日本有数の恵まれた育成環境を持ち、育成クラブのモデルケースとして国内外から注目を集めているFC市川GUNNERS(ガナーズ)。国際規格の広さの専用グラウンドで、小学生から高校生までの子どもたちが一貫した独自の育成メソッドを学びながら汗を流す。U-8からクラブチームとして活動しているガナーズでは、実際にどのような指針のもとで育成が行われているのか。1週間の理想的なプレー頻度について、クラブとスクールそれぞれの在り方について、そして求める選手像について。育成のスペシャリストであり、ガナーズ代表を務める幸野健一に話を聞いた。

(インタビュー・構成=中林良輔[REAL SPORTS副編集長]、写真提供=FC市川GUNNERS)

バルセロナのアカデミーは「週に330分」という基準がある

――これまで国内外で数々の育成現場を見てこられた幸野さんが代表を務めるFC市川GUNNERS(ガナーズ)では、小学生は週にどれぐらいの頻度で練習や試合を行っているのでしょうか?

幸野:サッカー先進国であるヨーロッパのトップクラブはだいたい同じような考え方に行きついていて、例えばバルセロナのアカデミーではサッカーをやっている時間は週に330分。90分練習×平日3回+週末1試合くらいです。ガナーズでも大枠はこの基準に沿っています。例えば、月・水・金と平日に3回トレーニングを行って、1セッションが75分。75分×3回で合計225分になります。そして週末に60〜90分のトレーニングか試合出場があってトータルで約300分前後。たぶんこれは日本全体の平均値よりも少ないのではないでしょうか。

――多い子で週に5〜6回、クラブやスクールを掛け持ちしているケースも少なくないと思います。一般的なサッカークラブやスクールは1回2時間の活動が多いことを考えると、週に5回の活動でも600分。バルセロナやガナーズの2倍近くに相当します。

幸野:日本の子どもたちの練習時間は世界一長いと思います。だけどヨーロッパは本当にどのクラブを視察してもびっくりするぐらい短いんですよ。短いけれど、やっている中身は濃い。インテンシティーも高い。結局、大事なのはオンとオフなんですよ。やる時はやる、遊ぶ時は遊ぶ。このメリハリがサッカーだけじゃなくて普段の生活から浸透しています。

――幸野さんはよく子どもにとっての「余白の大切さ」についても言及されています。

幸野:親としてはわが子の予定が空いている曜日、空いている時間にパズルのように習い事を詰め込みたくなる気持ちもわかります。ですが子どもにとって、なんとなくボーっと過ごす時間もすごく大切なのです。その時間は自由に空想をしたり、楽しそうなことややってみたいことを考えたり、実際にやってみる時間であって、自分の好きなこと、つまりは夢につながる時間でもあります。余白があるからこそ伸びしろが生まれるわけです。

――日本では学校のない夏休みや冬休みでも、合宿や遠征などがたくさん行われています。

幸野:ヨーロッパの子どもたちにとって、2〜3カ月くらいある夏休み期間中はサッカークラブの活動がないんです。だからこそ、夏休みのオフ期間が終わった後、「サッカーやりたい!」と心から思える。余白があるから燃え尽きない。毎日忙しく時間に追われる生活を送って、常に疲れている状態ではダメなんですよ。楽しくて始めたはずのサッカーがやらされている感覚になってしまう。そこが一番問題です。

サッカーが課金ゲームに。お金をかければかけるほどうまくなる?

――サッカースクールも多種多様なものがありますが、ガナーズではクラブでの活動とは別にスクールを掛け持ちすることは各選手の意思に任せているのですか?

幸野:週に300分という練習時間の基準や、余白の大切さについてはコーチが折に触れて伝えていると思いますし、基本的にはないと信じたいです(笑)。ですが、実際にはクラブとは別にスクールにも通っている選手はいると思います。ただクラブとして詮索はしませんし、何かを強制することは極力避けているので、われわれがそれをやめさせることはないです。こちらの考え方をしっかりと理解してもらえるように努力するしかありません。

 スクール以外にも、例えば朝練や自主練も同じです。そもそも子どもたちの親御さん自身が、朝練とか自主練を子どもの頃に経験してきた世代ですから。サッカークラブの活動以外の時間もサッカーのために使うべきだと助言しているご家庭も多いのではないでしょうか。そういう意味でいうと本当に根が深い問題です。ただ、サッカークラブとは別にスクールに通うことや、朝練・自主練を行う習慣があることは世界的に見てもレアなケースであり、それを実践している日本は現時点で世界の強豪ではないという事実をこれからも発信し続けなければいけないと感じています。

――保護者としても仮にそれを頭では理解していても、わが子に目の前の試合にレギュラーとして出場して活躍してほしいとの思いが勝り、結果として詰め込み型に流れてしまうケースも多いと思います。

幸野:わかります。チーム内のライバルの子がドリブルスクールに行っていると聞くと、うちも行かなきゃいけないと思ってしまうわけです。近年はお金をかければかけるほどうまくなるはずだと、サッカーが課金ゲームのようになってしまっているようにも感じます。ただし、そのような考え方が、世界のトップレベルとは逆方向の考え方であることは認識すべきです。

――ドリブルに特化したスクールは急激に増えてきている印象です。

幸野:サッカーはサッカーをすることでしか本質的にはうまくならないんです。ドリブルスクールに意味がないとは言いませんが、サッカーの一部を切り取っただけのトレーニングであることは確かです。例えばコーンを置いて30分ドリブル練習をするのであれば、友達を誘って公園でミニゲームをやるべきだと私は考えています。コーンはあくまでコーンであって、本番では人間と対峙するわけですから。サッカーには「認知」「判断」「実行」というフェーズがありますが、そのうちの「実行」ばかり練習してもダメで、「認知」と「判断」をともなったものでないといけないんです。

 公園に行っても一緒に蹴ってくれる友達がいないから、一人で自主練をするしかないのだという話もよく聞きます。そのような話を聞くといつも元JFAアカデミー福島(テクニカルアドバイザー/当時)のクロード・デュソーさんが以前話していた言葉をそのまま伝えています。

「日本人はよくそう言うけど、もうすでにそこからサッカーが始まっているんだよ。そういった場面でヨーロッパの子どもたちは友達の家を片っ端から回って一緒に蹴ってくれる仲間を集める。日本人はなんでそこで諦めるの?」

なぜ日本にサッカースクールが浸透したのか?

