企業が優秀な人材を確保するため、また多様な人材にそれぞれの能力を十分に発揮してもらうための環境整備として、「ファミリー・フレンドリー」に戦略的に取り組む企業が、これからの時代を制すると考えている。

ファミリー・フレンドリーとは「労働者の家庭責任に配慮した」といった意味で、女性の社会進出、家族構成の変化、労働者のライフスタイルや意識の変化、少子高齢化などを背景に、1980年代以降、欧米において普及した考え方である。厚生労働省の定義では、「仕事と育児・介護とが両立できるようさまざまな制度を持ち、多様でかつ柔軟な働き方を労働者が選択できるような取り組みを行なう企業」をファミリー・フレンドリー企業としている。

ファミリー・フレンドリーの一環として、会社は出産、育児、介護などの制約にかかわらず女性が職場でいきいきと活躍し、どのような働き方をしても組織に貢献できるよう、多様なキャリアパスを用意していく必要がある。

たとえば、育児休業収得者に配慮した人事評価制度の導入もその一例であろう。女性の育児休業取得率は上がってきたが、いざ休みを取ろうとするとマイナスの面がつきまとう。キャリア形成の遅れもそのひとつで、昇進・昇格で不利になるケースも多い。そのため企業は、それぞれの職務の特性や従業員個々人の価値観や働き方に対応できるよう、サポート内容を多様化し、制度の運用にも柔軟性を持たせる必要がある。柔軟な労働時間や臨機応変な就業形態など、出産・育児に配慮した職場は、そのまま男性にとっても働きやすい環境である。

さらに、仕事と家庭の両立に関して、近年では「ワークーライフーバランス(家事と生活の調和)」という考え方が注目されている。これからの社会においては、これまでのように経済的な豊かさだけを優先するのではなく、経済的な豊かさに加えて精神的な充足や生きがいとの調和が求められる。「個」を確立した個々人は、自分らしいライフプランを描き、仕事と家庭のバランスを積極的に追求していくだろう。

したがって、これからの企業にとっては、女性のみならず、男性や高齢者など、すべての社員が仕事と生活を両立させることを可能とする施策を整備することが、高い創造力をもつ人材を確保し、さらにその持てる能力を十分に発揮してもらうために不可欠である。個人から見て魅力ある職場環境を整備することが、企業の人材の確保、能力発揮の観点からも重要だ。

こういったワークーライフーバランスの考え方を企業戦略の一環として組み込んでいくことが、長期的にみて、競争力の高い企業の基盤をつくることになる。なお、この両立支援の対象とされる「生活」には出産・育児のみならず、介護、ボランティアといった社会的活動なども含まれるべきだ。

そして、両立支援の実現には、制度を整備するだけでなく、職場での運用が不可欠である。たとえば、企業によっては女性の活躍機会が拡大してきた結果、最近では会社の重要な戦力として組織のかなめとなる女性社貝が育児休業を取得するケースが増えている。そうなると、パートや派遣社員など、臨時で採用した代替要員では穴埋めが難しく、その組織にとっては人きな痛手となる。それを避けるためには、日頃からお互いの業務をカバーし合えるような化事のやり方や情報の共有化など、職場での運用と周囲の理解が重要になってくる。

さらに、両立支援に取り組む際に考慮しなくてはならないのは、ワークーライフーバランスが女性支援策にとどまらないようにすることである。両立支援と男女の均等施策は車の両輪であり、企業における仕事と家庭の両立支援策がいくら充実しても、男性の働き方(長時間労働)が見直されなかったり、女性の職域拡人が実現しなければ、うまく機能しないだろう。
<直言篇48>

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現オムロン株式会社)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。 日本経団連・国際労働委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名誉文化博士。中国・北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協会)名誉会長。公益財団法人・藤原歌劇団・日本オペラ振興会常務理事。エッセイスト。