■デング熱は気候病である

デング熱は、単なる熱帯の感染症ではなく、気候変動が健康に及ぼす影響を象徴する「気候病」です。地球温暖化、都市化、国際観光などによる人流の増加、そして脆弱な公衆衛生体制といった因子が重なると感染の危機が高まるのです。

最近の研究では、2020年生まれの子どもの92%が、生涯に前例のない熱波を経験する可能性があるとされ、熱帯病が温帯地域でも常在化するリスクが高まっています。感染症対策と気候対策は切り離せません。ワクチンや医療体制だけでなく、都市設計や環境政策とも連携して取り組む必要があります。個人としてヤブ蚊対策を行うだけでなく、地域社会や政策レベルでも、気候変動に対応した防疫インフラを整備し、感染症への備えを進めることが求められています。

デング熱は、もはや遠い国の病気ではありません。沖縄では通年の高温多湿環境により、通年感染が成立する可能性が指摘されており、ハワイでは過去に何度も局地的な流行が起きています。潜伏期間中の無症候感染者が蚊に刺されると、都市内での「人→蚊→人」感染サイクルが成立してしまいます。感染症対策と観光政策の両立は、これからの日本社会における重要な課題となるでしょう。

しかし、正しい知識と準備があれば、デング熱を過剰に恐れる必要はありません。気候が変われば感染症もまた変わりますが、それに柔軟に対応する私たちの行動が、未来の都市と暮らしの安全を守るのです。

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谷本 哲也(たにもと・てつや)
内科医
鳥取県米子市出身。1997年九州大学医学部卒業。医療法人社団鉄医会理事長・ナビタスクリニック川崎院長。日本内科学会認定内科専門医・日本血液学会認定血液専門医・指導医。2012年より医学論文などの勉強会を開催中、その成果を医学専門誌『ランセット』『NEJM(ニューイングランド医学誌)』や『JAMA(米国医師会雑誌)』等で発表している。
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(内科医 谷本 哲也)