スポーツ界・アスリートのリアルな声を届けるラジオ番組「REAL SPORTS」。この春からはJFN33局ネットの全国放送にリニューアル。元プロ野球選手の五十嵐亮太、スポーツキャスターの秋山真凜、Webメディア「REAL SPORTS」の岩本義弘編集長の3人がパーソナリティーを務め、ゲストのリアルな声を深堀りしていく。今回は、ゲストにスタジアム・アリーナを専門とする建築家、上林功さんが登場。自身が建築を手がけた「Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島」が進化を続ける理由、さらにはこのスタジアムが老若男女を魅了する重要な要素など、「スポーツ×建築」という観点でさまざまな話を伺った。

(構成=磯田智見、写真提供=上林功)

進化するMazda Zoom-Zoom スタジアム広島

岩本:上林さんは長年にわたり、スポーツのスタジアムやアリーナを専門とした建築家として活躍されています。

上林:以前、設計事務所に勤めていたころ、私の厚い胸板を見た事務所の代表から「君はスポーツ関連の仕事に向いていそうだな」と言われました。そのころからずっとスポーツ施設の仕事に当たってきました(笑)。

五十嵐:大胸筋が発達しているがために、スポーツ施設の仕事を担当し始めたとは(笑)。

岩本:プロ野球の広島カープがホームスタジアムとして使うMazda Zoom-Zoom スタジアム広島(マツダスタジアム)の建築を担当者として手がけられたのも上林さんです。

五十嵐:マツダスタジアムは個人的に大好きな球場です。雰囲気がいいですし、野球を観戦しながらお好み焼きやバーベキューができたり、スポーツジムからもスタジアムの様子が見られるなど、多くの楽しみ方がある球場として注目を集めていますよね。

上林:そうですね、なかなかああいった球場はないと思います。一方で、すべてのことをもともと計画していたわけではないんです。マツダスタジアムは2009年にオープンしましたが、毎年のようにどこかに手を入れながら進化してきました。

五十嵐:10年以上、毎年のように新しい要素を取り入れているんですね。

上林:ええ。しかも、球団自体がファンからの意見に耳を傾け、「もっとこうしたい」「新たにこういう要素を加えよう」と取り組んでいるんです。

岩本:世界的にも珍しい形なのではないですか?

上林:一般的には、何か新しいアイデアを取り入れる場合、もともと建築にかかわった設計事務所に相談を持ちかけるケースが多いのではないかと思います。それがマツダスタジアムの場合は、球団自らが「このエリアに新しい観客席を作ろう」と積極的に動いていますし、スタジアム周辺の開発に携わる事業者や広島市とアイデアを出し合いながら実現した企画もありました。

秋山:広島全体が一致団結している感じが伝わってきますね。


全世代の広島カープファンが集える場所へ

五十嵐:所属されていた事務所に新球場建設の話はどのようなタイミングで届いたのでしょうか?

上林:20年ほど前になりますが、もともとは旧広島市民球場をドーム型の球場にしようという議論があったんです。とはいえ、あの周囲には多くの遺産があり、敷地も決して広いとはいえない状況でしたので、現実的には難しいという判断に至りました。そこから新球場建設の話が始まることになります。

五十嵐:それほど長期間にわたる話だったんですね。

上林:よく広島の方々は「石橋をたたいて“渡らない”」と言われますが、皆さん広島カープのことが大好きですから、新球場建設に際して、「慎重に慎重を重ねながら、夢の器をつくるんだ!」と、愛する球団にふさわしい球場をつくるために時間をかけていろいろと考えられていました。その後、2006年に設計コンペが行われ、私も提案チームの担当者として参加したという流れです。

五十嵐:僕は旧広島市民球場でプレーした経験があります。あの球場は決して広くないですし、新しいわけでもありません。でも、広島の方々は旧広島市民球場が大好きなので、新しい球場ができるという話が持ち上がったときにはかなり反対されていましたよね。

岩本:ところが、マツダスタジアムができてからというもの、常に超満員のお客さんが入り、球場全体が盛り上がっていますからね。「みんな、手のひら返しがすごいな」と思いましたよ(笑)。

