PRESIDENT 2019年3月18日号 掲載

よく噛んで食べるほうが、頭が良くなる。歯が残っているとボケにくい。そんな「おばあちゃんの知恵袋」のような話が、近年、科学的に実証されはじめている。

小野卓史・東京医科歯科大学大学院教授は、歯、舌の活動をはじめとする口の中の機能が、脳や全身の活動とどう関係するかについて研究。2018年には、歯科医学の国際雑誌「Journal of Dental Research」で、1年間に掲載された中で最も優れた論文に与えられる「IADR/AADR William J. Gies Award」を受賞した。口の中の動きや状態が脳にどのような影響を与えるのか。脳科学者の茂木健一郎氏が小野教授に訊ねた――。

■歯がなくなったら、何をしたらいいか

【茂木】脳と口の中の関係という小野先生の研究は、脳科学の視点からも、健康で長生きしたいと願う普通の人間の感覚としても、非常に興味深いですね。

単純な疑問なのですが、残っている歯の数が少ないと認知症になりやすい、とよく聞きます。これは研究によって実証されているのですか?

【小野】そうです。歯がないことと、認知機能障害に関係がある、という研究結果があります。具体的には、愛知県の6自治体で、認知症の認定を受けていない65歳以上の健常者約4400人を対象に4年間の追跡調査が行われたんですね。

すると、残っている歯の数が多いと、認知症になりにくいということがわかった。反対に、歯がほとんどなく義歯も使用していない人は、認知症の発症リスクが高くなると示されました。年齢や治療疾患の有無や生活習慣といった他の要素にかかわらず、です。

ただし、興味深いことに、この研究では自分の歯がほとんどなくても、義歯を入れさえすれば、認知症の発症リスクは、歯が20本残っている人と同じ程度だったんです。

【茂木】80歳で20本の歯を残そうというスローガンがありますが、自分の歯を大切にすれば、食べ物をよく噛むことができ、認知機能にも有効であるということですね。

ちなみに、義歯といっても、差し歯や入れ歯、ブリッジ、インプラントなどがありますが、義歯の種類と脳との関係はいかがでしょうか。

【小野】それらを比べた研究はないですね。入れ歯やインプラントのほかに「自家移植」という方法もあって、それらの比較をした研究はまだないんです。だから、いつか手をつけたいと思っています。