■「高齢者の花粉症」は命に係わる
花粉の季節、花粉症の方はくしゃみが止まらなくなってしまいますね。
海外でくしゃみをすると「God bless you.(神のご加護を)」と声をかけられます。これは、くしゃみで「身体から魂が飛び出る」と信じられていたことや、過去に流行した「ペスト(黒死病)」の初期症状がくしゃみだったことに由来するそうです。
本来、くしゃみは気管や肺などの気道内に、微生物や細菌、ウイルスなど外部からの異物が侵入するのを防ぐ機能です。また、花粉やハウスダストによるアレルギー、鼻粘膜の血管運動、自律神経の反射、刺激物による反射など、さまざまな原因でも生じます。
くしゃみをすると、唾液は2〜3メートル、噴霧したガス状であれば7〜8メートルほどの距離まで飛ぶと言われています。そのスピードは時速50キロメートル以上。さらに、くしゃみ一回で消費するエネルギー量は、約4キロカロリーだそうです。
数値で見るとたいしたことはないと思われるかもしれませんが、瞬時にこのような症状を引き起こせば、人体には相当な負荷がかかるものです。くしゃみは多くの筋肉を使うため、連発すれば体力を消耗し、通常の呼吸がしにくくなることもあります。
さらに、前触れがないため自分でコントロールすることができず、ほかの行動ができなくなったり、目をつぶったりしてしまいます。飲み物を持っているときにくしゃみをして、勢いでこぼしてしまった経験はないでしょうか? 飲み物をこぼす程度で済めばいいのですが、高齢者の場合、予期せず生じるくしゃみによって、なんと生命の危険にさらされることがあります。
■くしゃみの止め方が悪いと失神、骨折を招く
一つは、くしゃみによる失神です。
くしゃみの仕方や体勢によっては、首に負担がかかり意識を失うことがあります。これは、首と顎の境目に位置する「頸動脈洞」という部位に、刺激が及ぶためです。「頸動脈洞」には、脳への血流を監視する機能があり、刺激が加わると脳の血流を下げようとして脈を遅くさせます。この反射によって脳血流が低下し、失神してしまうのです。
これが死に直結することはなくとも、失神が原因で転倒や転落、溺水、交通事故などの重大な二次被害につながることがあります。実際に、「運転中のくしゃみによる失神が原因である」と裁判で認定された交通死亡事故もありました。
もう一つの危険性は、肋骨骨折。くしゃみの負担は、呼吸運動を司る肋骨にかかりやすいので、骨が弱くなっている高齢者は危険です。肋骨は呼吸で大きく動かす骨なので、骨折すると痛みで呼吸が浅くなり、二次的に肺炎や呼吸不全など重篤な合併症を併発する可能性があります。
このように、くしゃみは身体に相当な負荷がかかるのですが、だからといって、くしゃみを無理に止めようとするのはやめましょう。たとえば、口や鼻を手で強く圧迫するようにして覆うなどすると、さらに負荷がかかって、気道の損傷やぎっくり腰などほかの傷病を併発することもあるので、絶対にやってはいけません。
△このような危険を避けるには……
・くしゃみが続くようなら、耳鼻咽喉科系の病院を受診する。
・くしゃみの後に身体の痛みを感じたら、整形外科系の病院を受診する。
・口や鼻を無理やり押さえてくしゃみをしない。
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高木 徹也(たかぎ・てつや)
法医学者、東北医科薬科大学教授
1967年東京都生まれ。杏林大学法医学教室准教授を経て、2016年4月から東北医科薬科大学の教授に就任。高齢者の異状死の特徴、浴槽内死亡事例の病態解明などを研究している。東京都監察医務院非常勤監察医、宮城県警察医会顧問などを兼任し、不審遺体の解剖数は日本で一、二を争う。大人気ドラマ『ガリレオ』シリーズなど、法医学・医療監修を行っているドラマや映画は多数。著書に『なぜ人は砂漠で溺死するのか?』(メディアファクトリー)などがある。
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(法医学者、東北医科薬科大学教授 高木 徹也)


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