五十嵐:僕もそれはものすごく感じていました。「あんなに反対していたのに!」って(笑)。

秋山:最終的には、広島カープに対する愛情の強さと新しい球場の心地よさがマッチしたんでしょうね。

上林:旧広島市民球場には、長い歴史を歩むなかで「コアファン向けの球場になってしまった」という懸念点があったようです。広島の方ならよくおわかりかと思いますが、多くのご家庭では赤ちゃんからお年寄りまで、家族みんなが広島カープファンなんですよね。だからみんなで球場に行きたいんですが、やはり子ども連れやお年寄りはビール片手にくだを巻いている“おっちゃん”たちの間にはなかなか入り込んでいけないわけです。

 そのため、マツダスタジアムをつくるにあたっては「多世代のすべての広島カープファンが集えるような場所」を目指し、子どもからおじいちゃんやおばあちゃんまでの3世代全員が楽しめるスタジアムとなりました。その点が、多くの方々に受け入れられた要因なのではないかと思うんです。マツダスタジアムができて以来、「カープ女子」という言葉が生まれたことも、象徴的な出来事の一つと言えるのかもしれません。

「遊環構造」を盛り込んだ日本最大の施設

岩本:マツダスタジアムの素晴らしさの一つは、地元の広島カープには興味があっても、野球のことは詳しくない、集中して試合を見ていられない子どもたちも十分に楽しめるところだと思っています。試合終盤を迎えるころには「もう家に帰りたい」と言い出してもおかしくないのに、マツダスタジアムの雰囲気は子どもたちのことも飽きさせません。

上林:コンコースの存在が一つのポイントと言えるかもしれません。マツダスタジアムのコンコースは1周600m、幅は最大で12m、外野付近は8mになっています。設計事務所の主宰であり、日本を代表する建築家である仙田満先生は、幼稚園や保育園の設計、他にも公園や遊具の設計をしていました。およそ40年にわたり、「子どもたちを魅了してやまない公園や遊具の構造はどのようなものか?」ということをテーマに研究を続けられ、実はその成果がマツダスタジアムにも盛り込まれているんです。

五十嵐:例えば、どのあたりに反映されているんですか?

上林:子どもたちが公園で遊んでいる様子を眺めていると、大人には意味がわからないけれど、同じコースをグルグルと走り回っていることがありますよね?

五十嵐:確かに、うちの息子もグルグルと走り回っていました。

上林:その姿をよく見ていると、子どもたちが走るコースの途中には平均台やすべり台といったワクワクする遊具やシンボルがいくつもあり、さらには上下移動を楽しめるようなエリアがあるんです。実は子どもたちが何周も走り回りたくなる場所にはいくつかの条件があって、仙田先生はそれを「遊環構造」という7原則にまとめました。そして、その「遊環構造」を盛り込んだ日本最大の施設がマツダスタジアムなんです。

秋山:そうなんですね!

上林:それ以外にも、仙田先生には「人々を魅了してやまない商店街」というテーマに対する研究実績もありました。なかでも商店街の長さは大事なポイントとして挙げられ、入り口から出口までの距離がおよそ600mという長さが理想なんです。それを参考にマツダスタジアムのコンコースにも600mという長さを導入し、お客さんは飽きがこないうちに1周を歩き終え、気づいたら2周目に突入しているような構造になっています。

五十嵐:あまりに距離がありすぎると、飽きがきてしまって「もう1周しよう」とは思いませんからね。あのスタジアムは子どもだけでなく大人も楽しめますし、プレーしている選手たちも雰囲気のよさを感じてスタンドを眺めてしまうほどです。選手の立場でもとても気持ちのいいスタジアムだと感じました。

上林:ありがとうございます。広島カープファンの方々を見ていると、おじさんもおばさんも、おじいちゃんもおばあちゃんもみんなが子どものようにキラキラした目をしているように感じます。マツダスタジアムのワクワク感が、幅広い世代に影響を与えているのかもしれませんね。

