PRESIDENT 2017年7月3日号 掲載

■日本の裁判所では、金正恩を訴えられない

緊迫する北朝鮮情勢。本当にミサイルが落ちてくれば被害は免れない。けがをしたり家屋が壊れた場合、誰が損害を補償してくれるのだろうか。

まず思い浮かぶのは、加害者の北朝鮮を訴えて損害を賠償させること。しかし、北朝鮮への損害賠償請求を日本の裁判所に申し立てても、門前払いをくらう。星野宏明弁護士は次のように解説する。

「国家も権利・義務の帰属主体となるので、個人が国家を訴えることは可能です。ただ、それは自国政府に対する話。外国政府にまで裁判権が及ぶと主権侵害のおそれがあるため、国際慣習法上、外国政府を自国内で提訴することは原則的にできません。訴えても審理されずに却下です」

ちなみに外国政府と商取引をしていて契約違反があったときなど、私法的な行為について外国政府を訴えることは可能。しかし、ミサイルの発射は公法的な行為であり、やはり訴えること自体が難しい。北朝鮮政府を訴えることができないなら、ミサイル発射を命じた個人を訴えることはできないのか。日本国内でテロ行為をした工作員がつかまれば、被害者は工作員個人に損害賠償請求できる。ならば、金正恩朝鮮労働党委員長を相手に提訴できてもおかしくなさそうだが……。

「それも無理です。不法行為の準拠法は原則として結果発生地である日本法となりますが、日本の国家賠償法では公務員個人の責任を問うことができず、あくまでも国や自治体と争うことになります。党委員長も公職なので、金正恩個人を訴えることはできません。一応、審理はされますが、おそらく棄却です」