そういうのを意識してやっていきたいなっていうふうに外から見てて思いました」(鍋田選手)

そんな鍋田選手の存在について、湧川選手は「憲伸は本当に頼もしいポイントガードです」と強く語る。

続けて、「大怪我をして乗り越えているので、憲伸と一緒に最後、この冬一緒に戦って日本一を獲りたいです!」と連覇への思いを話していた。

◆「次に泣くのは、優勝したとき」

11月に入り、リハビリも終わってようやく思い切って対人練習もできるようになった鍋田選手。

体育館を仲間とともに走り回り、誰よりも声を出し、誰よりも楽しそうに、キャプテンとしてチームを引っ張る姿があった。

「もう今は、とにかく楽しくてしょうがないです! バスケットできるっていうのは、当たり前じゃないなってホント思うんで、できるときは全力で楽しもうと思って」(鍋田選手)

そして、あの短冊のお守りは今、鍋田選手が毎日背負っているリュックについている。

「これ貰ったときはホント泣きましたけど、と同時に、もう泣かないことにしようって決めました。次に泣くのは、優勝したときにしようって」(鍋田選手)

高校生活の半分以上ずっと怪我とたたかってきた鍋田選手にとって、高校生最後のウインターカップは初めての大きな舞台となる。

それでも彼は、優勝候補筆頭の強豪・福大大濠のチームキャプテンだ。今大会の開会式では、高校生を代表して選手宣誓も行う。

2度の試練を乗り越えた鍋田選手だからこそ、強い強い心があるからこそ、このチームを引っ張っていける。

「乗り越えられたら、すごくいい景色が絶対に待っていると思いながら、それを信じてずっとリハビリを続けてきました。

僕にとっては、ウインターカップしかない。怪我したときから、もうそこしかないって分かってたんで、絶対やってやろうって気持ちです。

そして少しでも、怪我をした人たちに勇気や希望を与えられるようなウインターカップにしたいと思います!頑張ります!」(鍋田選手)

(取材:青木美詠子)