岩本:最近は他のスタジアムでも増えつつありますが、マツダスタジアムはコンコースからでもグラウンドの様子が見られます。試合中に食べ物や飲み物を買いに行っても、売店に備えつけられた画面を見るのではなく、リアルで試合の行方を追うことができるのは大きなポイントですよね。

上林:マツダスタジアムでは2階席に上がるときにスキップフロアのような形で中間階を通過していくんですが、そのときにも必ずグラウンドが見えるよう設計されています。コンコースから360度グラウンドが見られるというだけでなく、2階席に移動するときであっても、できるだけグラウンドから目線を切らせないような計画が組み込まれているんです。


“街の一部”を使ってスポーツ施設をつくる

岩本:上林さんは今年6月に『2050年のスポーツ スポーツが変わる未来/変える未来』という書籍を出されました。

上林:スポーツには多様な形があります。競技スポーツはもちろん、見るスポーツやスポーツボランティアというスタイルもありますし、最近では「スポーツ×漫画」「スポーツ×メディア」「スポーツ×テクノロジー」といったさまざまな観点も注目されていますよね。それらを集約し、「2050年のスポーツはどのような形になっているのだろうか?」というテーマについて、いろいろな専門家の方の意見をまとめた本になっています。

岩本:上林さんはどのようなパートを担当されているのでしょう?

上林:私は「スポーツが建築を変える」、もしくは「建築がスポーツを変える」というテーマに関して書かせてもらっています。

岩本:そのテーマのなかで、特に上林さんが訴えたいのはどのような部分になりますか?

上林:本来、スタジアムの歴史は古代ギリシャのすり鉢状のものから始まり、古代ローマのコロッセオへとつながっていきました。ところが、古代ローマの衰退とともに、スタジアムという文化は一度埋没してしまうんです。

岩本:確かに世界中を見渡しても、コロッセオのようにスポーツにかかわる歴史的な建築物は多くありませんね。

上林:そのとおりなんです。スタジアムが歴史のなかにもう一度登場するのは、1850年代以降になります。具体的には、第1回のアテネ五輪の開催直前に地中に埋まっていたスタジアムがギリシャで発掘されて、オリンピックのために整備され、改めて日の目を見ることになりました。スタジアムは、その歴史の大半の期間を土の中で過ごしていたんです。

岩本:なるほど。

上林:そして発掘されて以来、スタジアムの形が進化を遂げることはほとんどありませんでした。そのため、この100年ほどの間、スタジアムはとてつもなく大きなかたまりとして街なかに鎮座してきました。

岩本:最近はデザイン的にいろいろな形が見られるようになりましたが、基本的に僕らがイメージするスタジアムというのは、スタンドがあり、その中央部に陸上トラックやピッチがあるものですね。

秋山:確かにそういうイメージですよね。でも、そこから変わる余地はあるのでしょうか?

上林:歴史をさかのぼると、まだ人や建物が多くはなく、広い土地が確保できた時代にはそれでもよかったんです。しかし近年、街なかは人や建物であふれ返り、土地の確保も難しい。その状況のなか、「どのようにスタジアムをつくるのか?」という課題が常に浮上しています。例えば2024年に行われるパリ五輪では、街なかに仮設のスタンドを作り、街そのものをスタジアムにする、もしくは街そのものをオリンピック会場にするという考え方が模索されています。かつてのように、大きなスポーツスタジアムをつくると街全体にどうしてもゆがみが生じてしまいます。そのため、最近では“街の一部”をうまく使いながらスポーツ施設をつくるというアイデアが検討されているんです。

岩本:まさに、スタジアムと街が一体化するという感覚ですね。

パリ五輪の開会式はセーヌ川で開催?

上林:例えばパリ五輪に向けては、パリ8区にあるコンコルド広場のような街なかの大きなスペースを使ったり、交差点を封鎖してスタジアムのように使うアイデアなども検討されています。

五十嵐:もしその発想を日本に持ち込むとなった場合、上林さんの立場ではどのような場所が思い浮かびますか?

秋山:例えば、東京都渋谷区のスクランブル交差点ですか?

