■高い寝具を買う前に生活改善を
ぐっすり眠れないとき、寝ても疲れがとれないときに、真っ先に考えるのがマットレスや枕の買い替えですね。世の中には数かぎりない種類の寝具があり、ネット広告も多数。高い寝具を買えば、快眠生活が手に入るのではと考えたくもなります。
けれど睡眠の質を決めるのは、睡眠時間や規則正しい睡眠‐覚醒リズムであり、寝具だけで何かが変わったりはしません。「人生の投資だから」と貯金をはたいて高い寝具を買う前に、まずはできるかぎりの生活改善を。そのうえで予算に余裕があれば、好みの寝具を探しましょう。睡眠科学でも寝具の研究はおこなわれていますが、「これが決定打」といえるほどの最高の寝具や、その条件は見つかっていません。
マットレスに関しては一般に、硬さや機能の違いで睡眠が変わるとされます。では実験結果はどうでしょう? 硬さでは、中程度の硬さがいいようです。普通のスプリングマットレスで寝ている人を対象とした実験でも、中程度の硬さのマットレスで眠ることで、肩や背中、腰の痛みが起きにくく、睡眠効率が高まるとわかりました(Jacobson BH, Wallace T&Gemmell H, 2006)。慢性腰痛の人を対象とした実験でも、中硬度マットレスで、痛みの改善が認められています(Kovacs FM et al., 2003)。
高機能タイプは、製品間の違いもあり一概にいえません。体圧分散型マットレスの実験では、入眠潜時や睡眠時間、睡眠効率は普通のマットレスと同程度だったものの、徐波睡眠は増えたと報告されています(図表7参照)。
■枕は「あお向け」「横向き」両方に対応したものを
スマホによるストレートネックに悩む人も増え、枕選びも悩ましいところです。重要なのは、正常な首と胸郭(きょうかく)(鎖骨(さこつ)〜胸の骨格)のカーブを保てること。これにより睡眠中も筋肉が緊張せず、リラックスして眠れます。
ただ、睡眠中は20〜30回も寝返りをうちます。これは健康な体、健康な睡眠の証拠。姿勢がどんどん変わるので、「あお向け用」「横向き用」と分けて考えることはできず、両方に対応した枕を選ばなくてはなりません。
あお向けのときは、中央の凹みに頭部がフィットするのが理想的。へこんでいない部分の高さは7cm程度がいいと報告されています(Li X, Hu H&Liao S, 2017)。一方で横向きのときは10cm程度がめやすで、横向きのときに首を支える両サイドの部分は、高めのほうがいいようです。
(初公開日:2025年5月15日)
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林 悠(はやし・ゆう)
東京大学大学院睡眠生理学研究室 教授
1980年生まれ。2003年東京大学理学部生物学科卒業後、同大学院理学系研究科博士課程生物科学専攻修了。理化学研究所脳科学総合研究センター研究員、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)准教授、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授などを経て、2022年より現職。国内外の受賞歴も多数。動物が眠る理由、睡眠の生理学的意義の解明とともに、睡眠の異常をともなう疾患理解と予防治療法の開発をめざす。監修書に『東京大学の先生伝授 文系のための めっちゃやさしい 睡眠』(ニュートンプレス)などがある。
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(東京大学大学院睡眠生理学研究室 教授 林 悠)


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