――日本ではなぜこれほどサッカースクールが浸透したのでしょう?

幸野:スクールっていわゆる塾と同じですよね。日本には指導者がボランティアのお父さんコーチで、週末しか活動できない少年団やサッカークラブがまだまだたくさんあります。そのような事情もあって、平日も練習したいという選手側のニーズもあり、所属チームとは別に習い事としてスクールに行くという習慣が浸透していったのだと思います。ただ、そういった需要の受け皿となるスクールはまだわかりますが、サッカーの一部を切り取って、過度に「個の能力を高める!」とうたったコンセプトのスクールには少し違和感を覚えます。

――ガナーズではクラブチームとスクールをどちらも運営されています。どのようにすみ分けしているのですか?

幸野:ガナーズのクラブチームは独自のプレーモデルを持ち、U-12からU-18まで一貫した育成メソッドに基づいてトレーニングを行っています。チームを強化するためのトレーニングという意味合いが強く、個の能力はそのトレーニングを行うなかで自然と身についてくるという考え方です。

――ではスクールはクラブチームにつながる入り口という位置づけですか?

幸野:そうですね。本来、日本に育成メソッドやプレーモデルがしっかりとしたクラブチームがたくさんあれば、スクールはいらないのではないかという思いはあります。その反面、ガナーズのクラブチームに空きがなくて入れない、所属クラブは週末しか活動がないなど、ガナーズのスクールに来たいと言ってくれる子どもたちが多く、その思いには応えるべきだという考え方でスクールを運営しています。

――ガナーズのクラブチームに入れる人数に制限があるという面もあります。

幸野:全選手の適正な試合の出場時間確保などの指針もあり、クラブチームは基本的には1学年16人と人数を制限しているので。その上で、われわれには専用グラウンドもありますし、広く伝えたい育成ノウハウもある。スクールもやる以上はしっかりと意味のあるものにするべく指導コンセプトを確立し、クラブチームで行っているプレーモデルと同様の育成メソッドに基づいて活動しています。

セレクションはやめたい? 選手を選ぶ明確すぎる基準

――ガナーズではどのような基準でセレクションを行っているのですか?

幸野:まず大事なのはうちのプレーモデルに合う選手かどうかです。ガナーズは基本システムを1-4-3-3とし、それぞれのポジションの選手に求める明確なプレーが定義されています。プレーモデルだけでなく、言語化という面でもチーム内の共通認識となるフィールド用語があります。そのため、どれだけセレクションでガナーズのプレーモデルに合うと判断して獲得した選手でも順応にはある程度時間がかかります。

――どれくらいの順応期間が必要になるのですか?

幸野:例えばジュニアユース(中学生)24人のうち、半分近くはジュニア(小学生)から上がってくる選手たちで、残りの半分をセレクションで取るのですが、下から上がってきた選手たちの基準に外部から来た選手たちが追いつくのにはだいたい3カ月はかかります。

――それだけ明確に基準が決まっていると、セレクションでも見るべき点にブレが生まれないですね。 

幸野:そうですね。ただ、早くセレクションはやめたいと思っています。近い将来、ヨーロッパのスタンダードであるスカウティングに切り替えたい。今後スカウティング部門を充実させて、しっかりとガナーズのプレーモデルに合う選手を見つけて、何度か練習参加してもらってお互いにさまざまな面を見極めて、その上で選手を獲得するのが理想です。限られた時間でのセレクションと面接だけではどうしても限界がありますから。プレーモデルやチームのレベルに合わない選手を取ってしまっては選手がかわいそうじゃないですか。

――最後に、幸野さんがガナーズでの活動を通じて子どもたちに最も伝えたいメッセージを教えてください。

幸野:子どもか大人かにかかわらず、常に自分で考えて行動できること。これがいまを生きる現代人に一番求められていて、かつ日本人に足りていない部分だと思います。その点サッカーは、ピッチに入ったら常に周りを観察して、いま何をすべきかを自分で考え、認知・判断・実行を繰り返します。その意味ではサッカーこそまさに今の時代に合ったスポーツであり、サッカーを突き詰めてやることで現代社会を生き抜く力も身につくはずです。自分で瞬時に判断して行動できる人間になる。要するに思考停止の人間にならないわけです。そういった人間を育てられる育成の場でありたいですね。

<了>








[PROFILE]
幸野健一(こうの・けんいち)
1961年9月25日生まれ、東京都出身。FC市川GUNNERS代表。市川SC GM。プレミアリーグU-11実行委員長。サッカーコンサルタント。育成を中心にサッカーに関わる課題解決をはかるサッカーコンサルタントとして活動し、各種サッカーメディアにおいても対談・コラム等を担当。2014年に千葉県市川市に設立されたアーセナルサッカースクール市川の代表に就任。2019年よりFC市川GUNNERSにチーム名が変更される。2020年に千葉県リーグに所属する市川SCとFC市川GUNNERSが業務提携し、市川SCのGMに就任。また、小学5年生が年間を通してプレーする日本最大の私設リーグ「プレミアリーグU−11」の実行委員長として、日本中にリーグ戦文化が根づく活動をライフワークとしている。