PRESIDENT Online 掲載

これからのキャリア形成では、なにが正解なのか。マーケティング戦略アドバイザーの永井孝尚さんは「『あなたという商品』の価値を高めなさい」といいます。永井さんの知人に、新卒2年目で大企業を辞め、30年間の“自分探し”で十数回の転職を繰り返してきた52歳の男性がいます。彼が現在どうなっているか。教訓とあわせてお伝えしましょう――。

■「オレ、好きな仕事しかしたくないから」

今どきのキャリアをどう考えたらいいのか。失敗から学ぶことはたくさんあります。52歳になる友人の話を紹介しましょう。彼の名前は小林シゲキ(仮名)。口癖は「好きな仕事しかしたくない」でした。

新卒で入社したのは一部上場の大企業A社。まずはエンジニアとして働き始めました。しかし仕事は先輩の下請け仕事ばかり。彼にとっては「つまらないクズみたいな仕事」としか思えず、コツコツとやり続ける同期を横目に、何もかも不満でした。「こんな仕事するためにこの会社に入ったんじゃない……」。

入社2年目のある日。ついに上司との口論になりました。

上司「小林さん。あなた、まだ見習い段階でしょう」
本人「……」
本人「説教なら、聞きたくないんですけどね……」
上司「悪いことは言わないが、もっと真面目に仕事をした方がいい。それに……」
本人「あー、もういい。オレ会社辞めますよ。転職のクチなんていくらでもありますから」

なんと、そのまま勢いで彼はA社を退職してしまったのです。

しかし、幸いにも時代はバブル直前の好況期。そして小林が選んだのは伸び盛りの業界です。彼の言う通り、転職のクチはいくらでもありました。「オレは好きなことを仕事にするぞ! あんな職場にいても芽が出やしない」。新たな旅立ちに意気揚々としていました。

■「お聞きしたいのは『あなたが得意なこと』です」

そして現在。

52歳になった彼は転職活動の面接のため、ある会社の会議室にいました。自分よりも10歳以上若い面接役の課長が入ってきて、レジュメを見ながら話し始めました。

課長「小林さんですね。A社を皮切りに、さまざまな会社を渡り歩かれて、華麗な略歴ですね。当社の業務はご存じと思いますが、どのような仕事を希望されますか?」
本人「希望というより、自分の好きなことしかしたくありません」
課長「……わかりました。質問を変えましょう。小林さんの売りは、なんでしょうか?」
本人「そりゃ、いろいろとできますよ。A社では◯◯◯の部署で◯◯◯の仕事をして、B社では◯◯◯の仕事を……」
課長「そこまでで結構です。どんな仕事をしてきたかはレジュメで把握しています。お聞きしたいのは『小林さんが得意なこと』です」
本人「先ほど申し上げた通りです。『自分が好きなことしかしたくない』と」
課長「……それでは、質問を変えましょう。小林さんが好きなのは、どんな仕事ですか?」
本人「……どんな仕事が好きか、ですか……。ええっと……」
課長「……わかりました。結果は後日ご連絡します。今日はお疲れさまでした」

転職を繰り返すこと十数回。前の職場を衝動的に退職し、すでに半年が経過していました。世間は『少子高齢化で人手不足』といわれていますが、彼は書類選考で落とされ続けています。この半年で面接にこぎ着けたのはわずか2回。先ほどのやり取りは、久しぶりに書類選考が通った面接でしたが、結果はNGでした。彼は私にこう言いました。「オレは自分が好きな仕事をしたかっただけなんだけどな。なんでこうなったのだろう?」。