2022年8月にチュニジア・チュニスで行われた卓球のWTTコンテンダー。ついに、張本・張本組みという「はり・はりペア」が登場した。兄・張本智和と、妹・張本美和の混合ダブルスだ。世界でも珍しい兄と妹のミックスペア。だが、卓球の世界ではこの「兄弟・姉妹がどちらも強い」という現象が実はすごく多い。なぜ卓球という競技では、兄弟や姉妹がそろって強いのか。そのメカニズムを見ていこう。

(文=本島修司、写真=Getty Images)

「はり・はりペア」想像を超える3つの際立つ武器

「はり・はりペア」は、やはり強かった。

WTTコンテンダー・チュリスでは、名前を聞いただけで「強そう」「楽しみ」と想像が膨らむ、張本智和・張本美和の兄妹ペアが、幾度となくピンチが訪れた接戦を次々と制し、見事に優勝を飾った。

特に決勝戦は、逆転での優勝だ。兄・智和にとっては、7月に行われたWTTチャンピオンズ・ブタペストでの男子シングルスで見せた「奇跡の大逆転」に続く、決勝戦での逆転劇。「大一番で勝負強い」張本智和が戻ってきたことを印象づけた。9月の世界選手権(ITTF世界卓球選手権大会)に向けて期待は高まるばかりだ。

そしてなんといっても、今大会では、妹・美和の活躍も目立った。兄に負けない「勝負度胸」と、疲労が目立つ状態の中でも「大事な場面で確実にボールをねじ込んでくる確実性」。この2つが際立つプレーを見せて、女子シングルスでも2位へ上り詰めた姿は、先の2024年パリ五輪への可能性も感じさせた。

決め手は「気をつかわない」関係性の完成

混合ダブルス。今大会を通じて、張本智和はチキータの技術が特にさえていた。時に相手が混乱するほどに、チキータ一つで、伸びるボール、横回転が強めのボールなど、さまざまなボールを繰り出した。また、1回戦から、ブタペストで見せていた鋭いロングサーブも光った。

兄・智和の調子が良い中で迎えた、混合ダブルス決勝戦。相手はチャイニーズ・タイペイの馮翊新・陳思羽のペア。1ゲーム目。ストップからの展開、主に台上プレーで先手を取られる攻防に序盤から苦戦して落としてしまう。2ゲーム目は、張本ペアにエンジンがかかり、攻撃が決まり出す。3ゲームは9−11で落とし、4ゲームは10オールでジュースに。そこから2本を取り切り、張本ペアが取る。このゲーム、最後はここで一本という場面でミスの少ない張本美和の押し込むようなバックハンドが決まった。

この間、得点自体が表しているように、一進一退の攻防が続いた。その中で目立ったのは、張本智和のパートナーへの「声かけ」だった。つまり、「兄から妹へ」の声かけだ。一見すると少し迷惑そうな表情を見せることもあった妹の美和だが、いい意味で“気を使わないダブルス”が、一つの大会の中で完成されていく姿がそこにはあった。

迎えた5ゲーム目。兄の智和は疲労困憊に見える美和をさらに鼓舞し続けた。そして、最終セットでも肝心な場面でミスをしない妹の精密なプレーを生かし切り、自らフォアハンドの決定打を放った。最後もフォアドライブで打ち抜いて勝利を決めた。

同じ環境に出入りするうちに、「下の子も初めてしまう」競技

卓球には、同じ環境に出入りするうちに、「下の子も始めてしまう」という特徴がある。

この傾向はどの競技にもあることかもしれない。だが、卓球の場合、「筋力」も重要ながら、野球やサッカーよりは「パワー」という要素を「素早い動き」と「ミスのない連打」でカバーすることもできる。これは、直径が40mmで重量が2.7gという小さくて軽いボールを扱う競技ということが大きい。

「単純なパワー勝負」ということにはならない。つまり、小さな子どもが大人を負かせてしまうのはこの競技の必然性ともいえる。現に、ジュニアの部で強い中学生が高校生を負かす試合は、全国各地でよく目にする光景だ。

一方、卓球は実際にプレーするとフォームに癖がついていない「幼少期の教育が大事」だと痛感する競技でもある。そのため、「親がやっている」「兄がやっている」「妹がやっている」というスタートの仕方が大きな武器になることも多い。

卓球の大会に「同じ苗字の選手」が頻繁に登場するのは、こういった理由からだろう。最近では、先天性の障害と向き合いながら粘り強いプレーで勝ち上がる、平野美宇の妹・平野亜子も、次世代のスーパースター候補の一人だ。

卓球は、環境のスポーツ。育成方法の選択肢は?

卓球は「環境のスポーツ」ともいわれている。その「環境」と「育成方法」には、どのような選択肢があるのだろう。

まず、卓球エリートの道を歩む子どもは、通称“エリアカ”と呼ばれる2008年に日本オリンピック委員会が設立したJOCエリートアカデミー、他にも関西アカデミーといった専門施設に早い段階から身を置く形がある。エリートアカデミーは張本智和、関西アカデミーは伊藤美誠を輩出した練習場だ。

次に、名門私立高校へ進学という道がある。現実的には、これが最も多いケースではないだろうか。中学校時代に卓球の才能の頭角を現し、高校入学から地元を離れ、全国に点在する名門と呼ばれる高校へ入学する形だ。

最後に、全国各地に点在しているクラブチームやスクールという存在もある。卓球の場合、クラブは小学生や中学生を中心にしたものが多い。ここでもやはり幼少期の育成を重要視する方針のクラブが多く、「幼少期に強くする」のがむしろ王道となっている。

その一方で、さまざまな理由で地方に残り、地元の高校に普通に進学することになった「埋もれていた才能のある高校生」の実力を引き延ばすようなクラブも存在する。こうした選手のクラブへの送迎には、親御さんと一緒に弟や妹もついてくる。この流れで、そのまま卓球を始めたという話も多い。

卓球。このスポーツには兄弟や姉妹がそろって強くなる、必然的な「理由」がたくさんある。その中から飛び出した“アイコン”的な存在にもなりうるのが、「はり・はりペア」だろう。ネームバリューはもちろんのこと、チュリスでの国際大会優勝によって、期待はさらに高まる。

「弟も強い」「妹も強い」。この現象は、この先まだまだ続きそうだ。世界を相手に戦う強い兄や姉の、弟や妹といった下の世代がしっかりと育ち、現実として14歳の女子が世界の舞台で躍動している。日本の卓球の未来は明るい。

<了>