上林:とてもいいことをおっしゃいました。

五十嵐:ええ!? それは無理でしょう?(笑)

上林:実は、東京五輪の開催に向けてさまざまな議論がされていた段階で、渋谷区は「渋谷区全体がスタジアムである」と掲げ、「渋谷区の道路をスポーツやイベントで利用してください」という方針を固めて発表していました。

岩本:2019年に開催された第3回渋谷盆踊り大会のなかで、オリンピックとパラリンピックを盛り上げようと「東京五輪音頭2020」に合わせて参加者の皆さんが踊ったのはその一環ですね。他にも、パブリックビューイングの会場としての利用など、さまざまなことが検討されていたと聞きました。

上林:日本を代表する建築家の磯崎新さんは、メインスタジアムで行うのは開会式などのセレモニーが中心なのだから、例えば開会式を皇居前の大通りで実施することができれば、メインスタジアムとして特別に大きなものをつくらなくてもいいのではないかと提案していました。

五十嵐:非常に面白い発想ですね。

上林:実はパリ五輪の開会式は、世界遺産であり、パリを縦断するように流れるセーヌ川で行われます。選手たちは船に乗り、街なかを巡っていきます。つまり、メインスタジアムはもはや開会式の会場ではなくなりつつあるんです。

五十嵐:これまでの歴史のなかで培われた「オリンピックの開会式とはこうあるべき」という考え方に執着せず、みんなが楽しく見られて、オリンピック開幕という事実をしっかりと伝えることができるのであれば、正直なところ場所はどこでもいいのかもしれません。

岩本:そのようなアイデアを日本にも導入していくには、さまざまなルールを変えていく必要がありそうですね?

上林:おっしゃるとおりです。海外では街なかでスポーツやローラースケートをすることに対して、「それは文化だから」と許容するケースが多々あります。最近は「パルクール」という街なかを障害物競争のように駆け抜けていくスポーツが脚光を浴びていますが、これを日本国内の街なかで実施することはおそらく認められないでしょうし、すぐに怒られるでしょう。東京五輪で使われたアーバンスポーツパークをはじめ、有明やお台場をスポーツの街にしようと考えるのであれば、歩道をはじめ、あらゆるものをスポーツに活用できるような特区にできたら面白いのではないかと思っています。

<了>






[PROFILE]
上林功(うえばやし・いさお)
1978年11月生まれ、兵庫県神戸市出身。追手門学院大学社会学部スポーツ文化コース 准教授、株式会社スポーツファシリティ研究所 代表。建築家の仙田満に師事し、主にスポーツ施設の設計・監理を担当。主な担当作品として「兵庫県立尼崎スポーツの森水泳場」「広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)」など。2014年に株式会社スポーツファシリティ研究所設立。主な実績として西武プリンスドーム(当時)観客席改修計画基本構想(2016)、横浜DeNAベイスターズファーム施設基本構想(2017)、ZOZOマリンスタジアム観客席改修計画基本設計など。「スポーツ消費者行動とスタジアム観客席の構造」など実践に活用できる研究と建築設計の両輪によるアプローチを行う。早稲田大学スポーツビジネス研究所招聘研究員、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究所リサーチャー、日本政策投資銀行スマートベニュー研究会委員、スポーツ庁 スタジアム・アリーナ改革推進のための施設ガイドライン作成ワーキンググループメンバー、日本アイスホッケー連盟企画委員、一般社団法人超人スポーツ協会事務局次長。一般社団法人運動会協会理事、スポーツテック&ビジネスラボ コミティ委員など。

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JFN33局ネットラジオ番組「FUTURES」
(「REAL SPORTS」は毎週金曜日 AM5:30〜6:00 ※地域により放送時間変更あり)
パーソナリティー:五十嵐亮太、秋山真凜、岩本義弘

Webメディア「REAL SPORTS」がJFNとタッグを組み、全国放送のラジオ番組をスタート。
Webメディアと同様にスポーツ界からのリアルな声を発信することをコンセプトとし、ラジオならではのより生身の温度を感じられる“声”によってさらなるリアルをリスナーへ届ける。
放送から1週間は、radikoにアーカイブされるため、タイムフリー機能を使ってスマホやPCからも聴取可能だ。
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